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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
382/461

EP382:伊予の事件簿「虚構の称賛(きょこうのしょうさん)」 その5~恋人の内舎人の試みで、伊予は悩みを解決し、時代の趨勢は決する~

雷鳴壺の東(ひさし)にある、御簾や帷で区切った女房達の(へや)が並ぶ中の、私の(へや)影男(かげお)さんと二人で入った。


兄さまと私の間で起こった一連の出来事を長々と話し、


「・・・・・でね、兄さまの前で冷静にいられるようになるまで、二人で過ごすのはやめましょうと提案するつもりだったのに、二度と会わないことになってしまったの。」


影男(かげお)さんの、濡れたような黒目が、灯台の灯りを映し、ユラユラと(きら)めく。


本心を見透かそうとするかのように、食い入るように見つめ続ける。


やっと口を開くと


「では、試してみましょうか?」


は?

何を?


戸惑っていると


「脱いでください。確認してあげましょう。性行為依存かどうか」


確信に満ちた口調で呟くので、思わず


ちゃんとした確認方法があるの?

その方法を知ってるの?


躊躇(ためらい)いつつも、オズオズと(うちき)単衣(ひとえ)(はかま)を脱ぎ、小袖姿になった。


影男(かげお)さんも小袖一枚になり、向かい合って座った。


(はだけ)けた小袖の胸元から、日に焼け、筋肉で覆われた厚い盛り上がった胸がのぞく。


ゴソッ!


影男(かげお)さんが動いたと思ったら、近づき、上半身を抱きしめながら、押し倒された。


鼻と鼻がくっつきそうな距離で見つめられ、焦って


「何っ?どうするの?どうやって確かめるの?」


ドクドクドクッ!


鼓動が速く打つ。


「だから、体の反応を確かめます。」


かすれ声で呟くと、唇で口を覆い、太い、熱い、舌が中に入った。

隅々まで、愛撫するように、動き回ると、なぜか、兄さまの顔が目に浮かんだ。


「・・・・っふぅんんっ!」


快感の声が漏れ、体の芯が痺れる。


(はだ)けた硬い胸が、衣越しに胸の尖った先に触れ快感を引き起こす。


影男(かげお)さんの手が、下紐をほどき、衣をかき分けて入り、お腹に触れた。

脇腹をゆっくり這い上がり、円を描くように素肌の胸を撫でる。

指がときどき微かに、敏感な先を刺激し、快感が、奧に響く。


唇を離し、顔を見つめながら、その手がゆっくりと脇腹を通って(もも)におりた。

(もも)の付け根を指でなぞり、内腿に手を添え、


グイッ!


腿を横に押し上げ、脚を開かせた。


敏感な部分に指が入り、何度も同じ部分を刺激する。


快楽の刺激を、確かに、感じる。


なのに、兄さまのときのような陶酔感や没入感が、ない。

全身が震えるような、全身を貫くような、快感の興奮が、ない。


何をしてるの?


頭の片隅に、疑問が浮かび、冷静な自分が自問する。


指が今まで兄さまが触れたことのない場所に入り、


「痛っっ!!」


違和感と嫌悪感に襲われ、思わず声を出した。


影男(かげお)さんが驚いたように身を震わせ、指と体を私から離した。


その瞬間に、素早く起き上がり、(はだ)けた小袖をあわせ、下紐を結んだ。


気まずい沈黙に耐えられず


「何かわかった?」


冗談めかして聞くと、衣を直し、紐を結んだ影男(かげお)さんが


「性行為依存では、ありません。」


(うつむ)き、沈んだ口調でボソリと呟いた。


努めて明るい口調で


「ん。わかった。ありがとうございました。じゃあ、衣を着るね!」


二人とも何事も無かったように、衣を着付け、無言のまま影男(かげお)さんが立ち去った。


一人になると、無意識に、考え込んでいた。


影男(かげお)さんが触れたとき、快感はあったのに、すぐに冷めてしまった。

あの人のときのように、次々と快感の強度が増し、昇り詰めることはなかった。


何が違うの?


でも、少なくとも、誰でもいいからそういう行為をしたくなるわけではなかった。


それが分かっただけでも、自信を取り戻せた。


よかった~~!!!

誰に対しても、(みだ)らに誘い掛けるような女子(おなご)じゃない!


相手があの人でなければ、自分を見失うようなことはない。

時平さまにだけ、欲求が止まらなくなるなら、

それぐらいは、自分に許そう!


気持ちを整理できてスッキリしたけど、兄さまは私と永遠に別れたつもりでいる。


この問題は、一切解決してなかったことに、突然、気づいた。


全身から生きる気力が奪われたような、真黒な寂しさに襲われた。



 数週間後、宣命(せんみょう)が下って、藤原時平様は左大臣に任命され、菅原道真様は右大臣、そのほかの公卿達も昇叙された。


 帝が菅原道真様にご所望になった、菅原家の漢詩文集は、数か月後、献上された。

それをお読みになった帝はご自身で漢詩を創作され、菅公に下賜された。

そのなかで帝は


『素晴らしい詩文は みなすべて黄金である』

『いくら口ずさんでも飽き足りることはない』

『削り磨かれた美しい玉とも言うべき句』

『美しい錦のように仕立てられたどの句も心に忍び込む』


などと美辞麗句を連ねられ、


『菅原家は白居易の文体よりも優れている』

『白居易の詩文など投げ捨て、それを収める小箱は厚く塵が積もることだろう、菅家三代集が手元にあるゆえに再びひもとくことはないだろう。』


とまで過剰に?賞賛なされた。


公卿達の(ねた)(そね)みが最大に達し、悪質な誹謗中傷の形となって、朝廷中から噴出し、右大臣・菅原道真様がますます孤立を深めたのは、まさにこの直後からだった。


一方で、左大臣になっても、私と兄さまが二人きりで会うことは無かった。

人目があるなかで顔を合わせることはあっても、言葉を交わす事は無かった。

見つめ合う事も。


心が穏やかな日々が続き、感情が波立つ日々から逃れることができた。


独りぼっちの寂しさも、将来の不安も、虚しさも、(もみじ)更衣や茶々の存在が埋めてくれた。


このまま、何も起こらない日々が永遠に続くかと思われた。


だけど、イタズラな運命の絆によって、

私は、再び、時平様と、

深く結びつけられることになる、

ある出来事が起こったのだった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

終に時平が左大臣になりました!

次から新シリーズにするかも?です。←新章の間違いでした。

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