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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
363/464

EP363:伊予の事件簿「推拿の伎倆(すいなのぎりょう)」 その4

 その日の午後、咽喉がイガイガするという(もみじ)更衣のために薬を受け取りに典薬寮を訪れると、入り口の前に長蛇の列ができてた。

その横を通って中に入り、煎じ薬の受け取り場所で、蓋の付いた瓶に入った葛根湯を受け取りながら


「あの行列は何ですか?」


董林杏(とうりんきょう)の施術予約のために並んでる人たちですよ。他の按摩師は手が空いてるのに、董林杏(とうりんきょう)だけが人気なんです。」


どこでやってるのかな?

キョロキョロ辺りを見回すけど、薬草の棚と、予約受付の長い机に座って予約を帳面に書き付けてる人と並んでる人たち、診察中の帷や几帳で区切られた空間、煎じ薬を受け取るために待ってる人たち、角盥(つのだらい)や薬草の入った(かご)水瓶(すいびょう)をもって行き交う人たち、ぐらいしか見当たらない。


「按摩施術院は別棟ですよ。」


受付の人が教えてくれた時、入り口から、たすき掛けして水干の袖を括り止め、括り袴、なのに冠をつけた官服なのかわからない恰好の男性が、行列の横を通って、煎じ薬の受付場所まで来て、


「薬を混ぜた菜種油が切れたので今までと同じ材料と配合で調合してください」


チラッと見るとむき出しになった腕や手、指先は細くて白い。

受付の人が


「はい董林杏(とうりんきょう)さん。少々お待ちください。」


え??

てことはこの人が董林杏(とうりんきょう)


ビックリして横顔をまじまじと見つめてしまった。

背は私より少し高いぐらい。

色白で面長、少し長くて高い鼻、横からでもよくわかる長い睫毛。

すべすべの肌は玉のように白く、兄さまを思い出した。


私の不躾(ぶしつけ)な視線に気づいたのか横を向き、微笑んで


「もう少しかかりそうですね。混みあっていますから。」


煎じ薬を待つ人たちは私も含めその辺で何となく立ってる。

って私は受け取ったからサッサと帰らなくちゃ!


受付の人が出ていった勝手口に向かって董林杏(とうりんきょう)


「後で取りに来ます!」


大声で叫んで、また私にニコッ!と微笑みかけて、足早に立ち去った。


う~~~ん。

感じの良い人!

忙しそうなのにピリピリせず、気遣いもできる!

それに何たって兄さまに負けず劣らずの美男子(イケメン)

あの細腕で一日何十人?もの施術をこなすの?


ハッ!


もしかして、肉体の力を使わず施術してる?!!

となると、呪力とか?気功?

じゃあ、襲われた理由は誰かに呪いをかけ、それがバレて咎められたとか??!!!!


気になるっ!


こうなったら施術を予約して、董林杏(とうりんきょう)から直接話を聞くしかないかしら?

でも、知らない人に体を触られるのには抵抗がある!

ホントに重病とかじゃないければ嫌っ!!


董林杏(とうりんきょう)が襲われた理由って何なの?

モヤモヤする~~~!

感じのよさそうな人柄の裏に、暗殺だとか謀略だとか危険で殺伐とした暗黒面があるの?


悩みながら過ごしてると、夕方、兄さまからの文が届いた。


『逢いたい。大納言邸に来てくれ 時平』


ドキッ!


兄さまに逢えるのも一週間ぶり。


迎えに来てくれた竹丸に案内され、主殿に通される。

灯台の明かりの横で、読みかけの書を開いたままの文机に突っ伏して居眠りしてる兄さまの姿があった。


疲れてるのね!


無防備な寝顔を見てると、愛しさが溢れる。


なぜ?


なぜ私は、この人をこんなにも好きなの?


傷ついた顔も、冷笑的な笑みも、怯えた表情も、自信に満ちた顔も、

ぜんぶ愛しくて、キュン死しそう!


起こさないように、そぉっと寝所から(よぎ)をとってきて、背中に掛けた。


目を覚まさないので、時間つぶしに物語を物色して隣に座って読み始めた。


「んっ・・・・う~~~~ん!アレ?浄見、もう来てたの?どれぐらい寝たのかな?」


ムニャムニャいいながら腕を上げ、背を伸ばして、伸びをし、微笑みかける。


「あっ!そうだ!兄さま疲れてるんでしょっ!影男(かげお)さんに按摩をおそわったからしてあげるっ!!小袖になって寝所にうつぶせになって!!」


「はぁっ?」


戸惑う兄さまの腕を引っ張って立ち上がらせ、寝所に急かした。


私も小袖になり、小袖姿でうつ伏せになる兄さまの体幹に向かって膝をついて座り、影男(かげお)さんの真似をしてまず頸を摘まみ、力を入れてみる。


硬いっ!!

(すじ)の間に全然、指が入らないっ!!


何とか体ごと体重を乗せようと苦労してると、ボソッと


「四郎と董林杏(とうりんきょう)の関係は?上皇絡みだった?四郎に聞くと怪我は大したことないと言ってたが、上皇の動向はいつも誤魔化される。あっもうちょっと力を強くしてくれないと、何にも感じない。」


「兄さま!筋肉がカチカチっ!!凝ってるのね!」


頸すじは何とか握ったり緩めたりして柔らかくなってきたので、頸から肩にかけてに移る。


もっと硬いっ!!

どーしてくれようっ!!


えいっ!と力を入れようにも、横向きだと力が入りにくい。

真正面に向きたい!

影男(かげお)さんは力が強いからできたのね?!!


どーしよーーっ!!

ちょっと悩んで、はしたないけど、まいっか!


って軽い気持ちで兄さまの背中にまたがった。

一応体重はかけないように膝立ちになって、よしっ!と肩に両手をついて力を入れようとすると、足の下で


モゾッ!


兄さまが身じろぎしたと思ったら、鋭い声で


「何をしてるっ!!」


半身を起こそうとしたので、慌ててまたがるのをやめて元通りに座る。


鋭い怒鳴り声に思わず体が


ビクッッッ!!!

(その5へつづく)

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