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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
368/505

EP368:伊予の事件簿「二心の如虎(ふたごころのねこ)」 その4

忠平(ただひら)様が険しい表情で


「始めはそうでも、今は欲求を満たすのために兄上を求めてるんじゃないのか?

それなら、もういいんじゃないか?こだわる必要はないだろ?

求めても与えてくれず、辛いだけなら、あっさり別れた方がいい。」


そうなの?

私が兄さまを好きなのは、欲求を満たすため?

そのために逢いたい!とか愛しい!とか思ってるの?

性的な欲望に踊らされてるの?

兄さまに性的に依存してるの?


なぜか悲しくて悔しくて、涙が出そうになった。


ナーーーーオッッ!

ッナーーーーオッッ!


庭で、盛りの付いた猫の声がする。


私も同じなの?

猫は撫でられて気持ちよかったり、餌をくれて満腹になったりするとその人を好きになって懐く。

それと同じ?

所詮、人間なんて動物だし、高尚な事を考えても口にしても、本能には逆らえない。


人として尊敬してるとか、賢さに憧れてるとか、優しさに感謝してるとか、全部、


建前なの?


自分にすら嘘ついてたの?


ううんっ!

それでもいいじゃないっ!


一番、男として好きなのは、あの人。

男性として魅力的なのはいいこと。


忠平(ただひら)様をジッと見つめ返し


「それでも時平さまのことが好き。性的に依存してたとしても、別れたくない。」


首を横に振り


「そんな恋愛は健全じゃない。よく考えてみて?一方的に依存して、彼無しでは生きていけないなんて洗脳されてるのと同じだろ?伊予だけが奪われる関係は公平じゃないよ。利用されていいように使われるかもしれない。それでもいいのか?」


真剣なまなざしで訴える。


ムッ!として気を引き締め


「だからあなたにしろと言うの?同じじゃない!あなたが洗脳していいように私を利用するかも!誰でも同じなら兄さまがいいわ!」


ふぅっとため息をつき


「伊予、内裏に戻って、ゆっくり考えてみればいい。少なくとも今日の私は自制できただろ?それほど下衆(げす)な男じゃないって信じてくれるだろ?」


兄さまだって下衆(げす)じゃないしっ!!

いつも自制してるしっ!!


ってことは、私に問題があるだけ?


すぐに何かに依存したくなるって問題があるの?


また深刻に悩み、(へこ)みつつ、枇杷屋敷を後にし、内裏へ帰った。

内裏へ着くころには、すっかり酔いが醒めてた。



 『詩歌の宴』の当日、私と(もみじ)更衣は萄子更衣(どうここうい)の在所であり主催会場でもある宣耀殿(せんようでん)を訪れた。


宣耀殿(せんようでん)は雷鳴壺と違って南北に長い舎殿で、北には几帳や衝立や屏風で囲った空間に、帝の妃嬪である各局の主たちが座った。

和歌の作者の方人(かたうど)である、各局の代表者は東西に三人ずつ並んで座った。内裏の西側の局が右方(みぎかた)、東側の局が左方(ひだりかた)となって左右で対決する。

右方の代表者(メンバー)は雷鳴壺の方人(かたうど)は私、唐花殿(とうかでん)方人(かたうど)は兄さまの元恋人の一人で女房の敦賀(つるが)さん、承香殿(じょうきょうでん)雉子(きじこ)さん、左方は宣耀殿(せんようでん)臺与(とよ)常寧殿(じょうねいでん)美華子(みけこ)さん、淑景舎(しげいしゃ)(桐壺)の茶々(ちゃちゃ)の合計六人。

西廂(にしひさし)側の御簾と壁代(かべしろ)は巻き上げてあり、廊下に帝の先触れがお見えになった時すぐに対応できるようにしているけど、それ以外の三方向は格子も壁代(かべしろ)も降ろし、屏風を立てて隙間風を防いでる。

もう寒いしね!

帝は政務を終えられて、時間があればいらっしゃるとのこと。


方人(かたうど)である女房達の衣装は(ぜい)()らして色とりどりの重ね(うちぎ)(ひとえ)()唐衣(からぎぬ)まで着けた超絶(ちょうぜつ)動きにくい格好。

(うちき)(かさね)色目(いろめ)濃蘇芳(こきすおう)(濃い紫)から青く移り変わる『白菊(しらぎく)』や黄色から紅に移り変わる『櫨紅葉(はじもみぢ)』、淡青から黄を通って紅、蘇芳と色とりどりに移り変わる『楓紅葉(かへでもみぢ)』が冬の装いで有名で、それを取り入れてる人たちが多い。


私は季節感が無いけど、白から紅梅、淡くなって青に変化する『雪の下』がどうしても着たくなったので、わがままを通して身につけた。

寒い季節に雪の色!は周囲に溶け込んでカッコイイ!と思うんだけど。私だけ?


正式な歌合せではないからと、審判役である判者(はんざ)萄子更衣(どうここうい)がなされ、講師(こうじ)(歌を読み上げる役)は宣耀殿(せんようでん)臺与(とよ)じゃない女房。

全員女子だから殿方に媚びる必要が無いのは気が楽!

基本的に同じ組の和歌は誰のであっても、いいところを見つけて褒めましょうという、同じ組は全員念人(おもいびと)ルールでやることになった。


お題は『雪』『月』『花』『鳥』の順で左方の一首と右方の一首、を競わせて勝敗を決めていく。

こっちのがイマイチの出来でも相手もイマイチなら勝機はあるってことね!


萄子更衣(どうここうい)がハキハキと


「では一つ目の歌題は『雪』です。左右各々、一首目の『雪』の和歌を選んでください!」


私たち右方は三人集まって相談し、私の歌が選ばれた。

一番か~~~!

負ければ幸先(さいさき)が悪いなぁ~~!

プレッシャーがエグイっ!

(その5へつづく)

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