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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
429/473

EP429:伊予の物語「企みの胯下(たくらみのこか)」 その4~右大臣、不公平な判定に憤る~

ムッ!として


「嫌なら離れた席に行きなさいよっ!!」


臺与(とよ)が大きなタレ目を細め、鋭い横目で睨みつけ


「もうここしか空いてないのよっ!!『傾国の鬼女』は黙ってなさいっ!!」


怒りをぶつけ、プンとソッポを向いた。


はぁ~~~~~。

他の元恋人たちにも、恨まれてるだろうな~~~。

兄さまを独り占めした挙句、腑抜(ふぬ)けにしたって思われてて。


しょうがないけど、やっぱり(へこ)む。


集まった人々のざわざわした雰囲気をピリッと引き締めたのは、先触れの内侍(ないし)


「帝が御渡りでございます」


と告げた声だった。


全員が立ち上がり、帝が出御(しゅつぎょ)なさり御帳台(みちょうだい)にお入りになるのを見守った。


判者(はんざ)が開会の挨拶(あいさつ)をのべると、『花見の歌合せ』が始まった。


左、右と順番にお題に沿った和歌が講師(こうじ)によって詠みあげられ、招集された様々な身分の歌人たちが念人(おもいびと)として、自陣の和歌の長所を褒め上げ、相手の和歌の欠点を攻撃した。

それを聞いて判者(はんざ)が勝敗を決し、その理由である判詞(はんし)をのべた。


私が注目したのは、やっぱり、お題『(うぐいす)』での右大臣・菅原道真(みちざね)様の和歌


(うぐいす)の 声にぞ知るる 春の色 宿醸(しゅくじょう)すれば 邑老(ゆうろう)語らふ


(うぐいす)の声によって春の訪れを知ることができる。昨年から醸造しておいた酒を酌み交わせば、村の長老も語り合う。)』


確か、道真(みちざね)様が讃岐(さぬき)国の国司を務められたときに、詠まれた漢詩に同じような句があった気がする。


桜の木の下で、(うぐいす)の声と、老人たちからその土地の話を聞きながら、醸造した酒を酌み交わしてワイワイやる!っていう光景が思い浮かんだ。

のんびりした春の午後って感じがいいなぁ~~と思った。


(とどこお)りなく歌合せが進行し、僅差(きんさ)で左方が勝って迎えた最後のお題は『花』で、歌人は左が左大臣・時平様、右が参議・藤原有実(ふじわらのありさね)様。


兄さまの和歌ねっ!!


いい和歌ができたかしら??!!


ドキドキしながら左方の講師(こうじ)が読み上げるのを聞いてると、(みやび)な声で


「春の花 ふわりと風に とびゆけば 手にとらまへん うたかたの色


(春の花がふわりと風に舞っていくと、つかまえようとしてもできなくて、ただ儚い色だけが残る。)」


う~~~~ん。

『ふわりと』なんて可愛らしい言い回しだけど・・・・。

『とびゆけば』とか『手にとらまへん』とか『うたかたの色』とか、直接的だし無駄が多いしありふれてるし、何より全体的に『幼い』感じがする。


これは、・・・・ヤバいかも?


思いながら右方の和歌を聞く。


「春かぜに 散りくる花を ながむれば 袖にとまらぬ ものと知りつつ


(春風に舞い散る花を眺めると、袖にとめることはできないと知りながらも、つい手を伸ばしてしまう。)」


そうねぇ。

こちらも工夫は無いけど、手に入らない『憧れ』を散る花と重ねてるところがちょっとだけ(おもむき)がある。


偉そうに言えないけど。


もしかして、兄さまの・・・・負け?


(もみじ)更衣が心配そうにチラチラ、こちらの表情を窺い


「ね?伊予?こんなこともあるわよっ!左大臣だっていつも完璧な殿方じゃないってことよっ!気にしないでっ!!」


って言われたけど、歌人に詠ませるなら選ぶだけでしょ?

もっとマシなのを選べばいいのにっ!!

もぅっ!誰に頼んだの??!!


イライラしてると念人(おもいびと)たちが順番に自陣の和歌の長所を言い立て、判者(はんざ)が腕を組んでウンウンと頷きながら両陣の主張を吟味してる。


判者(はんざ)が組んだ腕をほどき、意を決したように口を開きかけた時、どこからか、蔵人頭(くろうどのとう)の服装をした男性が近づき耳打ちした。

判者(はんざ)がその蔵人頭(くろうどのとう)にウンと頷き、


「では、判定を申し上げる。勝者は左!左方の句とします!!その理由は・・・・」


やっぱり・・・兄さまの負け・・・

ってえぇっっ???!!!!

ウソッ!

勝ち???!!!

どう考えても子供っぽい、残念(あんまり)な出来だったのに??!!

どーゆーこと??

疑問でいっぱいになっていると、判者(はんざ)の言葉を聞き終えた右大臣・道真(みちざね)様が


パシッ!


と扇で膝を打った。

人々が固唾を飲み、道真みちざね様に注目する。

険しい表情、重々しい声で


「これは、驚きの判定ですな。

左方は幼子を方人(かたうど)になされたようにお見受けしますが!

それともご自身で詠まれたのですかな?

ただでさえ、時平殿の近頃の、軽佻浮薄(けいちょうふはく)傲岸不遜(ごうがんふそん)な態度はいかがなものかと存じておる上に、このような偏った判定が帝の御前で、堂々とまかり通るとなると、正道(せいどう)(まつりごと)がこの世に成り立つかどうかも疑わしくなりますな。」


それを聞いた人々が


「そうだな!全くだ!」


「何たることっ!ゆゆしき事態だっ!」


「まさか!大げさなっ!」


・・・・・・


口々に騒ぎ始め、ザワザワとした雰囲気になった。

(その5へつづく)

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