EP374:伊予の事件簿「霊魂風の気色(たまかぜのけしき)」 その3~伊予、内舎人との逢引きを邪魔される~
もぅっ!!
急に腕を掴むから、白湯が畳にこぼれたでしょっ!
苛立ちながらも、次の言葉を待ってるけど、なかなか話さないので、明るい声で
「ええとぉ、話したいことはね、兄さまのことなの。臺与と有馬さんを使って公卿を操ろうとしてたんだけど、そのお礼に彼女たちの望むものを与えたんですって。ほら、二人とも兄さまを好きでしょ?だから自分のその、身体というか、奉仕というか、を報酬にして、彼女たちを利用して、公卿達を思い通りにしたのね、で、」
よく考えれば、公卿をハメる『美人計』の報酬が、自分の身体?ってこれも『美人計』よね?
二重に発動してるのね!
目的のためには使えるものは何でも使うという、彼らの信念には敬服するものがある、けど。
影男さんは掴んだ私の腕を放し、腕組みしてボソッと
「大納言の浮気に怒ってるんですか?」
「そうっ!!どう思う?いくら目的のためでも、心が動かなくても、肉体関係があれば浮気でしょ?それなのに、私に謝ろうともしないってゆーか悪いとも思ってないみたい。私のために上皇の影響を朝廷から排除するためとか言って。平気な顔してるし、でも、結局・・・」
許した?
とゆーか、流されたとゆーか、そのあとのことを思い出し、恥ずかしくなって口ごもった。
強く吸われ、痕が付いた首筋に、思わず手やる。
しばらく残っていた『口づけの痕』。
多分もう消えてるハズ。
息遣いや、唇の感触を思い出し、奥が潤む。
影男さんが眉をひそめ、三白眼で睨み付けた。
「許してしまった自分を恨んでるとか?」
「そうなのっ!臺与や有馬さんみたいに、私も結局兄さまの手駒の一つというか、言いなりなのね。それを忠平様が『性的に依存してる』って。人間として尊敬の念があるわけじゃないって言われて、なるほどー!そうかも!って。人を騙して平気な人って嫌いだったハズなのに、いつの間にか離れられなくなってるってゆーか、洗脳されてるってゆーか、」
影男さんが無表情で、抑揚のない声でボソリと
「伊予さん、今日も按摩してあげましょう。寝てください。」
アレ?
話聞くのがウザくなった?
まぁね~~、結論無いもんね~~。
ほぼ愚痴だし。
まだブツブツいいながら、小袖姿になりうつ伏せになった。
寒さで震える私の体の、按摩するところ以外の部分に単を着せてくれた。
グッグッ、グッグッ、・・・
いい力加減で、律動的に押さえられると、それに合わせて体が揺れ、気持ちよくなる。
ウトウト眠くなった。
「あんまり凝ってませんね。近頃は書く仕事は少ないんですね?」
「そーなのぉーー!大掃除ばっかりだから!」
ウトウトしてたけど、影男さんの手が大きく撫でるように背中を動き始めた。
ゆっくり、大きく、撫でられると、変な気持ちになる。
「血行が良くなりますよ。」
ふぅん。そうなんだ。
脇の下から、乳房の付け根?に指が届いた時は、一瞬
ヒャッ!
っと声が出そうになった。
体がビクッとしたから、気づいたかも!
足首から、ふくらはぎ、腿、と按摩する手が上がってきて、もう少しでお尻に触れそう!
緊張してると、房の帷の外から
「誰っ?そこにいるのは?曲者っ?!!警備のものを呼ぶわよっ!!」
鋭い桜の声が聞こえ、帷をめくって、直衣姿の男性が入ってきた。
硬い低い、体の芯に響く声で
「いや、私だ大納言だ。伊予を訪ねてきたんだ。」
バツが悪そうに入ってきた兄さまと、ちょうど半身を起こして帷の方を見た私の目が合った。
はぁっ?!!
何なのっ?!!!
ビックリより呆れた気持ちの方が強かった。
有馬さんが今夜の影男さんとの逢瀬を告げ口したのね?
「はぁ~~~~~~!」
聞こえるように大きくため息をつきながら、
「曲者呼ばわりされるってことは、すぐに入ってこず、しばらく帷の外から覗き見してたんでしょ?覗いてた感想はどう?私の浮気には腹が立つの?自分のはよくても。」
兄さまは扇を口元に当て、余裕のフリ?して意地悪そうにほほ笑み
「どうぞ、私に構わず続けてくれ。」
フンッ!
言われなくてもそうしますっ!!
あっ!そーだっ!
いいこと思いついて
「影男さん!今度は私が按摩してあげるから寝て!」
戸惑う影男さんを無理やりうつ伏せに寝かせた。
兄さまをチラッと見ると、ゴロンと大げさな動作で横になり、手枕をしてこっちをジッと見ている。
こーなったら、一番、嫌がることをしてやるっ!!
バッ!!
足を開いて、影男さんの腰にまたがり、頸から按摩を始めた。
膝立ちして、お尻はつけてないけど。
ウンウン唸りながら、力を込めて按摩する。
硬いっ!!やっぱり筋肉のある人の体は硬いっ!!し、凝ってる!
なかなか柔らかくならないので、時間がかかる。
見られてると余計気が散って集中できないので、
「有馬さんか臺与のところへお行きになればいいでしょ?」
グイッグイッ!
揉みながら話しかける。
兄さまは多分、私が影男さんを追い払って自分を優先すると思ってる。
先に約束してたし、絶ーーーっ対っ、そんなことはしないっ!!
心に固く誓う。
グイッグイッ!
「他にもたくさんいらっしゃるんでしょ?遠慮なさらずお行きになってくださいっ!」
押しながら兄さまを見ると、目をそらさず、ジッと見つめ続けてる。
ますます居心地が悪くなって、按摩に集中できない。
気もそぞろになり、ソワソワしてる自分が嫌になって、またがるのをやめ、
「影男さん!もう寝ましょっ!腕枕をしてくださる?」
(その4へつづく)