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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の物語(恋愛・ミステリー)
385/505

EP385:伊予の物語「噤口の大臣(きんこうのだいじん)」 その3~伊予、訪問先で伊勢の和歌を見つける~

兄さまがにこやかに笑みを浮かべ


「元気だった?」


胸がギュッと苦しくなる。


親しみがこもった言葉の中にも、どこか、他人行儀な、偶然出会った知人に対するような遠慮があった。


いたたまれなくなって、立ち上がり、御簾の手前に風よけに置いてある衝立(ついたて)に近づいた。

書いてある和歌を読むふりをしながら


「はい。おかげさまで。あの、左大臣様、昇進おめでとうございます。

今までずっと、お世話になったのに、お祝いとか、何もお返しもできませんで、不甲斐なく、申し訳なく思っております。」


一応、お詫びをするときだけは振り返って、ペコリと頭を下げた。


スッ!


兄さまが何も言わず立ち上がり、近づいてくるので、焦ってまた衝立の和歌を読もうと、クルリと兄さまに背を向けた。


何か言われる前に言わなきゃっ!!

意味もなく焦って、衝立の和歌を読み


「ええっとーーー、いい和歌ね?詠んだ人は、あっ!!ここに書いてあるっ!伊勢さんね?和歌が上手くて有名な方ね?たしか宇多上皇の弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)さまに仕える女房だったのよね?ええっと、弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)さまは藤原温子(ふじわらよしこ)さまだから、左大臣さまの妹君?ってことは、伊勢さんはお知り合い?女御様を訪ねるとお会いになったんでしょ?」


もしかして・・・恋人の一人?とか?


思ったけど口には出さない。

そういう気軽な仲じゃ、もうないし。

嫉妬できる間柄でもないし。


時平さまが真後ろの、私の背中に狩衣の胸が触れそうな、すぐそばに立ち、手を伸ばして、指で和歌をなぞった。


ドキドキが聞こえるかもっ!!


もぅっ!!!静かにしてっ!!


あぁ~~~っ!!!

ショックっ!!!!


全然平気になってなかったぁ~~~!!!

ドキドキしすぎっ!!

まだ余裕(よゆー)で胸が苦しいっ!!


耳に、息がかかりそうなぐらい顔を寄せた、熱い気配がし、


「そう。知り合いというより、もっと深い付き合いをした。」


ズキッ!!!


やっぱり・・・。

今さらだけど、充分、傷ついた。

もう関係ないけど。


あったことないけど、きっと才能豊かで美人で妖艶な人なんでしょうね。

時平さまの恋人は全員、肉感的(グラマラス)で艶っぽい女子(おなご)だったし。


「お待たせしました。どうぞ」


そう言って源佐値(みなもとさね)さまが戻ってきて、皿の入った木箱を渡してくれたので、深々と頭を下げて、何度もお礼をのべ、屋敷を去った。


時平さまの方を、一度も振り返ることなく。


だって、


もう一度でも顔を見ると、


泣き出しそうだったから。


 雷鳴壺に戻ると、(もみじ)更衣の御座(おまし)のそばに、高坏に干し柿をのせて運んできたところだったらしく有馬さんが座ってお話してた。

私は木箱を差し出して、源佐値(みなもとさね)様から越州窯(えっしゅうよう)青磁(せいじ)の皿を頂いた報告をした。

(もみじ)更衣が


「他にはどんな陶磁器があったの?」


とお尋ねになるので、秘色(ひそく)青磁(せいじ)という唐国随一のお宝!かもしれない陶磁器があった話や、源佐値(みなもとさね)様のお屋敷が広くて立派だった話、衝立に伊勢さんの和歌が書いてあった話をした。


有馬さんがぽってりとした厚い、紅い唇を開き、白い小さな歯をのぞかせながら


「伊勢?といえば、一年前にお生まれになった、上皇様との間の御子が、早くにお亡くなりになり、悲嘆にくれていたのを、先日、左大臣様がお慰めにお訪ねになったらしいわね。お亡くなりになった御子の父君は上皇様ではなく、左大臣様だという噂もあるらしいわ」


眠そうな二重瞼(ふたえまぶた)を少し持ち上げ、様子をうかがうように私の方をチラッと横目で見る。


傷ついてるかを確認してるの?


モチロンッ!!


伊勢さんと時平さまが恋人関係だったのは知ってるから、平気っ!!

でもないけど、今でもまだ続いてるのね。

それとも最近ヨリを戻したの?

ふ~~~ん。

ぐらい。


十年前には弟君の藤原仲平(なかひら)様に迫られて、伊勢さんは関係を持ったって竹丸から聞いたし、上皇・時平さま・仲平(なかひら)さま、と近場(ちかば)の三人と関係を持つ伊勢さんって・・・・状況的には、私と似てる?

関係を持ってはいないけど、上皇・時平さま・忠平(ただひら)さま、の三人とややこしくなってるのは同じ。

そもそも気が合うのかもね。

上皇と藤原兄弟は。


「お前、そこで何をしてるのっ!!」


有馬さんが御簾越しの廊下に控える、小さい影に向かって鋭く叫んだ。


幼さの残る女子(おなご)の声で


「は、はい。内侍司(ないしのつかさ)から参りました。明日の御入浴のお時間をお知らせに参りました」


「早く声をかけなさいっ!盗み聞きしてるのかと思ったわっ!」


苛立たしそうに、有馬さんが立ち上がって廊下に出ていった。


そういえば、この頃、色んな所で女儒(めのわらわ)に見張られてる気がする。


また忠平(ただひら)様の間者(スパイ)

それとも時平さまの?

・・・・はもうあり得ないか。


はぁ~~~。

ため息

また、少し寂しくなった。



 次の日の午後、雷鳴壺に文を届けてくれる大舎人(おおとねり)が、竹丸からの文を届けてくれると同時に、桜が縫殿(ぬいどの)寮へのお使いから、転がるようにして慌てて帰ってくるなり


「ねぇっ!!聞いたっ??ついさっき左大臣さまが検非違使(けびいし)庁に連行されたんですってっ!!」

(その4へつづく)

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