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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
403/505

EP403:伊予の物語「白頭老の雪里(はくとうろうのせつり)」 その6~伊予、仮初の達成感を味わう~

兄さまはウウンと首を横に振る。


ニンマリとほくそ笑み


「私が探った情報はまさにそれだったの!宿毛(すくも)様のところへ三日間通い詰めて、入手した情報っていうのは、橘公紀(たちばなきみのり)が阿波国の貢納物を事前に検査するという名目で、宿毛(すくも)様から藍玉(あいだま)を手に入れたってことよっ!!藍玉(あいだま)は一年前に開発されたばかりだけど、京の都でも大評判らしいのね、それのまとまった数を手に入れれば市で売りさばいて大儲けできるわ!それが橘公紀(たちばなきみのり)の狙いだったの!地位を利用して私腹を肥やすのがっ!!」


兄さまは険しい顔でウンと頷いた。


アレ?

でも喜ばない。

手ごたえがないので物足りず付け足す。


「で、内侍司(ないしのつかさ)の女儒を使って接待して、宿毛(すくも)様を気持ちよくさせて、藍玉(あいだま)をできるだけたくさん入手したんだわ!橘公紀(たちばなきみのり)が売りさばく前に押さえれば、貢納物横領の完全な証拠になるんじゃない??」


兄さまはふぅ~~~っと長い溜息を吐き


「そんな事のために、酒席に乗り込んだのか?まだその藍玉(あいだま)?とかいう物は貢納物ではないから、正確には貢納物横領の罪にはならない。どちらかというと、内侍司(ないしのつかさ)の女儒を私的な酒宴に参加させた方が問題だ。」


はぁ~~~??!!!


「じゃあ、この情報は無意味なの?役に立たないの??!せっかく・・っ!!」


言いかけてやめた。


だって、兄さまの役に立つところを見せようとして頑張ったのに、感謝すらしてもらえず無駄骨だったなんて、認めたくない!!


ふぅ~~~っとまた長い溜息が聞こえ、兄さまが気だるげに


「わかった。ありがとう。情報は役に立った。貢納物に決まってからも、橘公紀(たちばなきみのり)が横流しして販売し利益を得ようとしていたなら、罪に問う事にする。

有益な情報には感謝している。

伊予の、身を挺した、素晴らしい活躍には正当な報酬で報いるべきだな。

で、じゃあ、謝礼は何がいい?反物?螺鈿(らでん)の櫛?手箱?何でも欲しいものを言ってくれ。」


「何もいらないっ!!別に、兄さまのためにしたわけじゃないしっ!!」


プンっ!

頬を膨らませ横を向く。


兄さまが不機嫌そうに睨み付け


「じゃあ何のために、身を危険にさらしてまで、宿毛(すくも)に近づいた?」


低い声で脅すように呟く。


「はぁ?別に危険なんて無かったわ!二人きりになったって、相手はきっと実の父さまよりも年上だし、分別も教養もおありになる立派な殿方だわっ!!」


「あっそ。でも酒宴は違う。酔って理性をなくした男がゴロゴロいただろ?暗闇に連れ込まれても誰も助けてくれないぞ。」


「べぇっ!!」


フンっ!

またソッポを向く。


「なぁ、じゃあせめて、欲しいものを言ってくれ。竹丸に届けさせる。浄見がせっかく集めてくれた情報だ。有効に使わせてもらう。本当に感謝してるんだ。」


下手に出る兄さまに機嫌を直して、


「じゃあっ!!」


言いながら、モゾモゾと近付き、膝立ちして、頸に両手をまわした。


「左大臣さまの一夜を下さいっ!!」


鼻がくっつきそうな距離まで顔を近づけた。


兄さまが、動揺したように美しい目を少し見開き、ハッと息をのみ、潤んだ唇が開いた。


そこを狙って、唇を重ねる。

口の中に、舌を差し込んだ。

暖かい、潤んだ、口の中を、舌でかき回す。

舌を舌に絡め、誘うように動かすと、


チュッ!!


舌を吸われ、快感のゾクゾクとした興奮が全身を貫いた。


下腹部の敏感な部分が熱を持ち、潤んだ。

ジンと痺れる。


「っんっんっ!!」


息が苦しくなって、唇を離そうとすると、頭の後ろをガッシリと掴まれた。


グイッ!


もう一度唇を重ね、唇を、舌を吸い尽くされ、唾液を飲み込まれた。


しばらくそうした後、唇を離した兄さまが


「今夜、左大臣邸(ウチ)に来る?」


とろけそうな表情で(ささや)く。


そうっ!!

ここでしっかりしないとっ!!

自分に言い聞かせ、ウットリと見つめ


「ダメよ。今日は。都合のいい日になったら、文を出すわ!それまで待っていてちょうだい?!いいでしょ?」


兄さまは驚いたように眉を上げ、意地悪そうに口の片端で笑い


「そうか。わかったよ。」


朱雀門の前で牛車が停まり、そこから降りた。


雪は激しさを増し、見上げると、高いところから切れ目なく、白牡丹の花びらのような大きい雪が舞い落ちる。


ぬかるんだ路を再び覆い隠すように一面に、うっすらと積もっていた。


 雷鳴壺に帰り、(もみじ)更衣に全て首尾よくいったことを報告すると、揶揄(からか)うようにニヤニヤしながら


「まぁ!左大臣にお預けしたの??!!焦らしたの??!!すご~~~いっ!!伊予もやるわねぇ!!

男を『手玉に取った』のね!キャ~~~ッ!!カッコイイ~~!!

でも、左大臣が迎えに来ることまで計算してたの?」


へへへっ!

照れながら


「いいえ!さすがにそこまでは考えてませんでした。でも情報と引き換えに、ご褒美として、逢引きする!っていう作戦だったんです!臺与(とよ)とか有馬さんがよく使う手です!」


(もみじ)更衣は丸いつぶらな瞳をクリっと輝かせ


「でもぉ、惜しかったわね~~!藍玉はまだ貢納物じゃなかったから、横領の罪にはならなかったのね~~~!」


「う~~ん。情報の価値はあまり重視してなくて、『左大臣に役に立つところを見せる!』という目的が果たせたんで、ひとまず成功です!それに逢引きの約束もできましたしっ!!私が逢う日を決めるんですっ!!いつでも都合のいい日に兄さまを呼び出せるんですっ!!」


意気揚々と語る。


「スゴイスゴイッ!!」


(もみじ)更衣はパチパチと手を叩きながら一緒になって喜んでくれた。


その夜、達成感でいっぱいになりながら、自分の(へや)で休もうと、東(ひさし)の妻戸を入ったところで、(こずえ)に声をかけられた。


「あのっ!文を渡すように頼まれました!」


は?

心当たりがなくて不審になり


「誰から?」


「宿直の左大臣さまに、采女(うねめ)雑舎へ帰ろうとしていたところを見つかり、頼まれました。」


はぁ??!!!

何??!!

私から逢う日を決めるって言ったのにっ!!

ムカッ!

としながらも文を開くと


『今夜、梅壺で待ってる。二人で雪見ができるのも、これが最後かもしれない。

 時平』

(その7へつづく)

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