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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
344/505

EP344:伊予の事件簿「千古不易の言祝ぎ(せんこふえきのことほぎ)」 その4

 中門を出て南西には主殿といくつかの対の屋を結ぶ渡殿(わたどの)を備えた僧坊があった。

上皇(とうさま)が参詣に来たときに休憩されるのに使う御室(みむろ)だそう。

庭には雑木(ぞうき)鬱蒼(うっそう)と茂り、池の造営もされてない、上皇がいらっしゃるには簡素な場所だった。


履き物を脱ぎ階段を上って渡殿(わたどの)を北へ渡るとすぐの東の対の屋に通された私たちのところに、今上帝の妃がお忍びでいらっしゃったということで、別当の幽仙(ゆうせん)律師(りっし)が挨拶にお越しになった。

六十代半ばぐらいの顔色の悪いお方で、(もみじ)更衣としばらく世間話をすると


「では、ごゆっくりしてください」


言い残して立ち去った。

数人の弟子の僧侶が忙しく立ち働いては白湯や菓子を給仕してくれた。


(もみじ)更衣が弟子のひとりに向かって


「ねぇ、上皇さまはここにお泊りになるとき、主殿の塗籠(ぬりごめ)にいらっしゃるのよね?」


変なことを聞くので、弟子もキョトンとして


「はい。そうですが」


「お読みになる書もそこに置いてらっしゃるのよね?それと、幽仙(ゆうせん)律師(りっし)様の僧坊はどこ?」


いつもおっとりして、人に何か言われない限り行動を起こさない(もみじ)更衣にしては積極的に根掘り葉掘り聞きだそうとしてる。

う~~~ん。

いつもと様子が違う!

帝から何かを指示されてるの?

例えば、上皇の私的な文書を調べてこいとか、幽仙(ゆうせん)律師(りっし)の秘密の日記を探れみたいな?


私たちにずっと付き添っていて、今は南廂(みなみひさし)(廊下)に控える忠平(ただひら)様も(もみじ)更衣と弟子の会話に耳をそばだてていた。


弟子たちが立ち去ろうとしたのを見計らって?(もみじ)更衣が急に両手で頭を抱え込み


「痛っ!イタタタタッ!頭がっ!!痛くてたまらないわっ!!」


そのまま御座(おまし)の畳に横になった。

弟子たちも足を止めて(もみじ)更衣の様子をうかがってる。


心配になってスッと近寄ると


「伊予、今日はここに泊まりたいと幽仙(ゆうせん)律師(りっし)に頼んでくれない?頭痛が酷くて帰れないわ!」


私が承知して、立ち上がり、廊下に出ると忠平(ただひら)様が近づいてきたので


(もみじ)更衣の体調がすぐれないの。今日はここで宿泊させてもらえないかしら?」


忠平(ただひら)様はチラッと(もみじ)更衣に視線を走らせ、少し何かを考えたように間を置き、


「分かった。律師(りっし)には頼んでおく。夕餉も準備してもらおう。上皇の急なお越しもあるだろうから、そのへんの融通は聞くだろう。」


忠平(ただひら)様と弟子たちが立ち去るのを見届けると、(もみじ)更衣がケロッと立ち直って


「やったわ!私の演技も捨てたものじゃないわね!みんなを(だま)せたものっ!!」


やっぱり!

納得して


「両手で頭を抱え込むのはちょっとやりすぎですわ!こめかみを片手で押さえるぐらいの方がいいと思いますけど。」


演技の助言(アドバイス)をしたあと


「でもなぜそんな演技をなさったの?帝の御勅命(ごちょくめい)?に関係あるんですか?」


(もみじ)更衣はへへへっ!と悪戯(いたずら)っぽく笑って


「伊予にも内緒っ!!主上(おかみ)が誰にもバレないようにって仰ってたのっ!!」


ふ~~~ん。

仲がお()ろしいしいことっ!!


 その夜、(もみじ)更衣は衝立と几帳で仕切った寝所に一人で寝、私と(さくら)はその隣に几帳と屏風で寝所をしつらえてもらって二人で寝ることになった。

夜も更け、ぐっすり眠っていた私は


ギャッッ!!!


(さぎ)が夜空を飛ぶ時の鳴き声に眠りを妨げられ、目を開くと、


パタン!


妻戸を閉じる微かな音。


横を見ると(さくら)は寝ているので、(もみじ)更衣?

が外に出ていったの?

それとも外から帰ってきたの?


起き上がって確認するのもめんどくさいので、きっと用足しね~~~!

って言い聞かせて目をつぶった。


パタンッ!


また静かに妻戸が開いて閉じる音がして、しばらくすると、押し殺した(もみじ)更衣の声で


「あっ!あなたはっ!なぜこんなところにいるのっ!わ、私は帝の妃ですよっ!!こんなことが、ゆ、許されると思ってらっしゃるのっ!!」


はぁっ???

夜這(よば)いっ????!!!

ヤバっ!

駆け付けて守るべきっ??

それともお邪魔かな?

見て見ぬふりすべき?


どーしよーーーっっ!!

心臓バクバクで思いっきり焦る。


すると明らかに男性のボソボソ声で


「え?ええっとぉ~~~、よしっまぁいいかっ!

じ、実は、あなたを以前からお慕いしていました。今日のこの機会を逃せば次はいつあなたにお逢いできるのか、見当もつきません。

この長年の想いをどうか遂げさせてくださいっ!!」


誰かさんの声に似てるけど気のせい?

(もみじ)更衣を守るため飛び出していくべきか悩んでると


「い、いいえっ!それはできませんっ!!今すぐ出ていって頂戴っ!!」


震え声ながらも気丈に言い放つ。


「は、はいっ!やっぱりそうですよね、失礼しましたっ!!」


言い捨ててさっさと立ち上がり、スタスタと足音を鳴らして素早く立ち去った。


何?

何だったの?

夜這(よば)いにしてはアッサリすぎる引き際っ!!

期待外れ~~~~っ!!

もうちょっと色っぽいやり取りがあると思ったのに~~~!


殿方も全~~~然っ押さないし、もっとしつこく(ねば)ればいいのにっ!!

それに口説き方ってイロイロあるでしょっ?!!

勉強してから臨んで欲しいわっ!!

残念っ!!!


現実(リアル)夜這(よば)い現場に遭遇して期待値(テンション)最大(マックス)だったのに、間男(まおとこ)未遂にガッカリ。

思いっきり他人事だから舌打ちして悔しがっているけど、・・・・(もみじ)更衣を慰めなくて大丈夫かな?

起き上がって腕を組んで悩む。


ニュッ!!!


几帳の隙間から小袖の腕が伸び、私の袖を掴んでクイクイと引っ張られた。

腕の持ち主が几帳の隙間から顔の半分をのぞかせてる。

やっぱり!

さっきの間男(まおとこ)忠平(ただひら)様だったのねっ!

声がそっくりだったもの!


「何っ?何か用??」


ヒソヒソ声で


「話があるから外へ出てこいっ!!」


チッ!偉そーにっ!!


イラっとしながらも妻戸を開けて一緒に外へ出た。

(その5へつづく)

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