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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
410/508

EP410:伊予の物語「逡巡の款冬花(しゅんじゅんのかんとうか)」 その6~伊予、款冬花の苦みを味わう~

兄さまは驚いたように眉を上げ、ニヤッと笑い


「そう。

内容は『春を待つ』という和歌を、誰かと交わしたものだが、うがって読めば『謀反の意がある』と読めないことも無い。

これが本物なら上皇側の人間は是が非でも手に入れ、処分しなければならない。

だから何かがおかしいと気づき、よく調べてみた。

上皇の文を何度も見た事のある人間にしか、分からないぐらい巧妙に似せてあるが、この筆跡は上皇のものではない。

私が(いさ)んでこの文を証拠に『上皇に謀反の意あり』と(おおやけ)に騒ぎ立てれば、偽物を掴まされたという恥をかくだけでは済まない。

上皇を(おとし)めようとしたと罰せられるかもしれない。

その上、いかがわしい質屋に何度も私が通っている時機(タイミング)で幼女売春の事実を公表する狙いは、明らかだ。

上皇側の人間で私を(おとし)めたいものが、この偽の文を仕組んだ。」


忠平(ただひら)様がビクッ!としたように肩を震わせ


「私じゃないぞっ!!そんな文の存在も知らなかった!」


慌てて首を横に振る。


影男(かげお)さんがフッとため息をつき


泉丸(せんまる)ですね。」


「そうね。上皇に近い彼なら、筆跡も紙も似せて書くのは簡単だし。

それにしてもムカつくっ!!兄さまに不名誉な噂を流してっ!!そこまでして権力を奪いたいの??!!信じられないっ!!」


プンプンしながらも『あっ!』と思い出して、天ぷらを包んだ竹皮を開き


影男(かげお)さん!フキノトウをありがとう!天ぷらにしたから食べてみて!」


差し出すと、忠平(ただひら)様がまっさきに摘まんで口に入れ


「うん!うまいっ!!」


影男(かげお)さんがオズオズと手を出し、食べると


「問題ありませんね。」


兄さまは?


竹皮を差し出し見つめると、不機嫌な顔で


「伊予と二人きりになったら食べる。話は終わったし、もういいだろ、四郎、東の対の屋を借りるぞ。行こうっ!」


私の手を引っ張り、東の対の屋へ向かった。


東の対の屋で寝る支度をして、塗籠(ぬりごめ)の寝所であとは寝るだけ!となった。


フキノトウの天ぷらを兄さまに差し出すと、


ヒョイ!


摘まんで口に入れ、モグモグしたあと、眉をひそめた。


「苦いっ!!花芽は栄養も多いが、獣に食われないよう苦くなってるから好きじゃないっ!!」


確かに!


「でも、人生で一番いい時期の、きれいな花が咲く前に食べられてしまうフキノトウも気の毒ね!」


人間でいうと子供時代に食べられるようなもの?


あっ!


思い出して、少し沈んだ気持ちになった。


「あの、確認したいんだけど、兄さまは、その、ええっと、昔ね、

まだ、私が小さいころ、よく一緒に遊んでくれたのは、その、『幼子』だからなの?

そもそも『幼い』から私のことを好きになったの?」


口にしたあと、後悔した。


幼いころから、自分は兄さまを未来の夫として見てたくせに、兄さまにはそれを否定するなんて。


そうじゃなくて!


『幼い子供』が好きなら、これからは付き合えない。


だって歳を取ってもっと大人になるから、この先は愛されないだろうし、恋人ではいられないのは当たり前だけど、そうでなくても、そういう性的嗜好なら、『見る目が変わる』のが正直な気持ち。


理解できないし愛せないと思う。


『無知な子供』だから安心して愛せる、そういう『全てにおいて自分より弱い相手』でなければ愛せないという性的嗜好の人は、何らかの原因があるなら可哀想だと思うけど、尊敬できない。


『安心して見下せる相手』でなければ愛せない人なら、好きになれない。


一緒にいたくない。


ドキドキしながら、兄さまを見つめ、(こた)えを待ってる。


兄さまは真っ直ぐな澄んだ瞳で私を見つめる。

春の光を反射する、融けかかった雪のように、透き通る美しさで微笑み


「私が食べたいと思ったことのある花芽は、


今までで唯一、浄見だけ、だよ」


ゆっくりと唇が近づく



甘い、口づけに混じって、ほろ苦い、フキノトウの味がした。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

款冬花(かんとうか)はフキノトウのことだそうです!

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