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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
430/461

EP430:伊予の物語「企みの胯下(たくらみのこか)」 その5~左大臣、股下をくぐる~

つまり、菅公は時平様のこのごろの態度を真っ向から批判したのね??!!

幼子が詠んだ和歌だって皮肉まで加えてっ!!

兄さまの自業自得だから仕方が無いけど、太政官の最上席に就く左大臣を公卿達の前で、あからさまに侮辱するなんて!!

自尊心(プライド)の高い人なら耐えられないっ!!

カチン!ときて激怒するかも?!!

兄さまは大丈夫?


顔色をうかがうけど、少し青ざめたように見える、我関せずのような無表情。


菅公に突っかかるようなそぶりも無いのにホッとした。


判者(はんざ)


「ゥオホンッ!!」


と咳払いし、ざわめきをねじ伏せるように、閉会の挨拶をのべ、『花見の歌合せ』は後味の悪い幕引きとなった。


雷鳴壺に戻る途中、茶々(ちゃちゃ)に呼び止められ


「ねぇ!最後のアレってどういうこと?」


応えようとすると、臺与(とよ)が割って入り


「どうって、帝が寵愛する左大臣に花をお持たせになってということよ!

結果は明らかに右の勝ちだったのに、蔵人頭(くろうどのとう)・藤原菅根(すがね)さまが判者(はんざ)に耳打ちしたのを見たでしょ?

そうまでして帝と左大臣の結託を印象付けようとしたことに、右大臣様はご不快の念を示されたという事よ。」


茶々(ちゃちゃ)


「でも!帝のご意向なら、右大臣様も納得なさってるでしょ?」


臺与(とよ)が肩をすくめ


「さあ?お若い帝を左大臣が篭絡(ろうらく)したという認識をもつ公卿達は、反発して右大臣側につくかも?

どちらにしても、帝と左大臣の結びつきが強調され、右大臣と対立する構図を周囲に知らしめたってことね。」


茶々(ちゃちゃ)が納得したようにうなずき


「ふぅん。そうか。じゃあ、右大臣様は公卿達に低姿勢でご機嫌取りをするとか、よっぽどのことをしなければ、今後、仲間外れにされるってことね?

今はそういう状況ってことが、この歌合せで、周囲に明らかになったのね?」


自尊心(プライド)の高い道真(みちざね)様が、若い兄さまや帝のご機嫌取りなんてするかしら?


もし上皇に、対立の仲裁を頼んだりしたら、それこそまた、出自の高貴な公卿たちの反発を招くかも?

自分たちの位を飛び越して、上皇が道真(みちざね)様を権大納言に抜擢されたときみたいに。


道真(みちざね)様は苦しい状況に追い込まれてらっしゃる。


でも、兄さまはそれでいいの?


道真(みちざね)様の恨みを買ってもいいの?


数日後、兄さまが逢瀬にやってきたとき、その意図が明らかになった。


歌合せでの出来事の意味を訊ねると、兄さまはニヤッと口を歪めて笑い


「そう。臺与(とよ)の言う通り。


私は『軽佻浮薄(けいちょうふはく)傲岸不遜(ごうがんふそん)』などと公然と菅公に揶揄(やゆ)された。

そして『帝と結託し、正道の(まつりごと)を妨げている奸臣(かんしん)である』と公言され侮辱されたも同然。」


ん?

極端ね?


「そこまで(おっしゃ)って無いと思うけど、でも、それに何の意味があるの?」


兄さまは唇に指を当て、面白そうにほほ笑み


「あの菅公の発言があったおかげで、『左大臣は菅公に恨み(・・・・・)を持って(・・・・)当然(・・)』と皆に印象付けることができた。」


ん?

首を(かし)


「どういうこと?」


兄さまはますます口を歪め、


「無能のフリをして菅公が私を侮辱するように仕向けた。

周囲には『胯下(こか)(じょく)(股下をくぐる屈辱)』に耐える姿を見せつけることで、将来、私が菅公に仕返ししたとしても、『(かん)(しん)のように(つい)に身をたて用を達した』と皆に認識されれば、作戦は成功なんだ。」


揺るぎない、確固たる口調で呟いた。


(*作者注:「胯下(こか)(じょく)〔史記、淮陰侯伝〕」韓信が股の下をくぐる屈辱に耐えたのち、戦功をあげ大きな成功を収めたという故事)

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

菅原道真(みちざね)びいきの後世の歴史では、時平は天然の悪人なんでしょうけど。

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