EP419:伊予の物語「絶壁の親鶫(ぜっぺきのおやつぐみ)」 その3~伊予、人外扱いされる~
丹後が
「あなたにお聞きしたいことがあるの。左大臣様の北の方に呪いをかけたって本当?
若君・姫君の口がきけなくなったって聞いたけど?
左大臣様を独り占めするだけでは飽き足らず、御子様たちを呪い殺そうって魂胆なのっ!!!!」
ムッ!としブンブンと首を横に振る。
「そんなワケないっ!!呪いなんてかけてないし、もうすぐお二人とも治るわっ!!
私の贈り物のせいじゃないっ!
年子様の若君は平気だものっ!!」
臺与がタレ目を細め、フフンと鼻で笑いつつ
「年子様より廉子様のほうが時平様の寵愛が深いからでしょ?
あなたが負けるのはご正室の廉子様だけ、だから、その子供たちを狙った?
でしょ?」
「違うっ!呪いなんてかけてないっ!!」
臺与が豹変してタレ目を吊り上げ、激怒の表情で
「嘘つきっ!!じゃあなぜ子供たちは話せなくなったのっ!!あんたが贈り物に呪いをかけたからでしょっ!!それ以外の理由があるっ?!
っうっ!!ゴホッッ!ゲホッ!ゴホッゴホッッッッ!ッウッ!ゴホッ!・・・・」
急に臺与が激しく咳込み始めった。
「ゴホッッッゴホッウウッーーーーッゴホッッ!!!」
前かがみになり、床に手をつき、肩を前後に大きく揺らして際限なく咳込み続ける。
心配になって背中をさすろうと近づくと、
パシッ!
手を払いのけると同時に、自分の口を手で覆い
「ゥゥッッウエッ!!ッエッエッッ・・・・オエッ!!」
と手の中に何かを嘔吐した。
何かの病?心配になって
「大丈夫?どうしたの?」
「・・・・これよっ!!」
臺与が差し出した手のひらの上には、黒い長い髪の毛をクルクル丸めたような塊があった。
丹後がそれを見て、口に手を当て、頭のてっぺんから出るような高い声で
「まあーーーーっっっ!何っ!!気持ち悪いっ!!髪の毛ねっ!!
呪いかしら?
臺与にかけた呪いが、体の中で髪の毛の玉になって口から出てきたのねっ!!!
大変っ!!まだ呪いが体の中に残ってるかも!!!」
騒ぎつつ、私を横目でチラッと見て
「まぁーー!!一体誰がこんな呪いをかけたの??!!!」
臺与が袖で口元を拭い
「この頃、喉がイガイガして、寒気がずっとしてたのよね。
誰かに呪いをかけられたんだわ!
私を恨んでる人に心当たりは一人しかいない・・・・」
私を睨み付け
「あなたねっ!!私を恨んで、無意識に呪いをかけたんじゃない??!!!
それが体の中で髪の毛の塊になって喉に引っかかってた!
だから喉に違和感があったのよっ!!
そうでしょ?
時平様と仲が良い私を、今までずっと恨んでるんでしょ??」
丹後が怒鳴り声で
「正直に言いなさいっ!!この化け物っっ!
あんたは不思議な鬼の力で予言できるでしょっ!!
正体を表せっ!この鬼女めっ!!悪鬼めっ!!」
えっ??!!
予知夢のこと??!!
なぜ?丹後が知ってるの??!!
影男さんと兄さま、竹丸と梢しか知らないはずなのにっ!!
・・・・まさか、望子が?影男さんとの話を盗み聞きして、臺与に話した?
四人が話したんじゃないなら、それしかないっ!!
でも、言い返さなきゃっ!悪鬼にされるっ!!
「ちっ違うっ!!悪鬼なんかじゃないっ!!嘘よっ!!人を呪ったことなんてないっ!!」
叫びながら、悔しくて、情けなくて、ボロボロ涙を流してた。
鬼じゃない証拠なんてないし、噂は際限なく広がるかも!
宮中から放り出されたら、どこへ行けばいいの?
上皇のところ?
兄さまが結婚して引き取ってくれる?
どっちにしろ、椛更衣や茶々とは離れ離れっっ!!
歯を食いしばりながら、ボロボロ泣いてると、丹後が臺与に
「ねぇ、もう行きましょう!これ以上追い詰めると、鬼の力でもっとひどい復讐をされるかも!怖いわっ!!」
半分信じて怖れてるような、半分からかうような口調。
臺与は顎を上げ、フンッ!と鼻で笑い
「いい気味よ!これであなたは宮中にいられなくなる!せいせいしたわっ!じゃあねっ!」
丹後と臺与が立ち上がって壁代をめくり、雷鳴壺の東廂に出ると、壁代の帷の隙間から呆然と私の方を見てる桜と目が合った。
全部聞かれてた!!!
噂がすぐに広まってしまうっ!!!
(その4へつづく)