表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
393/505

EP393:伊予の物語「回生の粉飾(かいせいのふんしょく)」 その3~別人になった伊予、宿直中に泥酔する左大臣と会う~

兄さまが


橘公紀(たちばなきみのり)の不祥事に関わっていればの話だが。疑惑だけでも、今の菅公は公卿の中で孤立しているから上手くいけば辞任に追い込めるかもしれない。

でも・・・・どのみち、もう、それほど急いでない。上皇の勢力を排除するのはもっと先でもいい」


ふぅっとため息をつくのが聞こえた。


胸の真ん中がチクチク痛い。

ギュッ!

と苦しくなってそこからジンジンと痛みが広がる。


私のせい?


でも、臺与(とよ)とは内密な仕事の話をするのね?

私にはほとんど話してくれなかった。

臺与(とよ)の方がよっぽど頼りになるから?

私も頼られるような女子(おなご)になりたいっ!!

どうすればいいの?


ゴソゴソッ!カサカサッ!


衣擦(きぬず)れと、何かが畳にあたる音がしばらく続き、


「本当に、お元気がないのね?他の女子(おなご)ともご無沙汰なんですの?」


臺与(とよ)のガッカリしたような声が聞こえた。


兄さまが低い、冷たい、沈んだ声で


「その気にならないんだ。わかっただろ、用が済んだらもう帰れ。」


「では、また、何かあったら声をかけてくださいませ」


臺与(とよ)が立ち上がる気配がしたので、焦って、衝立から妻戸への動線の途中にあった几帳を前にずらし、その後ろに隠れた。


スッスッスッ!


衣擦れの音とともに臺与(とよ)が衝立の向こうから姿を現し、妻戸へ向かって歩くと、キッ!と妻戸を開けて出ていった。


ふぅ~~~~っっ!!!


焦った~~~~~~!


見つかるかと思ったぁ~~~~!!!


さて?これからどうしよう??

あっ!!


衝立の後ろに酔い覚ましの煎じ薬を置きっぱなしだった!!


几帳の後ろから慌てて出ていくと、気配を察したのか鋭い声で


「誰だっ!!そこにいるのはっ!!出てこいっ!!」


ビクッッ!!


としたけど、目的は兄さまに会うためだったと思い出し、意を決して盆を持ち上げ、衝立を避けて兄さまの前に歩み出た。


そうっ!私は別人!浄見じゃない!内侍司(ないしのつかさ)の女儒よっ!!


バレないように怖い顔を作り、兄さまの前に座り、盆をおろし、手をついて頭を下げた。


内侍司(ないしのつかさ)から参りました、阿波(あわ)と申します。左大臣さまのお体をご心配された、さる高貴なお方が、酔い覚ましの煎じ薬をお持ちするようにとお命じになりまして、お持ちしました。」


ドキドキしながら、何とか言い終えて頭を上げる。


脇息(きょうそく)に肘を置き頬杖をついて、片手には(さかずき)を持つ兄さまの胡坐(あぐら)をかいた姿が、目の前にあった。

兄さまは一段高くなった畳に座り、その前の手が届く場所には瓶子(へいし)ののった盆が置いてある。

色白な肌が全体に赤く染まり、一間(1.8m)ほど離れたここまでお酒の匂いが漂ってくる。

一目見るだけで泥酔してるのがわかる。


私の方を見ず、ボンヤリと一点を見つめ(さかずき)を口に運びながら


「ありがとう。そこに置い()ってくれ。後で飲むから」


衝立越しに声だけを聞いた時より、呂律(ろれつ)があやしい。


あぁ~~~っ!!!

メチャクチャ酔っぱらってる!!

マトモな会話もできなさそうっ!!

でも、ここでスゴスゴ引き下がったら、『もう一度出会いなおす!』計画が台無しっ!!

どうしよ~~!!


すぐに腰を上げず、グズグズしてる私を、兄さまがトロンとした目で見て


「ん?他に何か用があるのか?」


よしっ!!

一か八かっ!!

できるだけ、元の声からかけ離れた低い声で


「あのぉ、先ほどつい耳にしてしまったんですけど、教え子の不祥事で教師が責任をとる必要ってあるんですか?そんなことしてたら教師になる人がいなくなりません?」


兄さまが無理やり眠そうな目をグッと開いたように見えた。


「教え子が不正に得た利益の一部を、教師が受け取っていたら有罪だな。そうでないなら弾劾(だんがい)できないな。」


私を食い入るように見つめるので、


ハッ!!ヤバッ!!!

気づかれたっ??!!!

焦っていると


「お前の名は?内侍司(ないしのつかさ)の女儒だな?歳は?父親の名は?」


えぇ??

バレてないけど、怪しまれてるっ??!!

ヤバッ!

父親の名まで考えてなかった!

どーしよっ!!

テキトーに答えよっ!!


「あ、阿波(あわ)と申します。はい、内侍司(ないしのつかさ)の女儒で、歳は二十歳(はたち)です。父親の名は、ええと、島田(しまだ)徳男(とくお)と申します。父は無位無官の貴族ですので、ご存じないかと思います。」


ウソがばれないように、目力(めぢから)で何とかしようと、兄さまを瞬きせずジッと見つめ返した。


いつもは透けるほど白い肌が、酔って赤みが混じった桃色になり、額に落ちた後れ毛や、濡れた唇が艶っぽい。


だらしなく酔っぱらっているのに、背筋はまっすぐで、ピンと一本芯が通ったような、高貴な(ひん)を身に(まと)っている。

グニャグニャに崩れ落ちたりしていない。


いつも、お酒をたくさん飲んでも、緊張を解ききれないんだろうなぁ。

どれだけ飲んでもどこかは張り詰めていないと、要職は務まらないのかな?

大変だなぁ~~~!


しみじみ思いながら、ジロジロ見つめる不躾(ぶしつけ)な視線を怪しまれないように、目を逸らした。

キリッ!と顎を上げて『切れ者風女儒』の(たたず)まいを取り戻す。


ガシャンッ!!


兄さまがフラフラしながら、荒々しいしぐさで、盆に(さかずき)を置き、それと瓶子(へいし)ののった盆ごと横に押しのけた。

その空いた部分の畳をトントンと指さし


「ここへ来い!」


ひゃ~~~っ!!

何されるの?

酔っぱらった権力者の横暴?って初めてっ!!

怖っっ!!


(その4へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ