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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
395/505

EP395:伊予の物語「回生の粉飾(かいせいのふんしょく)」 その5~変装後の女儒、職曹司で尋問を受ける~

 数日後、日が上り周囲は明るくなったのに、薄雲に覆われ肌寒い、冬らしい冷気がピリッと身を引き締めるような朝。

(こずえ)が雷鳴壺の掃除にやってきたと思ったら、腕を引っ張り私を東(ひさし)の御簾の中にコソコソと引き入れた。

辺りを見回し人がいないことを確認すると、小さな声で


「あのぉ、今朝、内侍司(ないしのつかさ)に通達がきたんですぅ!一人ずつ順番に全ての女儒に尋問があるらしいんです!

何を調べてるかはわからないんですけどぉ、左大臣さまが直々に取り調べになるらしいので、阿波(あわ)?伊予さんのなりすました女儒はどうしますか?尋問を受けますか?受けるならこれから大内裏の職曹司で行われるらしいので私と一緒に行きましょう!」


間隔があいた小さな丸い目をパチクリさせ、不安そうな表情で(ささや)いた。


えぇっ??!!

何の尋問?

私の身元なんて調べればすぐ嘘だってバレるのに!!

行っても行かなくてもバレると思う。


う~~~ん、行かないのが正解?


「女儒の名簿ってどこかにあるのかしら?あなたはどうやって女儒になったの?」


(こずえ)が少し首をかしげ、思い出す仕草をし


「私の場合は、(あるじ)が書いてくれた推薦状を掌侍(ないしのじょう)に見せました。名前が名簿?に載ってるかどうかは知りません。寝泊りは大内裏の采女(うねめ)町に建物があるので、そこでしてます。」


「ふぅ~~ん。じゃあイチかバチか、名簿が無いほうにかければいいのね!とりあえず行くことにするわ!あっちょっと待っててね、着替えと化粧をしないとっ!!」


一体何の尋問?

行く前に茶々から情報を仕入れた方が無難?

でもそれよりも行った方が速い?


手早く『大人びた切れ者風女儒・阿波(あわ)』に変装する。

鏡を見ると、私の面影が一分(3mm)もない、賢そうな、切れ長の目の、キリリとしたきつい雰囲気の女性が映ってた。

よし!

中々上手くできてるっ!!


(こずえ)と一緒に内裏をでて、路を挟んですぐ東にある職曹司へ向かった。

職曹司は内裏のような茅葺(かやぶき)屋根の高床の舎殿が並んだ区域。

西門をくぐり、中へ入ると、中央の主殿に昇る階段前の庭や、昇った廊下にはザッと見渡しただけでも十数人の女儒たちが詰めかけてた。

主殿の母屋は御簾と壁代が降りてて中が見えない状態。

廊下には女儒が一列に並んでたけど、庭の女儒たちは不安そうにの五六人で集まって、ヒソヒソ話をしてた。

確か、内侍司(ないしのつかさ)の女儒は百人もいるから、面識がない私が混じっててもバレないはず!

そうでなくても新入りだと思ってくれるでしょ!


(こずえ)


「ちょっと、知り合いの女儒に、何の尋問か聞いてきてくれる?」


(こずえ)がウンと頷き、女儒の(かたまり)に駆け寄って話しかけてた。

しばらくすると帰ってきて


「あのぉ、大蔵省の橘公紀(たちばなきみのり)さま?という方が、上京した地方の豪族をもてなした時に、内侍司(ないしのつかさ)の女儒を宴席に侍らせて、接待させたらしいんです。で、過去にもそういうことがあったかの、聞き取りをなさってるらしいんです。」


なぜ?

左大臣が?

自ら尋問する必要ある??


でっかい『(はてな)』が頭に浮かんだけど、もう来てしまったからには尋問を受ける覚悟っ!!

これから先のこともあるし、ここを乗り切れば、別人として、兄さまと恋人になれるかもしれないっ!!


でも、浄見として結婚は無理なの?

寂しい。

偽りの姿で付き合えたとしても、好きになってくれるのは自分(きよみ)じゃないし。


あっ!思い出した!

橘公紀(たちばなきみのり)って臺与(とよ)が言ってた『不祥事を起こした人』ね?

もしかして菅公(菅原道真)が絡んでるから?

兄さまが万全を期して調査してるのかも?

役に立つ女儒って印象付けられたら、兄さまに頼られて、尊敬されて、対等な関係になれるかも??!!

何たって『切れ者の阿波(あわ)』ですからっ!!


よぉ~~しっ!!!

腕まくりする勢いで意気込んだ。


まだ尋問を受けてない女儒は主殿の廊下に並び、終わった人は庭にたむろってたけど、主殿の中から御簾をめくって出てきた大舎人が


「尋問が終わった女儒は元の仕事へ戻っていいぞ!ここでサボるなっ!!」


はぁ~~い!


ちぇっ!!


舌打ちが聞こえそうなぐらい渋々、庭でおしゃべりしてた女儒たちは散り散りに、自分の持ち場に帰っていった。


「次っ!!入れっ!!」


野太い声が聞こえ、一人ずつ御簾の中に呼び入れられ、尋問が済むと出てきて仕事に戻っていく、を繰り返し、(こずえ)の番になった。


「では、行ってきます!!」


グッと両手の握りこぶしを見せるように合図し、(こずえ)が中に入った。


しばらく時間が過ぎ、御簾が揺れ、(こずえ)が出てきて


「頑張ってください!」


再びガッツポーズで、私に気合を入れて庭への階段を降りた。


「次っ!入れっ!」


野太い声が聞こえた。


え~~?ここで待っててくれないの?


(こずえ)をチラ見して、歩いて職曹司を出ていく後ろ姿に心細くなったけど、引き留めてもどうしようもないので、ヨシッ!と意を決して、御簾をめくって中に入った。

(その6へつづく)

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