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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
428/461

EP428:伊予の物語「企みの胯下(たくらみのこか)」 その3~左大臣、天性の色男と判明する~

兄さまは意味が分からないようにキョトンとして


「なぜ?一緒に寝たくないの?」


ウウンと首を横に振り


「だって、兄さまに悪い噂があるのよ!知ってる?

女色に溺れて、政務をおろそかにして、仕事でも失敗するしって・・・・・悪く言われてるって聞いたわ!」


兄さまが眉をひそめ


「それが、浄見のせいだって言われたの?」


「直接じゃないけど、原因は私と結婚したこと以外にないでしょ?

私のせいで、兄さまが、兄さまの名声に傷がついたり、地位を失ったり、権威が失墜したり、とにかく、兄さまにダメ男になってほしくないからっ!!」


言葉だけ聞くとキツイことをさんざん言ってるのに、兄さまは意にも介さないように、微笑みを浮かべ近づく。

私の腰に両腕を回し、引き寄せながら


「ダメ男になった左大臣は嫌い?」


鼻がくっつきそうな距離で囁く。

熱い湿った息が唇にかかる。


頬が熱くなり、頭に血がのぼって、思考力が奪われる。


ドキドキしすぎて、頭が真っ白になり、何を言えばいいのかわからなくなる。


ダメダメッ!


いつも色仕掛けに負けてしまうっ!!


ムッと怒りを思い出し、冷静さを取り戻し


「ダメよっ!今日は帰ってっ!ご家族のためにも、地位を失うわけにはいかないでしょ?」


顔を離し、スッ!と無表情になり


「浄見もやっぱり、他の女子(おなご)のように私の地位が目当てなのか?」


今更、バカげたことを言うのにイラ立ち


「そうよっ!!私の夫は左大臣でなければイヤよっ!!」


口をとがらせ睨みつける。


ふぅっとため息をつき、頬に触れ、親指で唇をなぞり


「大丈夫。浄見が心配するようなことにはならないよ」


いいことを思いついたようにニヤッとして


「じゃあ今夜は別の女子(おなご)のところに行くとしよう!」


弾んだ声で呟く。


嫉妬させようとしてる?


ムッ!としつつ無言で睨みつけてると、クルッと背を向けて立ち去ろうとした。


我慢できなくなって思わず、後姿の袖をひっぱり


「それならここにいてっ!!」


兄さまは素早く振り返り、私を抱きしめ、むさぼるように口づけを交わした。

唇を離すと、


「もし、本当に地位を失ったら、四郎に雇ってもらって雑色にでもなろう。

そうなれば、浄見はどうする?私を捨てるつもり?」


「もし兄さまが家族にも捨てられ、惨めな境遇になったら、私が養ってあげる。

女房でも侍女でも何でもして。

それとも、山で二人で、狩りをしたり、蜜柑の木を植えたり、農業をして暮らすのもいいわ!」


大変そうだけど!!!


二人っきりって楽しそうっ!!


ギュッ!と抱きしめる腕に力が入り、


「それも楽しそうだな。」


呟いた兄さまの唇に、唇を寄せ、ハムッ!と(くわ)えるように愛撫した。


熱い、長い、しなやかな舌が、こらえきれないように、中に入ってきて、掻きまわす。


痺れるような快感に溺れ、その夜は結局、朝まで仲良くして過ごした。


え?悪いほうへ流されてるって?

まぁね。

でも、兄さまが落ちぶれても、二人でいられれば平気っ!!幸せに暮らせるっ!って腹をくくったから。

ご家族には申し訳ないけど。


 数日後、いよいよ『花見の歌合せ』が催されることになった。


そういえば、兄さまはちゃんと腕のいい歌人を雇った?

いい和歌を詠んでもらった??


心配しつつも、兄さまのすることにイチイチ口出しして『うっとおしい!』って思われてもイヤなので、黙ってた。


だけど、


『下手な和歌を公卿たちや帝の前で発表すれば、大恥をかくわよ??!!!』


とか、


『せめて事前にチェックさせてもらえばよかった!』


とか次から次へと不安が押し寄せる。


当日、予定された時刻に、(もみじ)更衣と二人で仁寿殿(じじゅうでん)へ渡った。


帝が出御(しゅつぎょ)なさるので御帳台(みちょうだい)(平安時代に貴人の座所や寝所として屋内に置かれた調度のこと)が設置され、帝はその中からご覧になる。


歌を書いた色紙を置く州浜(入り江などをかたどった飾り台)が中央に置かれ、左右には公卿とその歌を作った方人(かたうど)が並び、左右の列の前方には講師(こうじ)(歌を読み上げる役)、その真ん中には判者(はんざ)(勝敗を決める役)が座っている。


左方は左大臣である藤原時平様、右方は右大臣である菅原道真(みちざね)様が自陣を取りまとめた。


歌人ではない見学の妃嬪と女房たちは、几帳の後ろから歌合せを見学した。


几帳の後ろで(もみじ)更衣に弾んだ声で


「楽しみですわね~~~!どんな和歌が詠まれるのかしら?どちらが勝つのでしょうね?」


(もみじ)更衣が扇で口元を隠し


「ん~~~、公卿達の中では右大臣がダントツに詩心があるでしょ?だから右方が勝つでしょう?何か賭ける?」


首をブンブン横に振り


「いいえっ!私も正直、勝つのは右方だと思いますからっ!」


って会話をしてると、隣の見学の席に、誰かがやってきた気配があった。


「ぅ”ん”んっ!!」


咳払(せきばら)いが聞こえるのでそちらを振り向くと、臺与(とよ)が着席しながら


「あ~~ら、嫌だわ!誰かさんのお隣なんて!ねぇ?萄子更衣(どうここうい)さま?」


臺与(とよ)のさらに向こう側の隣にお座りになる萄子更衣(どうここうい)に話しかけた。

(その4へつづく)

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