EP371:伊予の事件簿「二心の如虎(ふたごころのねこ)」 その7
はぁ?
何を言ってるの?
「まだ間に合うって、どういう意味?私が純粋無垢な乙女だっていいたいの?乙女なワケないじゃないっ!!
性的に依存してるだけって言われたのにっ!!兄さまを好きなんじゃなくて!」
筆で引いたような美しい眉根を寄せ、苦痛に耐えるように
「誰が・・・?そんなことを?」
ザッ!
立ち上がり、キッ!と睨み付け
「お酒に酔って、忠平様に迫ったらそう言って断られたわ!兄さまのせいよっ!!」
グイッ!
両手で頬を掴み、引き寄せ、唇を奪う。
音を立てて激しく口づけしたあと
「四郎に迫った?性的に依存してる?」
私の衣を脱がそうとするので自分で脱ぐと、兄さまも手早く小袖姿になった。
押し倒し、狂ったように体中に唇と舌を這わせ、肌を強く吸う。
快感よりも痛みの方が強い。
「痛いっ!!兄さま・・・」
「四郎でも影男でも、好きにすればいい、好きなだけ抱かれればいい。それでおあいこだ。
私には既に妻がいるし。浄見を束縛できない。
ただ、誰に抱かれても、そのときは私を思い出すようにしてやるっ!」
一層激しく、体中を愛撫され、痛みと、快感で、我を忘れた。
この先、きっと、体のどの部分を、誰に触られても、兄さまを思い出す。
体の隅々に愛の炎で烙印された証しを。
全ての感覚器に刻み込まれた快感と痛みを。
最も強い、激しい、狂おしいほどの愛情を。
「私に依存してる?
望むところだ。
昼も夜も私のことを考えてくれ。
どうしようもないくらい求めてくれ。
朝廷から上皇の影響を取り除くために、菅公に与する公卿を減らす。
菅公の家が儒家であり家格が低いことを強調し、元皇族である源氏や、藤氏をはじめとする血筋頼みの貴族の協力を取り付ける。
それを有馬や臺与に頼んだんだ。
全てすんだら、浄見をやっと独り占めできる。私だけのものにする。
それまでは好きにすればいい。性的に依存?何だって構わない。
浄見のどの部分にも、私を刻み付ける。」
私の全てに、兄さまの唇や舌や指が触れ、快感をもたらし、甘い記憶となった。
何度も絶頂に達しそうになり、その度に焦らされ、放恣な官能の蜜や声が漏れ出す。
濡れて、寝乱れ、グチャグチャになった茵ですら、激しい愛の証しとして、愛しく思えた。
衣をはぎ取られた背中の、骨を指でなぞりながら
「ここは影男が触れた?小袖越しに?」
ウンと頷くと、口づけし、強く吸う。
何度もしつこくそんなやり取りを繰り返すので、呆れてめんどくさくなった私は
「もう衣を着てもいい?」
起き上がって小袖を身につけ腰紐を結んだ。
兄さまも起き上がって座り、頬に触れ、唇を親指でなぞりながら
「もう終わり?性依存じゃなかったの?」
恥ずかしくなって兄さまの頬を両手でパンッ!と挟み、指でほっぺを摘まもうとするけど肉が無いので摘まめない。
かわりに唇を摘まんで引っ張り、痛そうに顔をゆがめるのを見て、ほくそ笑み
「いいの。欲求不満になったら、影男さんに頼むから。」
眉を上げ、意地悪そうに口をゆがめて笑い、
グッ!
唇をなぞるのをやめ私の頬を摘まんだ。
真面目な顔つきになると
「私の心の一つを、浄見に捧げているとすると、もう一つの心は・・・」
言いかけてやめ、そのあと、どれだけ待っていても、
その言葉の続きを、兄さまは教えてくれなかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
猫の語源の一説で『如虎』はちょっと無理がある気がします。
『虎の如し』って、確かに猫は『ミニ野獣』感満載でかわいい!ので採用しました。