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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
425/461

EP425:伊予の物語「薹立ちの菘菜(とうだちのあおな)」 その4~伊予、勘違いに気づく~

兄さまが寝返り、私を見つめ


「上皇の権力が朝廷から一切無くなるまで。上皇の側近である菅公や、上皇側の公卿達を権力の中枢から一掃(いっそう)する。」


「ふ~~~ん。じゃあ、それまで結婚を公表しなくてもいいわ!今まで通り、宮中で伊予として過ごします。」


不機嫌そうに眉根を寄せ


「新妻に毎日会えないなんて、酷い話だな。」


尖らせた唇を摘まんでひっぱり


「ウソッ!そんなこと思ってないでしょ?

それに、上皇の権力が衰えるのを待つ、なんて、それこそ何十年もかかるんじゃない?お歳は確か三十四?五?で、まだお若いし。

でも、私のために無理やり危ない橋を渡る必要なんてないし、上皇(とうさま)だって兄さまとの結婚を発表すれば諦めるかも!

それほど私にこだわりは無いと思うけど。

どちらにしても、左大臣邸で年子様に気を使いながら新婚生活をおくるより、雷鳴壺で(もみじ)更衣と楽しく暮らします!

殿は宿直のたびに通ってくれるんでしょ?」


甘えるように上目遣いで見つめる。


上半身を起こし、覆いかぶさる兄さまの、高い体温のせいで、白檀(びゃくだん)と汗の混じった匂いが鼻孔を満たし、官能が刺激される。


硬い筋肉の(よろい)を奧に秘めた、しなやかで湿潤な胸元が、はだけた胸元の素肌に密着する。


そのあとの濃厚な口づけを思い出し、ひとりで赤面しつつも、


でも、今日初めてお目にかかった菅原道真(みちざね)様は、『教養ある』って私を褒めてくださったし、相手の地位によって接する態度を変えない、公平で実直なお方に見えた。


(まつりごと)も清廉で公平な理念を貫いておられていそう。


あの方を朝廷から排除することが、どう考えても正しいとは思えない。


兄さまは本気なのかしら?


『正式な妻になるのを急がない』ってもう一度ちゃんと兄さまに伝えよう!!


悪いことをしてまで、結婚したって嬉しくないし。


考え事をしながらも、いつの間にか、というか、やっと、三条大路に差し掛かった。


さっきから砂利や石を踏んで足が痛い!


履物(はきもの)が無い不便さを、身にしみて感じ始めたころ、後ろから近づく(ひづめ)の音に気づいた。


できるだけ路の端により、馬をやり過ごそうとすると、歩を緩めた気配がし


(うち)まで送ろうか?履物(はきもの)無しでは大変だろ?新妻さん?」


低くて硬い、身体の奥に響く声。


思わずニヤケながら振り向き


「ええ!ぜひお願いっ!」


一旦降りた兄さまが、私を馬の背に抱えあげてくれ、その後ろに(あぶみ)を踏んで乗る。


馬の腹を軽く蹴って合図し、馬を歩かせた。


兄さまが


(もみじ)更衣が伊予を連れて里帰りしたというので、屋敷を訊ねると、四郎を見つけてね。

聞けば上皇が突然立ち寄ったという。

(もみじ)更衣はとっくに内裏に戻ったというから、伊予も一緒に帰ったのかと訊くと、『ひとりで歩いて帰った』というから、めぼしい路を何本か馬で行ったり来たりして探したんだ。」


へへへ!と頬が緩む。


「ありがとう!」


背中に感じる体温と(たくま)しい体を意識して、胸が高鳴る。

この人の妻になったんだ!

って幸せをかみしめてた。


ハッ!と思いついて


「あっ!そうだ!年子様に一度ご挨拶した方がいいかしら?」


「なぜ?宮中にいることにしたんだろ?」


「だって・・・・、その、もし、こないだの、アレで、子供ができていたら、左大臣邸で出産することになるでしょ?

その前に、ちゃんと年子様にお世話になりますってお願いしなくちゃ!」


兄さまが後ろでふぅ~~~っとため息をついたような気がした。


「あのね、浄見、こないだの、アレでは子供はできないよ。」


「えっ??だって!なぜ?夫婦がすることをしたでしょ?」


「あぁ~~~、ええっとぉ~~~、その、子種をね、浄見の中で出してないから、ね?アレだけでは子はできないよ。」


勘違いにビックリして


「えぇっ???はぁ??!!そうなのっっ??」


気が抜けたような、安心したような、ガッカリしたような。


『やっぱり、私は本当の妻にはしてくれないの?』


馬の上で危ないけど、振り返って、声に出さず、恨めしげに、ジトッ!と兄さまを見つめてると、困ったようにボソボソと


「・・・あの、もし、今、浄見に子ができて、出産のときに浄見を失うようなことになれば、子が無事でも、私はきっとその子を恨んでしまう。

愛する女性を殺したと、我が子に八つ当たりするかもしれない。

それぐらい、万が一にも、浄見を失いたくないんだ。」


半信半疑!で口をとがらせ


「ふぅ~~~ん。じゃ、そういうことにしてあげる。」


兄さまがまた、ふぅっとため息をついた。


「わかってる。臆病で、利己的なだけだって。

母子ともに無事だったとしても、子を持てば浄見と過ごす時間が少なくなるだろ?

我が子に嫉妬なんてしたくないし。まだ早いと思う。」


「要するに、私を愛する時間がたっぷり欲しいのよね?

でも、兄さま、覚悟を決めて前に進むことは大切な事よ!」


兄さまにお説教!なんて滅多にない機会(チャンス)っ!!

ちょっと楽しくなった。


目を丸くしてキョトンとしてる兄さまに


「あのね、私もついこの間までは人生の変化を怖れて前に進めなかった。

でも、こう考えることにしたの!

菘菜(あおな)は花が咲く前の菜っ葉も、咲いた花も、種になっても、収穫されて大事に使われて重宝されるでしょ?

そんなふうに、自分に自信が無くても、誰でも、いくつになっても、役割を見つけてくれ、望んでくれる人が、この世のどこかに必ずいる!って気づいたから、次の段階へ進むのが楽しみになったの!」


兄さまの目を見て、(さと)すように呟いた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

白菜やキャベツなどのアブラナ科の野菜はすぐに交雑し、野生に(かえ)る気満々なのが、どことなく頼もしいですよね!

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