EP414:伊予の物語「浮舟の刺(うきふねのとげ)」 その3~伊予、激情に流される~
あっ??!!!
やっちまった?!!!
「あの、予知夢?を見たのね、で『警戒するように!』って伝えようとしたら、その日の朝にはもう、負傷して勤めに出なくなってたの。」
影男さんは面白そうに目を細め、微笑みを浮かべ
「予知夢・・・・ですか。そんな能力があるんですか。だから、あなたには神秘的な魅力があるんですね!納得しました。」
感心したように呟く。
「でも、何を取り返そうとしたの?そうじゃなきゃ肩を負傷しなかったでしょ?」
影男さんが微笑みを引っ込め、真顔になり
「いいえ。大したものではありません。あなたには関係のない、仕事上の、大切なものです。」
「あの暴漢は誰なの?知り合い?なぜ襲われたの?」
首を横に振り
「知りません。強盗でしょう。銭を奪おうとしたのかもしれません。」
アレ?
「仕事の大切な物を盗まれそうになったんでしょ?
極秘情報とか?
影男さんが母上に仕える人間だって知ってて狙ったんなら、通り魔的な犯行じゃなく、母上に関係する物を狙った犯行じゃない?
母上に敵はいないの?」
影男さんが真剣に考えこみ
「いいえ。おそらく、主と関係ありません。どちらにしろ、あなたは気にしなくていい。
見舞いに来たというなら蜜柑をむいて食べさせてくれませんか?」
ん???
やけに話を逸らしたがるっっ!!
何かを隠してる?
もしかして暴漢の素性を知ってるの?
何か裏があるの??
気になるっ!!!
と思ったけど、お見舞いに来たのは確かなので、蜜柑を手に取り、モソモソと影男さんに近寄る。
手早く蜜柑をむき、ひと房摘まんで口に運ぶ。
あれ?左手は使えるから、ひと房ずつにほぐせば、自分で食べれるでしょ??
疑問に思いつつ、もうひと房、もうひと房、と口に運ぶ。
影男さんが『あーーーん!』と呑気に口を開けてたと思ったら急に左手で
ギュッ!!
蜜柑を運ぶ腕を握った。
グイッ!
その腕を引っ張り、押し下げ
顔を近づけたと思ったら
「口づけしてくれれば、もっと早く治る気がします。」
鼻がくっつきそうな距離で囁く。
兄さまより、薄い薫物、濃い汗、の匂い。
男らしくて、嫌な匂いじゃない。
ドキッ!
としつつ、これじゃあ望子の言う通り尻軽浮気女だなぁ~~!って思って
「ダメっ!大人しく療養しててっ!!」
キッパリ言ったのに、掠れ声で
「気づいてますか?その言葉が、もっとそそるってことに?」
囁きながら、唇を重ねた。
熱い、太い、舌が中に入る。
かき乱され、陶酔に浸る。
兄さまの顔が目にチラつく。
ゾクッ!
罪悪感が刺激になり、官能が加速したような気がした。
「・・・んっ!もう終わりっ!」
影男さんの胸を押し、唇を離した。
ふぅ~~~!ヤバいっ!
危うく夢中になるところだった!
本気の『浮気』?になるところっ!!
影男さんが無表情の三白眼に戻り、口の端だけで微笑み
「肩が治ったら、続きをしましょう。」
ヤッ・・・バッッ!!!
ドキドキしつつ慌てて立ち上がり
「じゃ、元気でね?!!また、来るかも?わからないけど?じゃねっ!!」
手を振って急いで帰ろうと、背を向けると
「あなたの、全てが、好きです。どうしようもなく・・・・愛おしいんです。」
影男さんが言い放った。
・・・・・
御簾を押して廊下に出ると、梢が待ってくれてた。
ちょうどそのとき、磯鵯が、目の前の庭木から、空へ飛び立った。
羽の艶やかな青と、お腹の鮮やかな赤を輝かせ、微かな胸騒ぎを残して。
数日後、帝のお伴で兄さまが雷鳴壺を訪れた。
帰り際、話があるというので、私の房に案内した。
向かい合って座り、白湯を注いで差し出すと、すぐに碗を手に取り、渇きを潤すように、一気に飲み干す。
「影男が負傷したんだって?見舞いに行った?」
疚しさで一瞬、ギクッ!としたけどウンと頷いた。
「つい先ほど、直廬に臺与が来てね、萄子更衣を通じて、ある上書を、皇太后に出すというんだ。」
萄子更衣は臺与の主。
皇太后が民間の娘から選んで萄子更衣を入内させたから、後ろ盾なのよね?(*作者注:EP153:伊予の事件簿「不承の富貴栄華(ふしょうのふうきえいが)」にあります)
「皇太后に?どんな内容の?」
(その4へつづく)