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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
406/505

EP406:伊予の物語「逡巡の款冬花(しゅんじゅんのかんとうか)」 その2~伊予、身辺警護の少女の身の上を知る~

次の日、雷鳴壺の(もみじ)更衣が御座(おまし)で書を読んでらっしゃる(かたわ)らで、私は(ひとえ)を仕立てる仕事をしてた。

調度品を布で拭き、(ほこり)をとる掃除してた(こずえ)が近くに来たので、何気なく


「ねぇ、(こずえ)はなぜ私の身辺警護(ボディガード)をしてくれることになったの?」


(もみじ)更衣には聞こえないくらい小さい声で話しかけた。


(こずえ)は、目と目の間隔が少し広い、丸いつぶらな目をした、小さい団子鼻のすぐ下に小さい口がある十二歳くらいの少女。

内侍司(ないしのつかさ)の女儒として雷鳴壺に潜入してる。


掃除する手をとめ、ぼぉっとした目で空を見つめ、ためらうように瞬きし、ポツリと話し始めた。


「四年前、(あるじ)が助けてくれたんです。

母が病で急死し、母の食封(じきふ)(財産)頼みで暮らしてた落ちぶれた貴族だった父は、職探しもせず、お荷物だった私をいかがわしい商人のところへ売ろうとしたんです。

母と知り合いだった(あるじ)が、どこからかそれを聞きつけて引き取ってくれたんです。

それが、八歳のころで、それからずっと、(あるじ)のところで侍女として仕えてました。

影男(かげお)さんが内舎人に昇進して、伊予さまの近くで警護することができなくなったので、私が見守る役目を命じられました。

武術や剣術を一通りは教わりましたが、影男(かげお)さんほどじゃありませんので、危険があれば知らせるのが主な役目です!」


「へぇ~~!若いのに波乱万丈ね?!!その、いかがわしい商人って何をしてるの?」


(こずえ)が無表情で視線を落とし、ジッと口をつぐんだので


「あっ!!ごめんっ!!思い出したくない嫌な事だった?言わなくていいのよっ!!ごめんなさいねっ?!!」


手を合わせて謝ると、(こずえ)が首を横に振り


「いいんです。その屋敷には私と同じか小さいぐらいの子供が数人いて、みんなで一緒にご飯を食べたり、遊んだり、寝たりしました。私はすぐに(あるじ)の元へ引き取られたのではっきりとは分かりませんが、夜、『お仕事』があるとどこかへ連れて行かれた子たちがいました。」


えぇ??!!


夜、八歳くらいの子供がする『お仕事』?


って、嫌な事しか思い浮かばない。


親のいない子を集めて、いかがわしい商売って、もしそうなら罰則は無いの?

取り締まる律令は無いの?


嫌悪感でムカムカした。


何とか元気づけたくて、(こずえ)の両手をギュッと握りしめ


「よかったね、そこから抜け出せて。でしょ?今の(あるじ)は夜に仕事なんてさせないんでしょ?」


一応確かめてみる。

多分、(あるじ)は、私の母上なので、悪人じゃない・・・・と思う。


(こずえ)はニッコリ微笑み、ウンと頷いて、


「はいっ!!よかったです!(あるじ)のお屋敷は広くて、お金持ちそうだし、ご身分も高そうだし、使用人がたくさんいたので、侍女といっても、ほぼ仕事はしてませんでしたっ!!木に(のぼ)ったり、庭を駆け回ってました!」


遊んでたの?

で、運動神経が良かったから警護役に見込(みこ)まれたの?!

う~~ん。

どうりでっ!!

宮中での仕事ぶりも私と同等かそれ以下?!!だし。

それに、十二歳って、まだ子供だしね~~~。


私が十二歳の頃には、既に、兄さまは会いに来てくれなくなってて、広い屋敷でいつもひとりきりで過ごしてた。


竹丸が、たまに持ってきてくれる、文や書や菓子が楽しみだった。


週に一度は上皇(とうさま)が会いに来てたけど。

・・・・これは義務みたいなもので、あまり嬉しかった覚えはない。

礼儀だ詩歌管弦の練習だとアレコレうるさいし、威圧的だし、緊張するし。


生きるための苦労を知らない、贅沢(ぜいたく)な悩みだけど。


 『雪見の逢瀬』の二日後の夕方、時平様と枇杷屋敷で逢うため、内裏の南側にある、兵衛(ひょうえ)の守る承明(しょうめい)門を出て、すぐの健礼(けんれい)門をくぐって内裏の外に出た。

そこで迎えに来てくれてた竹丸と合流した。


水干、括袴(くくりばかま)はただでさえダブダブでゆったりしてるから、そうは見えないけど、昔から竹丸はムチムチの『わがままボディ』。

大人になって声変わりし、低くてよく響くいい声になったけど、それ以外は子供の頃と同じ。

目がトロンとした二重で、頭が大きいところも同じ。


今も眠そうに欠伸(あくび)しながら


「ふわぁ~~~!姫ひとりで枇杷屋敷に行けますよね?私がついていく意味ってあります?じゃあ、もう解散しますか?若殿(わかとの)には『姫が一人で行きたがった』ってことにしてくださいよぉ~~!」


愚痴(ぐち)るのでムッとして


「ダメっ!!暴漢に襲われたらどうするのっ!!兄さまが激怒するわよっ!!食事が一日一回になるかもよっ!!」


竹丸はめんどくさそうにチッ!と舌打ちしながら渋々歩き出し、


「この頃、若殿(わかとの)は質屋に通ってるんですよぉ、知ってました?」


ウウンと首を横に振る。


「何かの捜査?」


「さぁ?質屋の主人と話し込んでましたけど、何も聞いてません。人払(ひとばら)いされ、二人きりでしたから。」


ふ~~~ん。


竹丸の声がウキウキと一段高くなり、


「あっ!!で、その質屋の裏山に、イイ感じの山菜が取れそうな場所があったんですぅ~~~!もうちょっとしたら(わらび)やゼンマイやフキノトウがゴロゴロ生えますよぉ~~~!タケノコももちろんありそうですしっ!!っか~~~っ!!ヨダレが出ますねぇ~~~!」


山菜ねぇ~~~。

どれも灰汁(あく)抜きが大変なやつよね?!!


「それにしても、兄さまがなぜ質屋を調べるの?」

(その3へつづく)

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