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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
356/505

EP356:伊予の事件簿「落葉樹の博戯(らくようじゅのはくぎ)」 その2

ドキンッ!


少しずつ、速く、鼓動が打ち始めた。


少しずつ、息が苦しくなる。


頬が熱い。


責めるでもなく、懇願するでもなく、ただ、無表情に見つめる。


尖った鼻、尖った顎、ゆるく真一文字に結んだ口元。


目だけが別の生き物のように黒く輝き、私の答えを待っている。


全てを、風という運命に任せたような、落ち葉のような飄々(ひょうひょう)とした(もろ)さを身に(まと)っていた。


追いかけなければ、手をすり抜けてどこかへ飛び去ってしまう!


手を伸ばさなければ、水面(みなも)に落ちて流れ去ってしまう!


感じたことのない焦燥感に駆られた。


本心を見透かされないようにワザと口をとがらせ不機嫌に


「だって、将来の影男(かげお)さんに『出世の機会(チャンス)を潰した』って恨まれるのはイヤだもの!

どうせ何年後かには、私を悪者にして『あのとき道を間違えなければ、今頃、参議になれたのに!伊予のせいで今は惨めだ!』とか愚痴るんでしょっ!!

そんなこと言うぐらいなら、内舎人(うちとねり)になって実力で参議になれるかどうかを試してみて欲しいわっ!!」


プンと頬を膨らませ横を向く。


スッ!


影男(かげお)さんが手を伸ばし、私の手を握った。


「伊予さん、私の目を見て」


「イヤっ!!」


私を、嫌いになって欲しい。


ワガママで、自分のことしか考えてない、愛する価値のない女子(おなご)だって


こんな女子(おなご)のために、有望な前途を潰したくないって


思ってほしい。


クイッ!


あごをつままれ、正面を向かされた。


目に溜まった涙が、もう少しでこぼれ落ちそうだった。


「本当は、どう思ってるんですか?」


口の端を少し上げ、困ったように微笑んでる。


「だって!私は、あなたを愛せない!なのに、引き留めることなんてできないっ!!あなたの将来を奪う権利はないっ!」


グィッ!!!


握った手を引っ張られ、胸に抱きしめられた。


「伊予、さん・・伊予・・・・・・・・・・・・・・・浄見(きよみ)


ドキッ!


「その・・名前は・・誰にも知られたくないの!」


抱きしめる腕が硬くなり、体が締め付けられる。

指に力が入り、グッと背中に食い込む。


「わかってます。あなたは大納言の妻になる。それでも構わない。


あなたは大納言を愛してる。それも、承知してます。


あなたたちを引き離すつもりはない。


ただ、一生、あなたのそばにいたい。


あなたを、守り続けたい。」


ギュッ!


胸が苦しくなった。


「ダメよ!何も返せないものっ!あなたに、返してあげられるものがないのっ!そんなの不公平だわ!一方的にもらう事なんてできないっ!!」


クスクス


影男(かげお)さんが思わず笑ったような気がした。


抱きしめる力が緩み、私を胸から離して、あごの下に指を添え


「それなら銭を受け取ります。一生、専属の身辺警護になります。あなたの払える額でいい。これで公平でしょう?」


バカなの?

そんな利益のない取引っ!!

誰がするのよっ!!


「わかったわ!銭を払えば私が雇い主ってことね?ヘマしたり、嫌になったらすぐにやめてもらいますからっ!!」


影男(かげお)さんが不安そうに眉根を寄せ


「わかりました。あなたの負担になるようでしたら、すぐに身を引きます。そのときはハッキリと言ってください。」


ん?

まだ銭を払ってないから雇い主でもなんでもないけど。


「じゃあそういうことで!あっ!でも、内舎人(うちとねり)の話、断らないでねっ!!一旦なってみて、ダメならやめて、私の身辺警護でもいいってこと・・・」


まだ話してる途中なのに、あごの下に指を添えたまま唇を近づけてくる。

唇を重ねられ、摘ままれたあごを上に(かたむ)けられ、舌を舌に絡められた。


「っんっっ!!」


前よりも大胆に、舌が動き回る。

頭がぼぉっとして思考力が奪われる。


唇がやっと離れたと思ったら


「何もわかってませんね。内舎人(うちとねり)になれば、私の負けです。」


とろけるようなボンヤリとした表情で、ふぅっと吐息を吐くように呟いた。


はぁぁ?

どーゆー意味??!!!

(その3へつづく)

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