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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
337/465

EP337:伊予の事件簿「応天門の彗星(おうてんもんのほうきぼし)」 その3

兄さまが優雅な動作で胡坐(あぐら)をかいて座り、扇を(たもと)から取り出すと頸を掻きながら


「あのぉ、ええと、この前は、そのぉ、不体裁(ふていさい)なところを見せてすまなかった。」


ウウンと首を横に振り


「いいの。忠平(ただひら)様の悪だくみって知ってるから。兄さまは仕方なくそうしたんでしょ?私の居場所を上皇(とうさま)に知られないようにするために。

上皇(とうさま)に知らせれば、忠平(ただひら)様を誘拐犯人に仕立てて上皇(とうさま)に伝えるって脅してあるから、もう大丈夫。

それにもし、私が上皇(とうさま)に捕まっても、兄さまのことだけは命がけで守るから安心して!

私を誘拐したのは忠平(ただひら)様だって言い張るから!

刑に処すなら忠平(ただひら)様にしてって頼むから!」


一気に言い終えるとうつむいた。


兄さまの目がまっすぐ見れない。

臺与(とよ)と一緒にいる場面が目の前にちらつく。


臺与(とよ)の喘ぎ声、兄さまの息遣(いきづか)いが聞こえる。


目の前の兄さまが別人に見える。


身悶(みもだ)えするほど(みだ)らなことを、他の女性にもしてる、好色な遊び人の公達(きんだち)

見知らぬ、猥雑(わいざつ)な男性が目の前にいる気がした。


ガサッ!


衣擦(きぬず)れの音に顔を上げると、兄さまが膝立(ひざだ)ちになり、私の肩を抱き寄せようとしてた。


手が肩に触れそうになった瞬間、思わず体を後ろに引き、


(さわ)らないでっ!!」


鋭く叫んだ。


臺与(とよ)を愛した手で私に()れないでっっ!!」


金切り声で叫んだあと、ハッとした。


こんなことを言う資格ある?


私だって、他の男性と口づけしたし、触らせた。

清らかな乙女じゃない。

淫らな欲望もあるし、兄さまに求めた。


でも・・・・っっ!


乱れて上気した淫猥(いんわい)臺与(とよ)の顔つきを思い出す。


私は他の男性と

あんなふうにっ!

なってないっ!!


他の誰とも、あんな愛情を、劣情を、交わしてないっ!!


ボロボロ涙をこぼしながら、(はかま)(もも)を握りしめた。

歯を食いしばる。


もっと酷いことを言ったっけ?


『大勢の恋人の一人でいたい!』

とか

『好きな人が多い方がいい!』

とか。


バカな子供っ!

理解したフリで何もわかってなかった!

愛情の意味とか、独占欲とか、

性交渉の結果とか、

私は、全ての考えが甘いっっ!


「しばらく、距離を置く?」


低くて硬い声で、絞り出すように兄さまが呟いた。


ポトポト涙を膝にこぼし続けながら、


ウン


(うなず)く事しかできなかった。



 しばらくそうして黙ってうつむきあってたけど、意を決したように兄さまが立ち上がり、背を向けて去ろうとした瞬間、


「あぁ、そうだ。言い忘れるところだった。

朝堂(ちょうどう)院の入り口にある応天門には近づかないように。

さっき、造酒司(さけのつかさ)令史(さかん)である蝋山(ろうやま)という男が、下半身と手、頭だけを残した遺体となって発見されたらしい。私も報告を受けただけだが、詳しいことは明日調べることにした。」


はぁ?

えぇっっ!!!???

下半身と手と頭だけが残った遺体っ??

なぜっ???


「応天門って、昨夜、青い光が見えたんでしょ?関係あるの?」


兄さまはウウンと首を横に振り、厳しい口調で


「さぁ、まだわからないが、報告によると、顔はあるといっても口から下が無く、切り取られたと思われる断面は顔も手も下半身もともに黒く変色していたらしい。まだ犯人がうろついてるかもしれないから、絶対に近づかないように。」


言い終わると、スッと立ち去った。


応天門・・・・

多分、夢で見た場所だけど。

彗星(すいせい)をそこで見るという未来があるはずだけど・・・・。

怖っっ!!

できるだけ、近づかないでおこう!!


それに、蝋山(ろうやま)って名前に聞き覚えがある。

宮中に入ったばかりの頃、縫殿(ぬいどの)寮へのお使いに内裏を出た時、広~~い松林があるのを見つけて


(えん)松原(まつばら)ね!わ~~~い!!キノコとか生えてる?動物もいたりして!!』


ってテンションが上がってフラフラと探検に出かけたのね。

どちらを見ても松の木だらけで、案の定、方向が分からなくなってやっと松林を出たところにあった官庁で場所を尋ねようとしたとき、お役所の門からおじいさんが出てきた。

深緑色の(ほう)を着て、(びん)が真っ白になってたし、顔にしわが多かったから割とお年を召した方だと思う。

チャンスっ!!って駆け寄って話しかけた。


「あのぉ、宮中で女房をしてるものですが、まだ大内裏に慣れてなくて、(えん)松原(まつばら)に迷い込んでしまったんです。ここはどこでしょう?内裏へはどうやって戻ればいいんですか?」


おじいさんは無表情だけど優しい声で


「ああ、ここは造酒司(さけのつかさ)で、わしは蝋山(ろうやま)というものだ。内裏?ちょうど帰るところだから、ついでに近くまで送ってあげよう。」


って言って送ってくれた。

今考えると、ついでにというには遠回りすぎるけど、当時の私は


『よかった~~!』


ってホッとした。

(その4へつづく)

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