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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
375/505

EP375:伊予の事件簿「霊魂風の気色(たまかぜのけしき)」 その4~伊予、想い人の難点に悩む~

二枚の畳を敷いた寝所は二人が横になるだけでも手狭(てぜま)になる。

だけど、兄さまだけが床で寝ころんでるのが気の毒になって


「大納言様、もうちょっとこちらへきて、畳の上で寝てもいいわよ!床は冷たいでしょ?」


その結果、狭い畳の上で、影男(かげお)さんの伸ばした腕に私は頭をのせて寝て、影男(かげお)さんの折り曲げた手が当たりそうなところに、兄さまが寝ることになった。


初めは仰向けに寝てたけど、ふと寝返りを打つと、こちらを向いて横向きに寝てた兄さまと目が合った。


美しい、切れ長な目の、黒い潤んだ瞳がギラギラと光を放ち、鋭い顎の線と、筋の通った鼻、薄い酷薄そうな唇はキッ!と引き結んでいたけど、いつ見ても胸が高鳴り、ドキドキが溢れ出る美男子(イケメン)だった。


ジッと見つめ続けていた真剣な目が、フッと緩み、細くなり、微笑みを浮かべて


()れてもいい?」


低い声で(ささや)く。


はぁっ?!!!

どっどこにっ??!!!

触れるつもりっ!!??

影男(かげお)さんがいるでしょっ!!!

何するつもりっ??!!!


心臓がバクバクして口から飛び出そう!


「バカなのっ??!!ダメっ!」


って言ったのに、手がスッと伸び、頬に触れた。


頬の感触を楽しむように指先でそっと触れコチョコチョと動かし、親指で軽く唇をなぞる。


冷たい指先の動きにウットリと気を取られてると、


グッ!


影男(かげお)さんの手が兄さまの腕をつかんで頬から押しのけ、私の胸の上あたりを抱きしめ、もう片方の手でお腹を抱きしめ、体に引き寄せながら


「今夜の伊予さんは私のものです。遠慮してください。」


低い声でハッキリと言い捨てた。


お腹と胸と背中に影男(かげお)さんの熱い体温を感じる。

呼吸が荒く、胸が速く波打つのを背中に感じた。

汗と香の混じった男らしい体臭が鼻を()く。

体全体を後ろから包み込まれ、ガッチリと抱きしめられ、一切身動きできない。


兄さまが怒りをにじませた声で


「伊予に聞いてみればいい。どちらを選ぶか。」


影男(かげお)さんを睨み付けてる。


背中に感じる鼓動の速さや、腕の震えに、影男(かげお)さんの内心の不安が伝わり、胸が苦しくなった。


慌てて


「も、もちろんっ!影男(かげお)さんを選ぶわ!約束してたしっ!!兄さまは直廬(じきろ)に戻ってください!」


兄さまは驚いたように目を見開き、またすぐ不機嫌な表情になり


「嫌だ。今日はこのままここで寝る。伊予に触れなければいいんだろ?」


影男(かげお)さんを睨み付け、目を閉じて眠りについた。


しばらくそうしてると、スースーという兄さまの寝息が聞こえ、影男(かげお)さんがやっと腕の力を抜いて私を開放し、


「本当にいいんですか?大納言を怒らせたかもしれませんよ?」


寝返りをうち、影男(かげお)さんの方に向いてウンと頷き


「いいの。この人のわがまま全部に付き合うつもりはないもの。私が言いなりになると思ってる、傲慢なところも改めて欲しいし。」


(ささや)くと、影男(かげお)さんはフッと微笑み、その後、私たちは安心して眠りにつくことができた。


私の手を、兄さまがギュッと握りしめてきたことは、影男(かげお)さんには内緒にしたけど。


筆で素早く引いたような眉と、閉じた目に整然と並んだ短い睫毛や、玉のような白い肌。

寝息を立てて無防備に眠る姿を見ているうちに、心の底から愛しさが溢れ出た。

頬に触れたくなった。


利己的で傲慢な人でも?

目的のためなら手段を選ばない人でも?


最初から、そんな性格だって知ってても、


好きになった?


自問する。


よく考えれば、性格は忠平(ただひら)様と変わらない?

忠平(ただひら)様を拒否する理由にならないってこと?


じゃあやっぱり・・・。


幼いころから(そば)にいてくれたことで肉親代わりに甘えて依存してたり、初めての行為に快楽を覚えて、性的に依存してるの?


そうじゃない!

って思いたいけど。


考えても、他のミーハーな女子(おなご)たちよりも兄さまを好きな理由に思い当たらなかった。

美男子(イケメン)とか、権力者とか、お金持ちとか、崇拝する女子(ファン)はそういうところが好きなんだと思う。

内面じゃなく。


性格も、優しいとか、責任感があるとか、聡明で物知りとか、いいところはいっぱいある。


でもやっぱり私の中では、幼いころから憧れてた気持ちが強い。


大人になって初めて出会っていたら、恋してた?


つまり、忠平(ただひら)様に恋するかどうか?ってこと?


う~~~ん。

無いかな~~~~~~。


目をつぶってもグルグルと考えがまとまらず、悩みはますます深くなり、眠くなったと思ったら、すぐ朝になった。

(その5へつづく)

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