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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
397/461

EP397:伊予の物語「回生の粉飾(かいせいのふんしょく)」 その7~切れ者女儒、実践前に闇に葬られる~

ギクッ!


焦りすぎた私は


「知ってたの?いつからっ??!!!」


兄さまは体を起こして、片膝を立てて座り


「バカにするな。化粧を変えたぐらいで見抜けないような間抜けなら、浄見のことなんてとっくに忘れてる。」


私も体を起こした。


「じゃあ、初対面の女子(おなご)に口づけして口説くような遊び人じゃなかったの?」


不機嫌に加えて、怒りで目をギラギラ光らせ、青筋を立てて睨みつけ


「そんな変質者なら、とっくに誰かに訴えられて失職してるだろ?変装を白状するかと思ったんだよ。」


阿波(あわ)に文を送るって言ってたのは、阿波(あわ)を恋人にするつもりだったんでしょ?」


まだ、私に機会(チャンス)はあるの?


断られるのが、怖くて、口に出せなかった。


兄さまは目を逸らしたまま苦痛に耐えるように眉根を寄せた。


無言に耐えかねて


臺与(とよ)のように、兄さまの役に立つ女子(おなご)になれば、もう一度付き合ってくれると思ったの。

大事にしてくれる妹のままでいるよりは、例え利用されても、頼られて、信頼される、対等な女子(おなご)になりたかったの。

臺与(とよ)みたいに。

そうすれば、フラれたままで何もできず我慢するだけにはならない。

兄さまに提供できる価値があれば、私を必要としてくれるでしょ?頑張るから、何でも命令して!」


「浄見は、・・・浄見は、どこかの、上流の貴族に嫁がせる。色仕掛けのような真似は、絶対に、させない。私が許さない。」


「あなたじゃなきゃっ!!誰でも同じなのっ!!貴族でもっ!粗野な乱暴者でもっ!!それなら、どうせ同じならっ、あなたの役に立ちたいっ!!そばにいたいっ!!」


兄さまは(うつむ)き、唇をかんで


「ダメだ」


ボロボロと涙が溢れ、厚く塗りたくった白粉(おしろい)を、汚らしく()ぎ落していく。

きっと、眉墨や紅や白粉(おしろい)で、顔がぐちゃぐちゃになってる。

一番見せたくない人に、一番汚い、醜い顔を見せてることに、屈辱と、悔しさを感じた。


「じゃあ、阿波(あわ)になるっ!!ずっと阿波(あわ)として過ごすわっ!それなら、文を送ってくれるんでしょ?別人なら付き合ってくれるんでしょ?浄見じゃないなら、いいんでしょっ!!」


涙が次々と溢れ、生暖かい液体と、白粉(おしろい)と、眉墨で、頬がベタベタする。


すぐに拭い去りたいのに、拭っても拭っても、無駄な予感がした。


ずっと、この先、一生、この悲しみは、傷となって心に残る。

顔は綺麗に洗えても、心は醜く傷つき、痛みを訴え続ける。

涙は頬を濡らし続け、化粧は()げつづける。


ガッ!


兄さまに、頬を両手で挟み込まれた。


美しい、切れ長な、筆で引いたような目。


苦しそうに眉根を寄せて、潤んだ唇が、ためらうように、震える。


「見ないでっ!!化粧がっ!!涙でグチャグチャになっててっ!嫌なのっ!汚いからっ見ないでっ!!」


どれだけ、厚く塗って、傷を塞ごうとしても、それを押し流すように、次々と痛みは溢れ出る。


傷を塞ぐことができるのは、あなただけなのに。


なぜなの?


なぜ、そんなに臆病なの?


頬を強く挟み込む手を掴み、はずして、手のひらに口づけた。


「離して。こんな顔、見られたくない。もう行くから。早く顔を洗いたいの。」


兄さまの両手から力が抜け、頬から手が離れた。


私は(きびす)を返して、振り返らず、何も言わず、その場を立ち去った。


阿波(あわ)という粉飾(かめん)を、一生、そこに脱ぎ捨てて。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

化粧でびっくりするほど美人になる場合、大抵は、目が(ほそ)いけど、鼻と口は美形な人が多いですよね!

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