EP338:伊予の事件簿「応天門の彗星(おうてんもんのほうきぼし)」 その4
そういえば思い出した!
蝋山さんの顔はしわが多い褐色なのに、鼻の頭と頬だけは赤かったなぁってそこが印象的だった。
途中おしゃべりしながら歩いてると、蝋山さんが
「宴の松原を探検しようだなんて、深窓の姫君にしては活発だねぇ。」
「ずっと屋敷の奥に閉じ込められて育ったんです。
幼いころから屋敷が私の世界の全てだったので、今、広い、未知の世界を自由に歩き回れることが嬉しくて!思う存分楽しんでるんです!」
ウキウキして答えると、蝋山さんは微笑みながらも真面目な顔で
「好奇心は大事だが、行き過ぎた好奇心は命取りになるよ。宴の松原は十年前に鬼がでて、女性が殺された場所だと知っていたかね?」
知らなくてビックリして、それ以来、無知な冒険心をちょっと引っ込めよう!
って教訓になった。
その蝋山さんが応天門で何者かに殺されたの?
バラバラ殺人事件?
身元を隠すために死体を切り刻むことが多いのよね?
それなら真っ先に顔を持っていくと思うけど
顔は残ってたって言うし。
う~~~~ん・・・。
あっ!!!
重くて運べないから小さくして少しずつ運ぼうとした?
まず上半身だけ運んだ時点で、誰かに見つかったのかな?
それなら犯人は非力な女性?
謎が多いっっ!
でも、知ってる人が殺されるのって凹む。
人はいつか死ぬんだって思い知らされる。
その日から数日間は何事も無かった。
蝋山さんの死因についての噂も聞かず、青い光の原因も分からないまま。
それよりもっと気になることがある!
応天門の事件以降、影男さんの姿がずっと見えないこと!
もし、応天門の変で首謀者とされた伴善男の子孫?で、蝋山さんの殺害にも関係してたりしたらどうしようっ!!!
心配なのに姿を見せてくれずヤキモキしてた。
お昼頃、お使いで内膳司にお願いして作ってもらったお菓子を、取りに行こうとお使いに出かけた。
その途中、内裏を北側の朔平門から出て、西へ向かって歩いてると、突然、後ろから襲われた。
頸に腕を回され、首を絞められ、気を失ったっぽい。
まったく!
同じ手に何回引っかかるの??!!
自分に突っ込みたくなるけど、気が付くと、辺りは真っ暗で、冷たい風が頬にあたる。
ここはどこ?
塗籠のような屋内だとしても、窓や扉は開いた場所だってことは分かった。
目も口も解放されてるけど後ろ手に縛られてて足も括られて、座らされてて立ち上がれない。
辺りを見回すと、真っ暗でよく見えないけど、壁も天井も柱も床も木目の残った加工されてない板でできてた。
「あっ!!ほら、あそこをみてごらん。」
声が聞こえた方向に体ごと捻ると、少し離れた横に泉丸の姿があった。
もう一回体を捻って、モゾモゾと足を動かし体ごと後ろに振り返り、開け放された妻戸から夜空を見上げる。
灰色の筒袖から伸びる白い手の指さす方を見ると、上方に扇状に広がった光の尾を持つ星が輝いている。
「わぁっ!!尾がついた星?ほうき星ね?!凄いっ!!!キレイッ!!!」
あ?!
これを夢で見たのね?
パチパチ!と手を叩けなかったけど、心の中はそーゆー気分。
拉致され、全身を拘束されてる状況なのに、見るとテンションが上がる彗星の威力ってスゴっ!!
筒袖の持ち主が誘拐犯・泉丸だったことにショックだけど。
幻想的な彗星を一緒に眺める相手が、よりにもよって最大の敵だなんて!
信じられない!
最っっ悪っっ!!
大舎人に変装したのか泉丸は灰色の直垂に括袴姿だった。
縛られたまま膝立ちで、空中に張り出した廊下にでて、欄干から下を覗くと、瓦屋根がまっすぐに続く、『夢で見た光景』が広がっている。
ってことは
「ここは応天門の二階?私を拉致って連れてきたの?いつもの兄さまへの嫌がらせ?」
(その5へつづく)