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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
379/505

EP379:伊予の事件簿「虚構の称賛(きょこうのしょうさん)」 その2~大納言、昇進を利用し、菅公をじわじわと追い詰める~

 数日後、大納言である兄さまと密談するために、帝が雷鳴壺に御渡りになった。


廊下で立ち止まりお辞儀し、帝と兄さまが雷鳴壺へお入りになるのを見送っていると、すれ違いざまに


「帷と御簾をおろして、廊下で見張っててくれ。もし、女御・公卿の使いや誰かが訪ねてくることがあれば、それとなく知らせるように。」


ボソリと、兄さまが目も合わせずに命じた。


「ハイ」


小さく呟き、そそくさと帷と御簾をおろした。

帝が目配せなされると、(もみじ)更衣は御簾と帷を隔てた奥の寝所へお下がりになった。


南廂(みなみひさし)に座り、御簾の中の声にそれとなく聞き耳を立てる。


だって!密談?!!!の内容知りたいっ!!!

好奇心は止められないっ!!!


いつか自分の頸を絞めることになっても?!!

ちょっと怖いけど、やっぱり知りたいっ!!


兄さまの様子は?

いつもと同じ?

に見えたけど、少し表情が硬かった気がする。

本当に私と別れるつもりなのかも。


自分から種を()いておいて、いまさらどうにもできないけど。


兄さまと二人きりになっても冷静でいられる時が来るまでは、このままでも構わない。

冷たくされても、無視されても、

我慢するしかない。

ボソボソと話声が聞こえ、ハッ!として聞き逃すまいと耳に神経を集中させる。


帝の声で


「朕はそろそろ、時平を左大臣に昇らせたい。だが、権大納言は父上皇の影響力を抑えるためにも、権大納言の地位にとどめたいと思うが、そちはどう思う?」


兄さまが(かしこ)まった声で


「は、ありがたきお言葉でございます。しかし、それならば菅公も地位をお進めになるのが良いと存じます。」


「なぜだ?」


「そのほうが菅公が公卿の中で孤立するからでございます。

菅公は文章(もんじょう)博士になりました折にも、講義を始めて三日後には学生から批判されたそうです。そして文章得業生を選抜する際にも審査が不公平だと不満の声が上がりました。

このことは、文章(もんじょう)博士として羨望の的であり『温厚で何事も穏便に済ます性格』とは言えない菅公には、学問の派閥内部でも敵が多い証拠です。

その上、菅公は、先の帝・宇多上皇の一存で異例の抜擢を受け、参議から先任者三名を超えて、従三位・権中納言におなりになった。

自分の地位を飛び越された方々は紀伝道の家系の者に抜かれたことを不満に思っておられるとか。」


帝が考え込んだ様子で


「ふむ・・・・なるほど。上皇の手先と牽制(けんせい)するよりも、右大臣に昇らせ、嫉妬する公卿仲間たちから孤立させた方が、後々上手くいくというのだな?」


「・・・はい」


兄さまの硬い声が聞こえた。


はぁ?!!


な、なんて陰険なっ!!

周囲からの嫉妬を(あお)り、嫌われるように仕向けるの?!!!


でも、一見何事もなく、順調に昇叙されただけ、だよね??!!!

誰も『悪だくみだ!』なんて思わないよね?!

だから余計に陰湿??!!!


ハラハラしながら盗み聞きしてると、帝が


「では、朕も一計を案じたぞ!ハハハッ!よいことを思いついたっ!!」


「何でしょう?」


「これはどうだ?・・・・」


ボソボソとよく聞こえない。


その時、梅壺から雷鳴壺に渡る廊下を、茶々が反物をのせた盆を(ささ)げて渡ってきた。


あっ!!

兄さまたちにそれとなく伝えなきゃ!!

役目を思い出し、オホンッと咳払いし、


「あ、あのっ、桐壺からの御使者が御渡りでございます。」


御簾の中で


ハッ!


と息をのむ気配がし、話声が途絶えた。


茶々が私の目の前で立ち止まり、不思議そうな顔で御簾の中に視線を走らせ、私にウンと頷いた。

私もウンと頷き返すと、茶々が


(もみじ)更衣さまへ桐壺更衣からの贈り物でございます。お納めください。」


座り込み、反物を差し出した。


「ありがとうございます。(あるじ)は少し休んでおりますので、目が覚めましたら確かにお伝えいたします。桐壺更衣さまには、(あるじ)に代わってお礼申し上げます。よろしくお伝えくださいませ。」


(かしこ)まった口調で、両手を膝の前についてゆっくり頭を下げた。


茶々はビックリしつつも、他人行儀な私に、ニヤニヤ笑いをこらえきれない表情。

それでも優雅で大げさな口調で


「まぁ!ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。それでは、これで失礼いたします。」


もう一度チラッと御簾の中に視線を走らせると、立ち上がり、私に片目をつぶって(ウィンクして)、コソっと小さく手を振り、そそくさと去っていった。


茶々の姿が見えなくなるころ、御簾をめくって兄さまが顔を出し、


「私たちがいることを悟られなかっただろうな?」


「ハイ。茶々ですけど、帝と大納言さまが御渡りになったことは内密に致します。」


廊下に座る私を一瞬、チラッと見おろし、苛立ったように眉間にしわを寄せすぐに御簾の中に引っ込んだ。


チクッ!


冷たい視線が胸に刺さる!


でも自業自得。


兄さまを傷つけたのは私。


私を拒絶する兄さまに、あんなに『好きっ!恋人にしてっ!』て迫っておきながら、手のひらを返したのは私。


少し距離を置きたいとか、勝手な、都合のいい要求なんて、できる立場でもないし。


今度こそ完全にフラれたかも。


ギュッ!


胸が苦しい。


でも、何かに依存したくない。

例え、それが、一生をかけて愛した、好きな人でも。


その好きな人に、『一人では何もできない女子(おなご)』だと思われたくない!

好きだからこそ、見下されたくない。

一人前の大人の女性として、扱われたい。

(その3へつづく)

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