EP339:伊予の事件簿「応天門の彗星(おうてんもんのほうきぼし)」 その5
泉丸は相変わらずの美貌に、芙容の花が開いたような微笑みを浮かべ
「お前に選択肢を三つやる。一つ、首を絞められてここから投げ落とされる。二つ、強姦されてここに打ち捨てられる。三つ、強姦され首を絞められてここから投げ落とされる。」
はぁ??!!
「どれも嫌に決まってるでしょっっ!!馬鹿じゃないのっ?」
怯えつつも、ひるまないよう睨み付け、強気に吐き捨てた。
泉丸が頬にかかる後れ毛を煩わしそうに顔を揺らして払うと、金と真珠の連珠の耳飾りが揺れて目を奪われ、暗黒の中で輝く彗星のような美貌が際立った。
ハッ!!うっかり見とれてたっ!!
ド悪人なのにっ!!
どーしてこんなに美しい必要あるっ???!!!
世の中不公平ねっ!!
心の中で愚痴る。
泉丸がうっかりしてた!って感じで軽く肩をすくめ
「あぁ、犯人については心配する必要はない。お前を尾行してた影男を捕まえて、首を絞めて気を失わせ拘束してこの下に、ちょうど蝋山のバラバラ遺体が見つかったあたりに放置してある。
お前の凌辱された死体とともに拘束を解いた影男を放置しておくから、誰かに発見されれば影男が犯人だとされるだろう。あいつはちょうど応天門に因縁があると思われてるしな。」
長い、密に生えた睫毛をバサバサと音を立てて瞬きし、薄紅色の菊の花弁のような唇を歪め面白そうに呟いた。
何もかも計算済みで周到な計画を立てたですって?
「蝋山さんを殺したのもあんたなのっっ?!!何の恨みがあったのっ!!いい人だったのにっ!!」
泉丸は目を丸くし
「はぁ?何だって?バラバラ殺人?は私じゃない!恨みも無いし、あいつがここで殺されたのはただの偶然だ。
さぁ、おしゃべりはここまでにして、三つのうちどれにする?
うーーん、強姦したほうが時平は怒るだろうし、それは必須だな。うん。よし!じゃあ二つから選べ!強姦されたあと、生き残りたいか、死にたいか。」
って何っ?さっきの選択肢っ???まだ活きてたのっ??!!!
どれもイヤに決まってるでしょっ――――っっ!!!!!
どーーーーーしよーーーっっ!!!!
誰か、兄さまっ!!誰でもいいからっ!
『助けてっーーーっっ!!!』
心の中で叫ぶ。
声を出そうにも、叫べばすぐに強姦されそうで、怖すぎてブルブル震える事しかできない。
犯人を挑発すれば、行動にでるのが早くなりそうで怖いっ!!!
そもそも喉が押しつぶされたみたいになって、大声が出る気がしなかった。
あぁーーー!ここで失神できればいいのにっ!!
怖いことを記憶しなくて済むっ!!
祈りながらも意識ははっきりしたまま!
強姦されるの?
そのあと殺されるの?
心臓が激しく打ちすぎて息苦しいし全身震えが止まらない。
泉丸が私の方へゆっくりと近づき、手を伸ばした。
(その6へつづく)