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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
374/505

EP374:伊予の事件簿「霊魂風の気色(たまかぜのけしき)」 その3~伊予、内舎人との逢引きを邪魔される~

もぅっ!!

急に腕を掴むから、白湯が畳にこぼれたでしょっ!

苛立ちながらも、次の言葉を待ってるけど、なかなか話さないので、明るい声で


「ええとぉ、話したいことはね、兄さまのことなの。臺与(とよ)と有馬さんを使って公卿を操ろうとしてたんだけど、そのお礼に彼女たちの望むものを与えたんですって。ほら、二人とも兄さまを好きでしょ?だから自分のその、身体というか、奉仕(サービス)というか、を報酬にして、彼女たちを利用して、公卿達を思い通りにしたのね、で、」


よく考えれば、公卿をハメる『美人計(びじんけい)』の報酬が、自分の身体?ってこれも『美人計(びじんけい)』よね?

二重に発動してるのね!

目的のためには使えるものは何でも使うという、彼らの信念には敬服するものがある、けど。


影男(かげお)さんは掴んだ私の腕を放し、腕組みしてボソッと


「大納言の浮気に怒ってるんですか?」


「そうっ!!どう思う?いくら目的のためでも、心が動かなくても、肉体関係があれば浮気でしょ?それなのに、私に謝ろうともしないってゆーか悪いとも思ってないみたい。私のために上皇の影響を朝廷から排除するためとか言って。平気な顔してるし、でも、結局・・・」


許した?

とゆーか、流されたとゆーか、そのあとのことを思い出し、恥ずかしくなって口ごもった。

強く吸われ、(あと)が付いた首筋に、思わず手やる。

しばらく残っていた『口づけの(あと)』。

多分もう消えてるハズ。

息遣いや、唇の感触を思い出し、奥が潤む。


影男(かげお)さんが眉をひそめ、三白眼で睨み付けた。


「許してしまった自分を恨んでるとか?」


「そうなのっ!臺与(とよ)や有馬さんみたいに、私も結局兄さまの手駒の一つというか、言いなりなのね。それを忠平(ただひら)様が『性的に依存してる』って。人間として尊敬の念があるわけじゃないって言われて、なるほどー!そうかも!って。人を騙して平気な人って嫌いだったハズなのに、いつの間にか離れられなくなってるってゆーか、洗脳されてるってゆーか、」


影男(かげお)さんが無表情で、抑揚のない声でボソリと


「伊予さん、今日も按摩(あんま)してあげましょう。寝てください。」


アレ?

話聞くのがウザくなった?

まぁね~~、結論無いもんね~~。

ほぼ愚痴だし。

まだブツブツいいながら、小袖姿になりうつ伏せになった。


寒さで震える私の体の、按摩(あんま)するところ以外の部分に(ひとえ)を着せてくれた。


グッグッ、グッグッ、・・・


いい力加減で、律動的(リズミカル)に押さえられると、それに合わせて体が揺れ、気持ちよくなる。

ウトウト眠くなった。


「あんまり凝ってませんね。近頃は書く仕事は少ないんですね?」


「そーなのぉーー!大掃除ばっかりだから!」


ウトウトしてたけど、影男(かげお)さんの手が大きく撫でるように背中を動き始めた。

ゆっくり、大きく、撫でられると、変な気持ちになる。


「血行が良くなりますよ。」


ふぅん。そうなんだ。

脇の下から、乳房の付け根?に指が届いた時は、一瞬


ヒャッ!


っと声が出そうになった。

体がビクッとしたから、気づいたかも!


足首から、ふくらはぎ、(もも)、と按摩(あんま)する手が上がってきて、もう少しでお尻に触れそう!

緊張してると、(へや)の帷の外から


「誰っ?そこにいるのは?曲者っ?!!警備のものを呼ぶわよっ!!」


鋭い桜の声が聞こえ、帷をめくって、直衣(のうし)姿の男性が入ってきた。

硬い低い、体の芯に響く声で


「いや、私だ大納言だ。伊予を訪ねてきたんだ。」


バツが悪そうに入ってきた兄さまと、ちょうど半身を起こして帷の方を見た私の目が合った。


はぁっ?!!

何なのっ?!!!


ビックリより呆れた気持ちの方が強かった。


有馬さんが今夜の影男(かげお)さんとの逢瀬を告げ口したのね?


「はぁ~~~~~~!」


聞こえるように大きくため息をつきながら、


「曲者呼ばわりされるってことは、すぐに入ってこず、しばらく帷の外から覗き見してたんでしょ?覗いてた感想はどう?私の浮気には腹が立つの?自分のはよくても。」


兄さまは扇を口元に当て、余裕のフリ?して意地悪そうにほほ笑み


「どうぞ、私に構わず続けてくれ。」


フンッ!

言われなくてもそうしますっ!!

あっ!そーだっ!

いいこと思いついて


影男(かげお)さん!今度は私が按摩(あんま)してあげるから寝て!」


戸惑う影男(かげお)さんを無理やりうつ伏せに寝かせた。


兄さまをチラッと見ると、ゴロンと大げさな動作で横になり、手枕をしてこっちをジッと見ている。


こーなったら、一番、嫌がることをしてやるっ!!


バッ!!


足を開いて、影男(かげお)さんの腰にまたがり、頸から按摩(あんま)を始めた。

膝立ちして、お尻はつけてないけど。


ウンウン唸りながら、力を込めて按摩(あんま)する。


硬いっ!!やっぱり筋肉のある人の体は硬いっ!!し、凝ってる!

なかなか柔らかくならないので、時間がかかる。

見られてると余計気が散って集中できないので、


「有馬さんか臺与(とよ)のところへお行きになればいいでしょ?」


グイッグイッ!


揉みながら話しかける。


兄さまは多分、私が影男(かげお)さんを追い払って自分を優先すると思ってる。

先に約束してたし、絶ーーーっ対っ、そんなことはしないっ!!

心に固く誓う。


グイッグイッ!


「他にもたくさんいらっしゃるんでしょ?遠慮なさらずお行きになってくださいっ!」


押しながら兄さまを見ると、目をそらさず、ジッと見つめ続けてる。


ますます居心地が悪くなって、按摩(あんま)に集中できない。

気もそぞろになり、ソワソワしてる自分が嫌になって、またがるのをやめ、


影男(かげお)さん!もう寝ましょっ!腕枕をしてくださる?」

(その4へつづく)

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