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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
350/461

EP350:伊予の事件簿「傾国の鶯(けいこくのうぐいす) 」その3

はぁ?


「どこまでって、ダメっ!口づけで終わりっ!!」


キッパリと言い放つ。


「じゃあ」


スッ!と顔が近づき、もう一度唇を重ね、丁寧に、口の中の一つずつを確かめるように舌で愛撫する。

隅々まで大事に、愛されてる気がする。


「・・っぅんっふっ」


思わず鼻の奥から抜けるような快感の声が漏れた。


ドンッッッ!!!!!


床に重い硬いものが落ちる音がした。


グイッッッ!!


私に覆いかぶさっている影男(かげお)さんの肩が持ち上げられ、後ろに突き飛ばされた。

ゴロッ!と仰向けになった影男(かげお)さんに向かって


「離れろっっ!!」


鋭く、低く、硬い、静かな怒号。


声の方向へ視線を向けると、目に入ったのは、私の顔の横に膝をつき、影男(かげお)さんを突き飛ばした手を伸ばしたままジッと硬直した兄さまの姿だった。


ドキッ!!!


心臓バクバクっっ!!


どーーーーしよーーーーっっ!!

見られた??!!!

パニック!!


全身から冷や汗が噴出し、焦って身を起こし、何とか取り(つくろ)う。


「あの、その、漢文の翻訳をね?教えてもらっててね、遅くなっちゃって・・・・」


怒ってる?

嫌われた?

今度こそ本当に『尻軽浮気女』だって思われた?


浮気の罪悪感が身に染みてるので、リアルな修羅場のピリピリムードに『激怒されるかも?』の不安でいっぱいになった。


「伊予っ行くぞっ!!」


私の手をグイっ!と引っ張って立ち上がらせ、手をつないだままスタスタと雷鳴壺へ連れて行く。

逆らう意思も気力もなく、トボトボ引きずられていく。

なんせ罪悪感と後悔で何も言えない。


私の(へや)に入らず、北(ひさし)(北側の廊下)まで連れて行くと手を放し、腕を組んで低い声でボソリと


「なぜあんなことになった?」


何て言えばいいの?

こんなに後ろめたいのは初めて!!


(うつむ)いてモジモジしながら、


「ええとぉ、兄さまに借りた『鶯鶯伝(おうおうでん)』を(もみじ)更衣にお渡ししたら、漢文では読めないとおっしゃったの。」


不機嫌そうにひそめた眉の下の、端正な切れ長の目でギロっと睨みつけられ


主上(おかみ)はお読みになられる。何の問題もない!」


「そうだけどっ!!(もみじ)更衣も物語の面白さを共有おできになれば、帝とお話しされたとき楽しいでしょ?だから(もみじ)更衣のために翻訳しようと思ったの。でも、私だけじゃ不安だから影男(かげお)さんに協力してもらったの。」


フンッ!


バカにしたように鼻で笑いながら


「まどろっこしいっ!(もみじ)更衣も漢文を勉強されて読めるようになればすむ話だろっ!なぜ和訳が必要なんだ!!?それに、お互いが既に知ってる物語について何を話し合う必要があるんだ?新たな情報は何もないだろうにっ!!」


ムッ!として

キッ!と顔を上げ


「兄さまのように誰でも何でもできるわけじゃないわっ!!

一度翻訳しておけば、漢文を読めなくても周囲の女房とか大舎人(おおとねり)とか女儒(めのわらわ)とか誰でも読めるでしょっ!!

それに、友達と共通の話題で面白い部分とかダメな部分とか言いあうのって楽しいでしょっ??!!!そうゆう経験ないのっっ?!!!」


ピクっと眉が痙攣(けいれん)したと思ったらふぅっと息を吐き


「ないね。仕官したのが早かったせいか、同僚は一回り以上年上の者ばかりだった。

話が合うわけもないし、実際共通の話題で盛り上がることはなかった。


我が家のものは大学寮に入らず、教師を招き学問したか、せいぜい私塾に通ったことがあるぐらいだったから同年代の気の合う友人は今もほとんどいない。いたとしてもお互い忙しい身だから、会って無駄な会話でいたずらに時を過ごすという事は無い。」


確かに、兄さまの若い頃は宇多帝の別邸(わたし)に会いに頻繁に来てくれたから、友人と過ごす暇は無かったかも。

でも、私と会わなくなった二十歳以降もずっと独りで過ごしたの?

寂しくない?

それに、少しは私のせいかも。

兄さまを独占してたから。


ギュッ!

胸に抱き着き


「ごめんなさい!でもありがとっ!!私に逢いに来てくれたから、友達と過ごす時間が無かったのね!!」


ギュッと肩を抱きしめられ


「そうじゃない・・・。浄見のせいじゃない。私に社交性が無いからだ。それに、浄見がいれば、他人は必要ない。」


ん~~~?

それはそれで生活環境悪くない?

人間関係って大事でしょ?

よくわからないけど。


よしよし!するようにポンポンと背中を軽く叩きながら


「ハイハイ。何か話したいことがあったらいつでも会いに来てちょうだいっ!!相手してあげるから!」


女友達みたいに扱う。


グッ!


指が肩に食い込み、抱きしめる腕が硬くなった。

締め付けられる喜びの痺れが全身に広がり、幸せが溢れた。


しばらくそうしたあと、私の髪を撫でながら、ふぅ~~~っと長い溜息を吐き


「そんなことで影男(かげお)とのことを誤魔化せないぞ」


低い声で呟き、胸から私を離すと、硬い真剣な表情で


「これから一週間以内に影男(かげお)の本心を(あば)いて、浄見に見せてやる!」


瞳の奥に固い決意の炎が(とも)ったようだった。


は?

何をどーするの?

影男(かげお)さんの本心って何?

気になるっ!!

(その4へつづく)

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