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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
408/505

EP408:伊予の物語「逡巡の款冬花(しゅんじゅんのかんとうか)」 その4~伊予、疑惑の兆しに戸惑う~

兄さまは忠平(ただひら)様をギロっと睨みつけ


「お前に話す必要はないっ!!」


忠平(ただひら)様が口を(ゆが)めて笑い


「ははぁ、やっぱり何か隠してるな?伊予には聞かれたくないんだろ?

もういいじゃないか、兄上、伊予に正直に打ち明ければ?

兄上の本当の好みは十歳前後の幼い少女で、今でも幼女を買うのをやめられない、と」


はぁ~~~~っっ???!!!

何言ってんの??!!!

言い返してよっ!!

兄さまっ!!

早くっ!!


ジリジリしてるのに、兄さまは無言で忠平(ただひら)様を睨みつけるだけ!


調子に乗った忠平(ただひら)様が揶揄(からか)うよう笑いながら


「伊予、知ってるか?

幼い子供を恋愛相手に選ぶのは、『成熟した大人の女性とは対等に付き合えない』という何らかの劣等感を抱えた男だけだと?

例えば、不能だとか、自信がないだとかで、いざというときに役に立たず女性に軽蔑されるのを怖れすぎるあまり、何も知らない子供を相手にするそうだ。

でも、ま、恋人の多さから言って兄上の『幼女好き』はそれが原因ではないだろうけど。」


不能?

有馬さんも言ってた気がするけど、

でも、何が悪いの??

確かに私は無知だけど!

だからって別に、兄さまを嫌いになんてならないっ!!!

って言おうとすると、


落ち着いた低い声で


「言いたいことはそれだけか?もう攻撃は終わりか?

私を不能者にしたいのか、浮気者にしたいのか、一体どっちなんだ?

まぁいい。では、東の対の屋を借りる。

私と伊予はこれから忙しいんだ。失礼するよ。

さぁ、行こう伊予。四郎の相手なんて大事な時間の無駄だ。」


促すように肩を抱かれて、そこから立ち去ろうと背を向けた。


「わっ、私の屋敷で勝手は許さんっ!!東の対の屋を使うだとっ!!やってみろっ!邪魔してやるっ!!」


忠平(ただひら)様の上ずった声が響く。

振り返り面白そうに眉を上げた兄さまが


「邪魔?

あぁ、伊予と仲良くしてるところを覗きたいのか?

いいぞ。見せつけるのも楽しいかもな。影男(かげお)と三人で寝たこともあったし。

なぁ!?伊予?!」


は??!!

あったけどっ!!

寝ただけだしっ!!

見せつけてないしっ!!


それに今、そんなこと言わなくていいでしょっ!!


ブチギレ気味に


「絶対ダメッ!!イヤッ!!目の前でって、無理に決まってるでしょっ!!」


唾を飛ばす。


恥ずかしさで顔が真っ赤になってるのも恥ずかしい。


その行為を思い出して、見られる想像をして、もっと恥ずかしくなって、頭が沸騰して、血が逆流しそうっ!!


もぅっっ!!!

変なこと言わないでよっ!!


頬を膨らませて口をとがらせてる。


なぜか真っ青になって、血の気が引いた表情の忠平(ただひら)様が


「・・・・わかった。もういい。勝手にしろ。そんな趣味はない。」


しょんぼり肩を落として、トボトボと主殿に引き下がり


キィッ!パタンッ!


妻戸を閉じた。


「さぁ行こうっ!東の対の屋へっ!!」


グイッ!


ゴキゲンな兄さまが、鼻歌を歌いながら手をつないで引っ張る。

東の対の屋へ入ると手を放し、両手で顔を包んだ。


筆で引いたような美しい目の中の潤んだ瞳。

薄い、酷薄そうな、少し開いた唇が(あか)(つや)めく。

体温の高い、親密なその奥に、ゾクゾクする興奮を覚えた。


「浄見、覚悟してきた?」


(かす)れた声で甘く(ささや)く。


快感の予感に、(うず)く。


心臓が飛び跳ねる。


鼓動が抑えられないくらい速く打つ。


ゆっくりと、唇が近づき、兄さまの湿った温かい息が、唇をくすぐる。

もう少し、というその時


若殿(わかとの)っ!!交渉成立だそうですっ!!今から来るなら取引してもいいって、質屋の主人から文が届きましたっ!!どうします?行きますかっ??!!」


妻戸の外で、竹丸の低くて通る声が、屋敷中に響き渡った。


チッ!兄さまが舌打ちし、ふぅっと息を吐き、


チュッ!!


素早く、軽く、唇に、口づけすると


「何度も通い詰めて、やっと交渉が成立したんだ。今から取引しに行かなきゃならない。この続きはまた後でいい?それとも、日を改める?」


モチロンっ!!

今夜がいい!!

ってわがまま言いたくなったけど、


「今夜は遅くなるの?じゃあ、また別の日ね?文を送るわ!私が逢う日を決めていいんでしょ?」


兄さまはウンと頷き


「ああ。竹丸に内裏まで送らせる。」


感触を確かめるように、唇を親指でなぞった。


ほっぺを摘まみ、


「私のだ・・・私の浄見だ」


ジッと見つめながら呟いた。


ウン!


って思いっきり頷いて、兄さまが出かける背中を見送った。


廊下に立って待ってる竹丸にイラっ!とし、恨みがましい目で睨みながら


「さっ!内裏へ帰りましょっ!お邪魔虫さんっ!」

(その5へつづく)

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