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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
349/505

EP349:伊予の事件簿「傾国の鶯(けいこくのうぐいす)」 その2

影男(かげお)さんがボソリと


唐物(からもの)の書を読むのは久しぶりですので、お役に立てるかどうかわかりませんが。」


尖った(あご)咽喉(のど)にくっつきそうなほど(うつむ)く。


「いいから!私が訳すのを聞いてて、間違ってたら訂正してくれればいいの!ええと、まずこれね、『唐貞元中,有張生者,性溫茂,美風容,內秉堅孤,非禮不可入』」


唐の発音はできないので、読み方は適当。


「で、これの意味は・・・」


チラッと影男(かげお)さんを見ると、さっきと打って変わって真剣な表情で、書を見つめ目で文字を追いかけてる。


「意味は『唐の貞元(ていげん)時代、張という男がいた。性格は優しく、容姿は美しく、性格は強くて孤独で、礼儀がなければ立ち入ることができなかった。』で合ってる?」


「はい」


「で次は、『或朋從遊宴,擾雜其間,他人皆洶洶拳拳,若將不及, 張生容順而已,終不能亂。』は『あるとき友人たちと遊宴していると、周囲が乱雑になったとき、他の人々は皆激しく拳をふるっていたけど、まるで何もないかのように張生だけは落ち着いていて、終始乱れなかった。』って感じかな?」


影男(かげお)さんはウンと頷き書から目を離さず


「大体あってますが、『あるとき友人たちと遊宴していると、周囲がざわざわとした雰囲気に包まれ、他の人々は皆、そわそわと落ち着かず、気をもんでいるが、張生だけは落ち着いていて、終始その冷静さを崩すことはなかった。』のように訳すとわかりやすいですよ。『洶洶(きょうきょう)』は動揺してソワソワしてる感じで、『拳拳(けんけん)』は心を砕いて気を使ってる状態ですかね。」


的確に助言(アドバイス)してくれた。


へぇ~~~~!

確かにっ!!

って感心。


影男(かげお)さんは『篆隷万象名義(てんれいばんしょうめいぎ)』ていう空海(せん)の字書を持ってきてくれた。

こんな感じで知恵を絞って翻訳したけど、途中、難しすぎて意味が分からなくなったり、


「こっちの方がいい訳でしょっ!!」


「いいえっ!絶対っこっちの方が分かりやすいです!」


って双方ゆずらず、結構、揉めたりした。


で、その後も何とか頑張りながら、二人で(ほぼ影男(かげお)さんだけで?)翻訳を続けたけど、昼餉、夕餉を挟んで、日が暮れて、(あかり)を点す時間になっても全文翻訳には程遠かった。


「ふぁわぁぁ~~~~~~~~っっ!!!終わらないっ!!!ムズイっっ!!意味が分からないところが多すぎるっっ!!訳すのムズすぎるっ!!」


自棄(やけ)になって後ろにゴロン!と寝っ転がりながら両手を伸ばして伸びをする。


「んんーーーーーーーっっ!!!」


手足を思いっきり伸ばして、一気に脱力っっ!!すると気持ちイイっ!!

影男さんにチラチラ見られてる気がするけど、さすがに一日中一緒にいると作法だとか、女子(おなご)らしい振舞とかどーでもよくなってくる!

不作法なはしたない女子(おなご)だと思われてる可能性大。


でも気にせず、手枕をして仰向けのまま


「ん~~!もう今日はここまででいいんじゃない?まだ三分の一?もいってないかなぁ。また明日来てくれるわよね?!ふわぁ~~~~!じゃあ解散っっ!!お疲れ様ぁ~~~!!」


アクビし、ウトウト居眠りしながら言い放った。

影男(かげお)さんが


「では。また明日の朝。」


字書をもって、スクッ!と立ち上がった気配。


「こんなところで寝ると不用心ですよ。」


静かに呟く。


「ふわぁ~~~~い・・・・」


ムニャムニャ返事だけしてまたウトウトしてると


(へや)まで送りましょうか?こんなところで寝て、襲われたらどうするんですか?」


「・・・ん~~~、大丈夫だって・・・誰も来ないから・・・・」


・・・だって、ひたすら眠い。

ちょっと寝てから戻ればいいじゃん!


本格的に寝ようとすると、顔に、熱い息がかかるのを感じた。

ビックリして目を開けると影男(かげお)さんの鼻が、鼻に当たりそうなぐらい近くにあり、大きくなった黒目はギラギラと荒々しい光を放っていた。


浅く速い呼吸にあわせて胸が動くと、体温の高い男性の熱と香と野生的な体臭の混じった匂いが漂う。


「・・・油断しすぎです」


言いながら、すばやく私の唇に、唇を重ねる。

少しカサついた唇を押し当てられ、すぐに舌で舌を絡めとられた。

何度も舌を吸われてるうちに、


上半身を抑え込まれてるなぁ~~~。


って気づいたけど、しばらくそうしてるとウットリ夢見心地になる。

ヤバくない?


「っぅんっ・・・・」


グッと胸を押し、影男(かげお)さんをつき放した。


「ダメよ。兄さまとも最後まではしてないの」


上気した顔、ギラギラした目でジッと見つめ


「どこまでならいいんですか?」


(かす)れた声で呟く。

(その3へつづく)

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