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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
365/505

EP365:伊予の事件簿「二心の如虎(ふたごころのねこ)」 その1

【あらすじ:明け方に同僚の女房のへやから出てくる時平様と鉢合わせした私は、ショックのあまり自棄になりがち。後宮のつぼね対抗歌合せに向けて、お題にそった和歌を準備するため訪れた屋敷で、忠平様に酷いことを言われ、さらに凹んで浮上できない。政治に女性を利用するのは賢い為政者なら当たり前なの?私は今日も無為無策ながら胸を張る!】

今は、899年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平(ふじわらときひら)様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。

何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。

 本格的に朝晩が冷え込み、朝日が昇る前に目覚めても、テキパキ働き始めるのが嫌で、(よぎ)のなかで丸まって二度寝三度寝したい誘惑と戦いながらも、めずらしく覚悟を決めて『エイヤっ!』と起き上がったある朝。


(はかま)(ひとえ)(うちき)を身につけ、髪を()かして結んで整え、女房の仕事に取り掛かろうと雷鳴壺の自分の(へや)(とばり)をめくって外に出た。


ちょうどそのとき、隣の(へや)(とばり)をめくって出てくる、直衣(のうし)姿の殿方が視界に入った。


あっ!有馬さんの(へや)から男の人が出てきた!!

新しい恋人?


暗くてよく見えないけど、あんまりマジマジ見つめるのは失礼かなと思って、俯いて横を通り抜け妻戸から外に出ようとすると、すれ違いざまにその人の胸に肩がぶつかった。


「あっ!ごめんなさいっ!!」


「伊予か?」


硬くて低い、身体の奥に響くような、懐かしい声。


顔を上げ、暗がりに慣れてきた目でしっかりと顔を確認すると、玉のような頬、筋の通った優美な鼻、薄墨色の目元に、クッキリと鋭い線を描く顎、は紛れもなく兄さまだった。


えっ?


思ったけど、声をひそめ


「兄さま?そこは有馬さんの(へや)よ!間違えたの?それにもう朝よ!」


私のところへ来るはずなのを、間違えて有馬さんの(へや)へ入ったのね?


ジッと見つめると、少し眉を上げ、焦ったようにパチパチと瞬きし、口の端を上げて笑顔を作る。


「時平様、お忘れ物よ、ハイこれ」


兄さまの後ろから(とばり)をめくって、手巾を手に持ち出てくる有馬さんと目が合った。


はっ??!!!

どーゆーこと?!!


ビックリして目を丸くして、ポカンと口を開けてると、兄さまが有馬さんから手巾を手渡され、(たもと)にしまった。


有馬さんは小袖姿で、髪も寝乱れてる。

・・・・・ということは?

すぐには状況を理解できず、ボンヤリと凍り付い(フリーズし)てた。


茫然(ぼうぜん)とした姿を見て、勝ち誇ったようにニンマリと満面の笑みを浮かべた有馬さんが


「あらっ!伊予っ!今日は珍しく()が昇る前に目が覚めたのね?いつもは一番最後に起きるのに!時平様、ご存じかしら?この子ったらいつも、桜が何度も声をかけてもなかなか目を覚まさず、ひどいときは()が高くなるまで(へや)から出てこないのよ。」


はぁ?

何言ってるのよっ!!

そんなこと無いっ!!・・・とは言い切れないけど、兄さまの前で言う必要ないでしょっ!!

ムッ!として


「時平様は私が朝寝坊なのをとっくに知ってますっ!何度も一緒に寝てるものっ!!」


口をとがらせて、子供っぽい反論しか思いつかないところが情けない。


有馬さんがフフッと含み笑いして、兄さまの腕に腕を絡ませ


「そうだったわね?でも近頃はそうじゃないんでしょ?あなたにも影男(かげお)が通ってくるぐらいだし。時平様は夜離(よが)れ気味なんでしょ?ねぇ、時平様?」


色っぽい目つきで兄さまを見つめる。

影男(かげお)さんを持ち出して、チクッ!と嫌味を入れてくるところが老獪(ろうかい)な有馬さんらしい。


兄さまこそっ!何か言ってよっ!!

ギロっと睨みつけると、気まずそうに目をそらし


「ああっとぉ、朝議に遅れるから、私はこれで失礼する。」


有馬さんの腕を振りほどいて、妻戸の方へ歩き始める。

はぁっ??!!!

逃げるのっっ!!


「待ってっ!!時平様っ!今夜、大納言邸に伺ってもよろしいかしら?」


有馬さんを横目でにらみつけ、『いつでも屋敷に行ってOK!なぐらい仲が良いのよ!』マウントをとろうとすると、兄さまは立ち止まり、顔だけで振り向き


「今夜は先約がある。悪いが遠慮してくれ」


静かな声で言い残して、立ち去った。


はぁ~~~~???!!!

今度こそ本当に怒りで頭に血が上る。


クスクス笑う有馬さんに


「何よっ!!兄さまが本気で愛してるのは私だけよっ!!!」


吐き捨てるけど、有馬さんはクスクス笑いながら自分の(へや)に入った。


怒りがおさまらず、その日は一日中、プンプンしながら過ごすハメになった。

(その2へつづく)

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