EP335:伊予の事件簿「応天門の彗星(おうてんもんのほうきぼし)」 その1
【あらすじ:めずらしく本当の予知夢を見た私は、もうすぐ見られる彗星は楽しみすぎる!けど、時平様とのわだかまりは消えない。好色浮気男でも好きだったはずなのに、実際に目撃した衝撃がひどすぎて以前のようにお気楽にはなれず、ギクシャクして思わず時平様を責めてしまった。伴父子が企んだ炎上事件で有名な応天門(応天門の変)で、起きた青い光の異変とバラバラ殺人事件の関係とは?私は今日も命懸け!・・・の気概だけは示したい!!!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
秋の涼しい夜風が頬を打つ。
日が沈んだばかりのような、薄暗い中に、紫色から変化し、ほんのり赤色を残す山の端を、ジッと見つめている。
「ほら、あそこをみてごらん。」
灰色の筒袖から伸びる白い手の指さす方を見ると、上方に扇状に広がった光の尾を持つ星が輝いている。
「わぁっ!!尾がついた星?ほうき星ね?!凄いっ!!!キレイッ!!!」
興奮気味に手を叩く。
ふと我に返り、
『ここはどこかしら?』
何気なく視線を落とすと、目の前には朱色の欄干、足元は床板を張った廊下が三尺(90cm)ぐらい空中に飛び出ている。
ビックリしたけど落ち着いてよく見てみる。
欄干越しに前方を見ると、真っ直ぐに続く瓦屋根が見える。
それに直交したり並行したりして、規則正しく並ぶ建物の瓦屋根が見え、その周囲を取り囲む白壁の一部が、欄干越しに見えた真っ直ぐに続く瓦屋根だった。
その先に視線を移すと、同じような瓦屋根の白壁が四角く囲む中には、瓦屋根の建物が縦横に規則正しく並ぶ区域が左右に連なっていた。
どの建物も屋根は瓦、柱は朱色、壁は漆喰の白色で統一感が半端ない!
ちょっと高い場所から大内裏を見下ろしてる感じ?
もっと遠くを見渡す。
大路・小路で碁盤の目に区切られた場所に、檜皮葺の屋根と築地塀が見える貴族のお屋敷や、板葺き屋根の雑舎や田畑がある庶民の居住区が並ぶ。
薄闇の中、ところどころにある篝火の橙色が地上の星のよう。
四角い居住空間の連続が途切れた都の外側は、木々が生い茂る林や田畑が闇に包まれた黒々とした景色だった。
もう一度ほうき星を見ようと視線を上げると、すでに暗闇だけが広がっていた。
パチッ!!!
まぶたを開くと、見慣れた雷鳴壺の天井。
横を向くと御簾ごしの空は真っ暗で、まだ夜が明けてない。
久しぶりに予知夢?
建物が瓦屋根、白壁、丹塗りの柱だったから大内裏を上から眺めてた気がする。
広~~~い庭に白い石を敷き詰めた豊楽院が前方に見えたということは、朝堂院の建物から西方向を見てたの?
隣にいた灰色の筒袖(庶民の服装)の人物は誰?
う~~~ん。
大舎人の格好だから影男さん?
一緒に、ほうき星をいつかそこから見るってこと?
私の場合、予知夢といっても、夢の出来事が起こる正確な日時と場所が分かるわけじゃない。
もしそれが特定できても、未来を改変できない。
たとえ不幸な出来事でも、それを防ぐことはできない。
過去に予知夢を見たのに、兄さまに矢が刺さるのを防げなかったし。
ってゆーかあのときは、私が余計なことをしたせいで兄さまに矢が刺さってしまった。(*作者注:連載『少女・浄見(しょうじょ・きよみ)「Ep24:番外編 右大将物語 ④賭弓の節」』のエピソードです。)
今でも後悔してる。
私の能力は未来の視覚をそのまま先取りするだけ?な気がする。
今までの経験から言えるのはそれぐらい。
だから夢を見ても意味がないっちゃない。
いいことなら楽しみっ!!!だけど
悪いことなら、早く悲観して早く凹むだけ?
まぁ、悲しみに備えて早めに覚悟できるから、その分ショックは和らぐかも。
今回は、少なくともほうき星が見れるっ?!ってことで
わ~~~~いっ!!楽しみっ!!
ルンルンしながらさっさと起きて身支度を整え、せっせと仕事に励もう!・・・かと思ったけど、まだ暗いし、起床は夜明けでいいよね?って二度寝した。
(その2へつづく)