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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
401/461

EP401:伊予の物語「白頭老の雪里(はくとうろうのせつり)」 その4~伊予、念願の初仕事を成功させる~

今度は歩いて、阿波守(あわのかみ)の屋敷へ向かった。

道中は身辺警護(ボディガード)として、(こずえ)について来てもらった。


阿波守(あわのかみ)の屋敷の門の前で(こずえ)


「一刻(2時間)ほどで出てくるから、迎えに来てね!」


と別れて、侍所(さむらいどころ)で案内を請うた。


雑色に宿毛(すくも)様が滞在する東の対の屋の一角に案内され、宿毛(すくも)様が碁盤の前で石を並べながら顔を上げ


「やぁ!来たね!」


口元を緩めながら、呼びかけた。


碁の動かし方(ルール)ぐらいしかわからない状態で、いちいち教えてもらいつつ、碁を打っていると宿毛(すくも)様が


「雪は全て溶けてしまったね。道が泥でぬかるんで、足が汚れなかったかい?」


「はい。できるだけ乾いた場所を歩きましたので。まだ寒いですし、また今夜、降るかもしれませんね。阿波国は雪は多いんですか?」


「いいや。平地ではほとんどないね。だから都へきてはじめて雪が積もったのを見たよ。

白居易の


『已訝衾枕冷  ((すで)(いぶか)る 衾枕(きんちん)の冷やかなるを)


復見窓戸明  (復た見る 窓戸の明らかなるを)


夜深知雪重  (夜 ()けて 雪の重きを知る)


時聞折竹声  (時に聞く 折竹(せつちく)の声)』


の意味が身にしみてわかったね。」


「はい。衣や几帳の布に触ると冷え切っててビックリして、夜なのに庭が明るいのにまたビックリして、テンションが上がって寒さなんて忘れてしまいますものね!雪って不思議ですわね!」


という四方山(よもやま)話をして碁を打ちつつ過ごし、最後に


「先生!明日も来ても、よろしいですか?まだ碁の対戦も途中ですし?!」


宿毛(すくも)様はすっかり打ち解けた笑顔で


「あぁ!いいよ。では同じ時間にね。」


と会話し、その日は内裏へ帰った。


二日目も阿波守(あわのかみ)の屋敷へ通い、同じように宿毛(すくも)様の居所に通され、碁の続きを打つ。


「そういえば、柳絮(りゅうじょ)って柳の綿毛のことですよね?そういう植物の綿毛からは、蚕の真綿のように、糸を作れないんでしょうか?」


何気なく話しかけると、宿毛(すくも)様がピクっと眉を上げ、皺の多い目尻にさらに皺を作り微笑んだ。


「伊予は実用的な技術にも関心があるんだね?じゃあ私たちが発明した(すくも)の製造方法にも興味があるかい?」


「はい?(すくも)って何ですか?」


宿毛(すくも)様は自信に満ちた表情でグイッと顎を上げ、胸を張り


「ハハハッ!知らないのも当たり前だ!ほんの一年前に開発したばかりの、藍染めのための藍の葉を発酵・熟成させた染料のことだよ。

阿波国ではタデアイの栽培が盛んでね、ただせっかく大量に収穫できても、そのまま腐ってダメにしてしまう事が多くて、染料として長期に保存する方法を開発する必要があったんだ。

そこで苦労に苦労を重ね、保存がきく藍色染料を私たち一族が発明したんだ!

いつでも使えて、携帯にも便利で品質がいいので、地元のみならず、都でも評判になり、それを突き固めて固形化した藍玉(あいだま)はね、もうすぐ貢納物として朝廷に納めることになるんだよ!」


「へぇ~~~!!凄いですっ!!そんなものがあるんですかぁ~~~!!!そんな凄いものを発明したんですかぁ?!えぇ~~~!感動しました!」


思わず本当の感嘆の声が出た。

宿毛(すくも)様はニコニコしながら続けて


「先日もね、大蔵省の橘公紀(たちばなきみのり)という偉い方に宴席でもてなされてねぇ、その方に一定数を納め、藍玉(あいだま)の使用感の検査と品質の確認をすれば、正式に貢納物として認められるらしいんだよ。」


あっ!

藍玉(コレ)だったのね!!


合点がいって本来の目的を思い出した。


よしっ!!


心の中でガッツポーズする。


必要な情報を手に入れたので、明日は来なくてもいいかなぁ~~?

なんて思ってると宿毛(すくも)様が


「もう帰る時間だね?明日はどうする?来るかい?」


困ったような、期待してるような、微妙な表情で見つめるので、


「ハイッ!先生っ!明後日には出発されるんでしょ?明日が一緒に過ごせる最後の日ですから、是非、明日も、碁を教えてもらいに来ます!まだ対戦は終わってないですし!」


内裏に帰り、その日の進捗を(もみじ)更衣に報告してると、(こずえ)が文を持ってきてくれた。

広げて読むと


『竹丸が内舎人局までわざわざやってきて、「伊予はこの頃どうしてる?」と探りを入れてくるのです。

二日連続で午後から阿波守(あわのかみ)の屋敷へ宿毛(すくも)様に会うために通っていると正直に伝えましたが、何か問題はありますか?

 影男』


フム。

まぁ、こっちの動向を知られたって問題はないわね!


『全て話しても問題ありません。』と文を返した。


宿毛(すくも)様に囲碁を教えてもらうという名目で通い始めた三日目、いつものように、碁を打ちながらおしゃべりしていると、不意に宿毛(すくも)様が手をとめ、重そうな瞼をカッ!と開き、真剣な目で私を見つめた。


「伊予、明日、私がここを発つことは知ってるね?阿波へ帰ることを?」


「はい。短い間でしたが、お世話になりました。碁も上手くなった気がします!」


ペコッと頭を下げた。


宿毛(すくも)様は言いにくそうに口をモゴモゴさせ、あごの下のチョロッと伸びた髭を引っ張りながら、


「え~~~、あ~~~~、そうだな、何と言えばいいのか、」


口ごもるので、じれったくなり


「何ですか?」

(その5へつづく)

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