EP332:伊予の事件簿「撫子の兵法(なでしこのへいほう)」 その6
忠平様が企む
『借刀殺人の計』
はおそらくアレだけど・・・・。
ふんっ!!
こんなことで兄さまと私の仲を引き裂こうなんてっ!!
甘いのよっ!!
返り討ちにしてやるっ!!
怒りに燃え、直接対決すべく忠平様に文を書き、一対一の決戦を申し込んだ。
でも女子一人で乗り込むと力づくでどうにかされても困るので、影男さんを連れて行くことにした。
後日、指定された日に、その決戦の場所、枇杷屋敷に乗り込んだ。
門のそばには堂々と枝を広げ、隙間なく葉を茂らせている枇杷がそびえてた。
自信満々に計略の達成を誇ってるであろう忠平様の姿と重なって、枇杷の木さえ憎らしく見えた。
さっそく主殿に通されると、高坏に紙をしいた上に、茶色い一寸(3cm)四方の四角い菓子があり、それをつまみながら忠平様が待ってた。
餅を油で焼いてカリカリにして膨らませたうえに、塩を振ったような見たことも無い菓子。
バリバリと音を立ててかみしめながら
「割と美味しいよ!食べてみるかい?」
一つつまんで差し出すけど、そんな呑気な事はしてられないっ!!
こっちは怒り心頭なのっ!!
竹丸がいればホイホイ頭を下げて受け取ったでしょうけどっ!!
頭に血をのぼらせ、プンプンしながら
「要らないっ!!あなたからなんて、びた一文受け取るもんですかっ!!」
兄さまそっくりの仕草で眉を上げ、面白そうに驚いた様子で
「何?何があった?なぜそんなに怒ってる?影男まで連れてきたってことは体力勝負か?」
怒り散らかしてる私を冷やかす。
「あなたの企みなんてとっくにお見通しですからねっ!!兄さまと私の仲を引き裂こうとしても無駄よっ!!」
肩をすくめ
「あぁ、あの臺与と兄上が逢引きして、目合ってたのを目撃した件か?あれに私がどう関わっていると?」
私はエヘンと咳払いし、忠平様を指さし睨みつけた。
「あくまでシラを切りとおす気?じゃあ教えてあげる。
あなたはまず、私に
『臺与に恋してて将来妻にする』
と言って夢中であることを印象付け、私には気のない素振りをする。
そして、臺与には
『お前が兄上を想っていることはわかっている。兄上との逢瀬を手引きしてやるから、長年の想いを果たせ。私は二番手でもいい。お前をずっと待ってる』
とかなんとかうまいこと言って臺与と兄さまの逢瀬を準備した。
臺与はもちろん兄さまが好きだから言うことを聞いた。
でも兄さまをどうやって操ったのか?が最大の疑問だった。
兄さまは幼いころから私に夢中だし、浮気すれば私の心が離れることをモチロン心配してる。
だから生半可な説得には応じなかったはず。
でも、私とあなたと兄さまの三人だけの秘密でもあり、微妙な権力バランスを握る鍵である宇多上皇を引っ張り出せば、兄さまの弱点を握り操ることができる。
あなたは、
『上皇に私の居場所を教える』
と兄さまを脅したんでしょ?
もし、兄さまが臺与と寝る事を拒否すれば、ただちに私が兄さまにずっと匿われていたこと、今宮中で伊予と言う名の女房として仕えていることを上皇に暴露すると。
茶々のことを伊予と上皇に信じさせて騙したことも暴露するつもりでしょ?
上皇にバラされ、私が上皇の妃にでもなれば、私と一生会うことはできないけど、あなたが私を慰めて、恋人にしても最悪、恋人を共有するだけだと説得されれば、兄さまはその条件を飲むでしょう。
兄さまにとって最悪なのは私に他の恋人ができることではなく、一生、自由に逢う事ができなくなることだから。」
(その7へつづく)