表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
334/461

EP334:伊予の事件簿「撫子の兵法(なでしこのへいほう)」 その8

ツバを飛ばして啖呵を切る!


「やれるものならやってみなさいよっ!!


もしそんなことをしたら、上皇(とうさま)の元に連れて行かれたとたん、


『実は失踪した直後、上皇侍従・藤原忠平(ふじわらただひら)様に誘拐され、それ以来、今までずっと、狭い小屋に軟禁されて、好きな時に好きなだけ(もてあそ)ばれた。誘拐を時平様の犯行に見せなければ殺すと脅された。』


と泣きながら訴えてやるっ!!


万が一疑っても、嘘をつき続ければ、上皇(とうさま)は最後にはあなたと私のどちらの言い分を信じるかしら?


忠平(ただひら)様は私にした事を反省して、私を上皇(とうさま)の元へ返したけれど、辛かった記憶はこの先ずっと消えないし、一生苦しい思いをしなければならない。今でも忠平(ただひら)様を恨んでる』


って言えばあなたの将来はどうかしら?

今のように上皇の腹心の部下でいられるかしら?


それとも最悪、何かの罪を着せられて『島流し』になるんじゃない?」


忠平(ただひら)様は悔しそうにギリギリと奥歯を噛み締め、こめかみに血管を浮き立たせていた。


握りしめたこぶしをブルブルと震わせながら


「さぁ、そうなるかどうか、やってみないと分からないが。いいのか?本当に上皇にお前を渡しても?兄上と一生会えないぞ。」


静かな声で脅す。


「やってみなさいよっ!!上皇に命を懸けて訴えて、兄さまだけは守るわっ!!


あなたを極悪非道な誘拐犯人に仕立てることに良心の呵責(かしゃく)を覚えるとでも思ったら大間違いよっ!!」


忠平(ただひら)様は観念したようにふぅっと息を吐き、扇で頭を掻きながらニコッと微笑みを浮かべると


「伊予。私が悪かった。謝るから許してくれ。お前を上皇に売ったりしない。

兄上を危険にさらす真似(まね)はしないし、お前との仲を引き裂いたりもしない。

誓うよ。

だからどうか、怒りを収めてくれ。」


ホントに?


疑いの目で見つつ


「もう臺与(とよ)を兄さまにけしかけない?余計な事を誰にも言わない?何も企まない?」


忠平(ただひら)様は扇を手のひらにトントンと打ち付けながら


「ああ。誓うよ。伊予にそんなことをされれば、私の身が危ない。それは明らかだ。

『浄見』の居場所は上皇に、今後一切漏らさない。」


口元に笑みを浮かべつつも、鋭いまなざしは相変わらずで、私を見つめ続ける。


ホッ!


緊張がとけ、肩の力を抜いた。


話が終わったので帰ろうと背を向けると、言うべきことを思い出した。


「あぁ、そう、言い忘れたけど、もう文も贈り物も今後一切(こんごいっさい)、受け取らないから。

あなたと会うのはこれで最後。お互い別の道を進みましょ?

二度とこんな風に憎しみ合いたくないの。」


横目でチラッと睨む。


忠平(ただひら)様は刹那(せつな)にギュッと眉根を寄せ、不意打ちで鋭い刃物に体を刺し貫かれたかのような、苦痛の表情を浮かべた。


茫然(ぼうぜん)と立って忠平(ただひら)様の様子を(うかが)影男(かげお)さんの袖を引っ張り、


「帰りましょ!もう二度とここに来ることは無いわっ!」


促すと、忠平(ただひら)様が悔しそうにボソッと


影男(かげお)は始めから私が臺与(とよ)に恋したフリをしてることを知ってた。

二人で臺与(とよ)に夢中なフリをして伊予を嫉妬させようと約束していたのに裏切ったんだ。

お前を騙したことに変わりはない。私と同じ穴のムジナだ!」


ムッ!として


「バカね!全然違うわ!影男(かげお)さんは私のことを一番に考えてくれるし、嫌がることは絶対にしない!

兄さまを(おとし)めることはしないわっ!!

本当に愛するってそういうことでしょ?


だから、兄さまの次に好きな人を選ぶとしたら、私は影男(かげお)さんを選ぶわ!

行きましょう!」


もう一度袖を引っ張り、促した。


忠平(ただひら)様が皮肉気に口元をゆがめ


影男(かげお)、お前と組むんじゃなかったな。『反客為主(はんかくいしゅ)の計』とはこのことだ。」


(*作者注:「客を返してあるじと為す」敵にいったん従属あるいはその臣下となり、内から乗っ取りをかける計略。)


ポツリと呟いた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ここで使用した『兵法三十六計』は1941年に発見された兵法書で、時代に合いませんが、内容は様々な時代の故事・教訓から引用されているらしいので、ネタにさせていただきました。

どんなにその場しのぎの方法でも、名付ければ案外『立派な計略だ』と押し通せるのでは?と思いました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ