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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
399/463

EP399:伊予の物語「白頭老の雪里(はくとうろうのせつり)」 その2~伊予、初めて宴席に侍る~

主殿には既に客たちが揃っていたらしく、屏風を背にした北側の畳には、瓶子(へいし)と膳を前にして座る、二人の年配男性、南側には一人の五十代後半に見える年配男性が座って(さかずき)を傾けていた。

屋敷の主と思われる男性は、東中門廊まで迎えに来てくれていた、四十代半ばの狩衣姿の男性で、先導して案内してくれ、手をさしのべて、西側の畳へと源昇(みなもとのぼる)様を促した。


源昇(みなもとのぼる)様は


「おぅっ。これは、ありがとうございます。まことに結構なお宅ですな。庭といい、調度品といい、藤原広影(ふじわらひろかげ)どのの暮らし向きが富裕(ゆたか)でいらっしゃるのが見て取れますな。」


藤原広影(ふじわらひろかげ)は照れたように頭を掻き


「いえいえ!それもこれも勘解由(かげゆ)長官(のかみ)様のおかげでございます。どうぞ、次の阿波守(あわのかみ)への解由(げゆ)(交代手続き)も滞りなく運びますことを、お願い致したく、このような場を設けましたので、どうぞ、今夜はごゆるりとお楽しみください。」


最後は、揉み手しながら頭を下げた。

ということは藤原広影(ふじわらひろかげ)様は現在の阿波守(あわのかみ)ね。


私の知識では勘解由(かげゆ)長官は『国司の任期が満了したとき、事務引継ぎが問題なく行われた証として、後任国司から前任国司へ解由状(げゆじょう)という文書が交付されるけど、その解由状を監査するのが勘解由使(かげゆし)』で、その長官(トップ)

前任国司は、任務不履行などの理由で、万が一、解由状(げゆじょう)が発給されなければ、次の官職につくことができない。

だから藤原広影(ふじわらひろかげ)様は勘解由(かげゆ)長官(のかみ)である源昇(みなもとのぼる)様をもてなして『()しなに取り計らって!』とお願いしてるワケね?


そのほかの客人方もきっと似たような方かしら?

考えてると、源昇(みなもとのぼる)様が藤原広影(ふじわらひろかげ)様に向かって


「この侍女はね、有能な官人たちと交流して見識を深めたいと言うので、連れてきたんだ。客人たちのそばにつかせて、酌でもさせてやってくれないか?」


私を指さしながら言う。


慌ててペコッ!と頭を下げ


「よ、よろしくお願いしますっっ!!伊予と申しますっ!」


藤原広影(ふじわらひろかげ)様は私をチラッと一瞥(いちべつ)し、軽くうなずき


「そうですね。では伊予どの、ええと、まずは勘解由(かげゆ)次官(のすけ)勘解由(かげゆ)判官(のじょう)のそばに(はべ)ってお酌してくれないか。」


北側の畳に座る、四十代後半?と五十代前半?の狩衣姿の男性の方へ目配せする。

それぞれ勘解由(かげゆ)次官(のすけ)勘解由(かげゆ)判官(のじょう)なのね?


「わかりました。あの、では南側におられる方が、郡司(ぐんじ)様ですか?」


標的(ターゲット)を見極める!


藤原広影(ふじわらひろかげ)が意外だな!というように目を丸くして


「よく知ってるね。そうだよ。阿波の麻植(おえ)郡司(ぐんじ)で有力豪族の一人である宿毛(すくも)殿だ。お前のような侍女の間で、彼は有名なのかね?確かに広大な荘園を持っているし、財力は阿波国随一だが、お前とは随分年齢が離れているじゃないか?あんな年寄りがいいというのか?」


名前なんて知らなかったけど!

どう答えるべき?

困惑しつつ


「え?ええっとぉ、そう!そうですわ!今どきの若い娘は、安定第一!で殿方を選びますの!若い色男であっても収入が不安定な方には誰も嫁ぎたがりません!」


途端に藤原広影(ふじわらひろかげ)は目を細め下卑(げび)た笑い顔で


「おおっ!そうかい!!??こりゃぁいいことを聞いたなぁ~!」


鼻の下を伸ばしてニヤケてるけど、勘違いさせちゃった?!

犠牲者になるかも?の若い女子(おなご)!ごめんっ!!


まずは、指示された通り勘解由(かげゆ)次官(のすけ)勘解由(かげゆ)判官(のじょう)の間に座り、瓶子(へいし)を手にし、(さかずき)を飲み干した方のオジサンに微笑みかけた。


「御酒をどうぞ」


左側のオジサンが赤い鼻と頬でニヤけ、呂律(ろれつ)の回らない口で


「おうっ!ありがとう!お前はまだ幼く見えるが、いくつだね?裳着(もぎ)は終えてるんだろうね?」


イラッ!

としつつ精いっぱいの愛想笑いで


「はい。もちろんでございますわ!十七ですもの!」


そのとき、左側のオジサンを挟んだ向こう側に、いつの間にか現れた女子(おなご)が座り


「どうぞ、勘解由(かげゆ)判官(のじょう)さま?阿波名産のこの『いかなごの佃煮』は絶品でございますのよ!お酒とご一緒にどうぞ!」


艶のある甲高い声が聞こえた。


ん?

この声は?聞き覚えがある・・・?


「あ~~ら~~~!そこにいらっしゃるのは伊予さん?」


はぁ??!!!


身を乗り出して私を見つけた臺与(とよ)が意地悪そうにほほ笑みながら話しかけた。


思いがけない場所で、思いがけない人物と遭遇し、ビックリして焦り散らして


「えっ??と、臺与(とよ)??!!何してんの?こんなところでっ??!!」


粗野なタメ口で言い返してしまった。


臺与(とよ)は口元を袖で隠し、上品な仕草でホホホと笑い


「嫌ですわ!そんなに親しい仲ではございませんでしょ?わたくしは、阿波守(あわのかみ)さまとお知り合いで、お世話になっておりますの。今日は、お客人方をおもてなしするために参りましたの。あなたこそ、なぜいらっしゃるの?」


臺与(とよ)は丸顔で、頬が少し豊かで、筋の通った鼻は高いけど小さい。

目は大きく、端は下がり気味で、泣き出しそうな儚げな様子は、頼られたら思わず手を差し伸べたくなるような愛くるしさがある。

広くて丸い額と小さな薄い唇には幼さが残り、童顔が好みの男性はイチコロになる。


目的がバレないようにしなきゃ!

慎重に言葉を選びつつ


「別に、ただの社会勉強ですわ!経験豊かな方々に色々なお話を伺うのは勉強になりますでしょ?」

(その3へつづく)

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