表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
358/505

EP358:伊予の事件簿「落葉樹の博戯(らくようじゅのはくぎ)」 その4

 寝所で添い寝してると、兄さまがボソリと


影男(かげお)内舎人(うちとねり)の内示を辞退した?上の命令に逆らうような真似をして式部省(しきぶしょう)あたりに伝われば、大舎人(おおとねり)を解雇され、使部(しぶ)(官庁で雑用に使った下級の役人)に落とされてもおかしくないぞ。

・・・・フン!それはそれで、私には好都合だが。」


えぇっっ??!!!

そうなのっ?!!!

早く教えてあげなくちゃっ!!


 翌朝、内裏に戻ると早速、庭仕事してた影男(かげお)さんを見つけて、袖にしがみつき


「内示を辞退するのをやめて!ちゃんと受けなきゃ!大舎人(おおとねり)どころか使部(しぶ)に落とされるかもしれないでしょっ!!」


心配になって一方的にまくしたてた。


影男(かげお)さんは竹ぼうきに腕を乗せ、真っ直ぐ前を見ながら無表情のまま


「あぁ。そうですね。そうなったら、あなたに雇ってもらうしか方法はありませんね。内裏の外でしか逢えなくなりますし。」


はぁ??!!!


「何言ってるの?!そんなことになるならやっぱり内舎人(うちとねり)になって、出世を目指した方がいいでしょっ!!断るのはやめてっ!!ねっ??!!!今からでも辞退しません!って大舎人頭(おおとねりのかみ)に言いに行って!」


無表情のまま、クルリとこっちを向いたと思ったら、顔全体が緩み、ほぐれたような笑顔になった。


硬い、無機質な傀儡(くぐつ)が、突然生命を吹き込まれたかのように、溌剌(はつらつ)とした青年の輝いた表情になり


「伊予さん。あなたのように素直に私の心配をしてくれる人は、母親の他に会ったことがありません。

・・・・そうですね。

あなたもやっぱり、外聞や体裁のいい男の方が好きですよね?


では、最悪の場合、内舎人(うちとねり)になりましょう。


ですが、一つ試してみたいことがあります。

要するに、内舎人(うちとねり)任命が帝の一存で決まったことなら、帝の気を変えさせればいい」


不敵な笑みを浮かべ、静かに言い放った。


って一体どーするの??!!

どーやって帝の気を変えさせるのっっ???!!!

帝を操る?!!

そんなことできるの??!!!

そもそも、そんなことしていいのっ??!!


驚いて目を白黒させてる私を見て面白そうにクスクス笑いながら


「大丈夫です。大したことじゃない。

鶯鶯伝(おうおうでん)を翻訳したのは別の大舎人(おおとねり)とだった』と(もみじ)更衣経由で帝に伝えてくれればいいんです。

帝は私が翻訳したと思っているから内舎人(うちとねり)にしようと思ったワケでしょう?

私でないとすれば昇進の理由は無くなります。

話はご破算(はさん)になりますよ。」


ジトッと不信そうに見つめ


「帝にウソをつくのね?でも、(もみじ)更衣も桜も影男(かげお)さんと私が翻訳したのを知ってるわ!話を合わせてくれるかどうかわからないわよ!」


しょうがないな!という風に肩をすくめ


「なら諦めましょう。私はあなたのもとを去ります。内舎人(うちとねり)にでもなりましょう。」


私の表情を窺い、面白がるように目の端でチラ見する。


はぁ?

どーするかは私次第ってこと?

影男(かげお)さんと一緒にいたければ、帝に嘘をつけってことね?

確かに(もみじ)更衣と桜が話を合わせてくれれば上手くいくかも。

一緒にいるところを他には見られてないし、見られたとしても翻訳作業をしてたと知ってるのは二人だけ。


でも・・・・


ハッ!!


として、


「兄さまが知ってるわ!そもそも兄さまの企みだものっ!!影男(かげお)さんを帝に推薦したのは!

兄さまが嘘を暴いたら『帝を欺いた』という私たちの罪になるわ!」


スッ!


熱が冷めたように急に、無機質な、傀儡(くぐつ)のような無表情に戻り


「私が翻訳を手伝ったという証拠はどこにもありません。文字は全てあなたが書いたし。

大納言がウソだと主張しても帝を説得できるかどうか。

帝が、(もみじ)更衣と大納言のどちらを信じるか?ですが。


それに、大納言があなたを傷つけることはしない。

実際に嘘を暴いたとしても、なにかと理由をつけ私だけを罰するでしょう。」


「そうなの・・・・?」


(もみじ)更衣や桜が安全なら、やってみてもいい・・・・と思ったけど、


「わかった。考えてみる。最悪な事態は、兄さまが私の嘘を暴いて、影男(かげお)さんだけが罰を受ける事よね?それだけは避けたいから、兄さまを説得してみる。」


はぁ~~~~っっ!


大きい溜息が聞こえ、首を横に振りながら


「何もわかってませんね。大納言が最も望むのは実際そうなることです。説得できるはずありません。一か八かやってみるしかないんです。」


「でも!影男(かげお)さんだけが罰を受けるなんてっ!!できないっ!」


無表情の三白眼の黒目が大きくなり、光を宿した。


「伊予さん、あなたに出会えてよかった。」


はぁ~~~???

何っ??!!


「一生のお別れみたいに言わないでっ!!待ってて!絶っ~~~対っ兄さまを説得するから!他の大舎人(おおとねり)が翻訳したことにするからっ!!ねっ??」

(その5へつづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ