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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
341/505

EP341:伊予の事件簿「千古不易の言祝ぎ(せんこふえきのことほぎ)」 その1

【あらすじ:宇多上皇が完成させた仁和寺への参詣を急に言い出した私の主の更衣さまは、帝からの密命で、慣れない隠密の真似事をなさるけどバレバレ。上皇配下の群臣にとって都合の悪い何かがあるようで、お目付け役の忠平様と思いがけず再会するけど、そう簡単には許せない!言うのは簡単、行うのは難儀な私は今日も一言の重みを噛みしめる!】

今は、899年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平(ふじわらときひら)様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。

何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。

長い口づけのあと、唇を離すと兄さまが


「四郎と絶交したんだって?何とかしてくれと泣きついてきた。」


トロンとした表情で呟いた。

急に現実に引き戻され、怒りに火がついた私はキッパリと


「だって、兄さまを脅して臺与(とよ)とあんなことをさせて見せつけたんだから、絶交ぐらい当たり前でしょっ!!」


強めに主張する。

兄さまは困ったように眉根を寄せ、首を横に振り


「ダメだ。四郎(あいつ)自棄(やけ)になって自分の破滅と引き換えに、浄見のことを上皇に告げ口したらどうなる?」


キッ!と兄さまを見つめ


「大丈夫っ!!私がどーなっても兄さまの官職だけは守るっ!!いざとなったら自殺を(ほの)めかして上皇(とうさま)を脅すから!兄さまが失脚しないようにっ!!」


怒りの興奮で真っ赤になった私の頬を両手でつまみ、たしなめるように


「私の失脚なんてどうでもいいんだ。一番避けたい事態は何か、知ってるだろ?」


私に自由に会えないこと?

結婚できないこと?


もし、上皇の妃と密通したり、奪ったりすれば、確実に兄さまは失脚する。

兄さまの失脚を願う公卿もたくさんいるだろうし。

最悪、別の罪もでっちあげられたりして島流しとか、道中で暗殺されるかも。

今上帝(きんじょうてい)が若い(15歳)今は、まだまだ上皇(とうさま)の政治への発言力は強い。

菅原道真さまや紀長谷雄さまを通して朝廷の決定にも影響力が大きい。


でもっ!!

イラっとして


「もし許したとして、忠平様が無理やり迫ってきたりして、強姦されたりしてもいいの?やりかねないわっ!」


兄さまは無理やり口の端を少し上げ、笑顔を作り


「大丈夫。四郎(あいつ)は本当に浄見を愛してるから、嫌がることはしない。」


そんなことっ!!!

わかるのっ??!!

目的のためには手段を選ばない人なのにっ!!

犯した後でさんざん理由をつけて(なだ)めるとかっ!

実効的な手段ならどんな手でも使いそう!!


ムッ!


とした私の表情を見て、眉を上げ面白そうに


「四郎のことをすっかり誤解してるな?そんなにひどい奴じゃないよ。

浄見に絶交を言い渡されて以来、しょげ切って屋敷に引きこもってるらしい。

今後は浄見を(あざむ)く真似は絶対にしないから、また交際してほしいと伝えてくれと言われた。」


嫉妬のカケラすら見せない兄さまにも苛立ち


「いいの?私が忠平様と仲良くなっても?兄さまより好きになっても!」


まだ目元は緩んだまま、口だけをとがらせ


「それは困る!でも浄見なら上手く四郎(あいつ)の気を引きつつ、肝心なところでしっかり拒否することはできるだろ?そうやってつかず離れずでやってくれればいい。」


頬に手を添え、親指で唇をなぞる。


ムッと睨み付け、不本意だけど!を前面に押し出しながら


「わかったわ。彼を許すわ。」


兄さまがフッと微笑みもう一度唇を近づけようとしたとき


「泉丸は大内裏の外へ逃げました。検非違使(けびいし)庁に正式な捕縛の手配をいたしますか?」


固い口調の影男(かげお)さんの声が響いた。


兄さまは口づける寸前でピタリと動きを止めた。


応天門の下から、私たちのいる楼上へ続く階段の途中で立ち止まり、上半身だけを(のぞ)かせた影男(かげお)さんの方を振り返り


「いや。検非違使(けびいし)に知らせなくてもいい。もしつかまえたとしても、誰が上皇の弟君を罪に問える?伊予の訴えだけでは証拠不十分になるだけだ。」


まぁ、そうよね。

殺されたとか実害があったわけじゃないから、証明できないし。

もし殺されたとしても、死体を処分されてしまえば、自ら失踪したとかでごまかされそう!

怖っっ!!


応天門の二階から階段を降り、内裏の南端にある建礼(けんれい)門まで歩いて来ると、兄さまは立ち止まり私の目を見て、


影男(かげお)に雷鳴壺まで送ってもらうんだよ。宿直(とのい)でもないし、私は付き添えないから。」


ウンと頷いて、影男(かげお)さんと建礼(けんれい)門を守る兵衛に名を名乗り門内に入れてもらって、内裏の雷鳴壺に戻った。


雷鳴壺ではちょうど夕餉が終わったところらしく、膳を運ぶ女儒(めのわらわ)が忙しそうにバタバタと廊下を行き来してた。


もしかして食べ損ねた?

夕餉の余りでも残してくれてるかなぁ?

心配になってソワソワしてると、


影男(かげお)さんが不意に


「一週間後に、後任の護衛と交代します。」


ポツリと呟いた。

(その2へつづく)

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