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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
324/461

EP324:伊予の事件簿「魔性の霊鈴(ましょうのれいりん)」 その8

兄さまは既に臺与(とよ)(とりこ)なの?

臺与(とよ)の誘惑の罠に絡めとられた男性の一人なの?


不安で鼓動が速くなる。

息苦しい。


「なぜ?いつ?どこで知り合ったの?」


先日の兄さまの焦った表情と、二人でどこかに消えた事を思い出した。

二人きりで何をしてたの?


臺与(とよ)が余裕たっぷりの大人びた妖艶な笑みを見せた。


「あら、確か貴女も過去に大納言様の恋人だったことがあるのよね?

くやしい?

私が彼を手に入れたのが?ホホホッ!

じゃあもっと嫉妬することを教えてあげましょうか?実は私たちは長い付き合いなの。

私がまだ少女の頃から、時平様は私の元へ通ってきてたわ!

初めて会ったのは、まだ十二のころ。

私の生家はどうしようもなく酷い場所だった。

病がちの母上の薬を買うため、十を過ぎた頃から私は、色々な男の相手をさせられた。

金払いのいい裕福な貴族が一人でもいれば、そいつと結婚すればよかったけど、生憎(あいにく)どの男も貧乏貴族だった。

そんな汚らわしい環境から、お兄様は私を連れ出してくれたの!」


頬を染め上気した顔は女子(おなご)の私から見ても艶めいて色っぽい。

男性ならほっとけない気がする。


でも、どこかでその状況、知ってる気がする・・・・。



ハッ!


思いだした!

数日前見た夢!!

あれは臺与(とよ)の子供時代のことだったのね!

鈴をくれた若い男性は兄さまだったのね!


あの夢は臺与(とよ)が見た夢?!!


あの時の絶望の感情は今でも覚えてる。

思い出すだけでやり切れない怒りと無力感にさいなまれる。


どうしようもなく自分が醜悪で、無価値で、空っぽに思える。


あんな地獄を経験せざるを得なかった臺与(とよ)が気の毒になった。


臺与(とよ)は続けて


「時平様が養女を欲しがっている親戚を紹介してくれて、地獄のような体を売る日々から、やっと抜け出すことができたわ!

私にこの鈴もくれたのよ!

引き取られたのは立派な貴族のお屋敷だった。

義理の両親は優しかったけれど、ずっと他人行儀だった。


(つら)くなったらこれを触って彼を思い出して苦痛に耐えたわ!


だって、救い出してくれたとき、時平様は将来私を妻にすると誓ってくれたのよ!


だから宮中まで逢いに来たのよっ!


私を見つけた時の彼を見たでしょ?やっと逢えたと歓喜していたでしょ?だからあなたじゃ相手にならないの。

あきらめなさいっ!!」


確かに、兄さまが可哀想な境遇の少女を救うことはあり得る。

理不尽を見過ごせない人だから。

でも、十二の少女の元へ通うかしら?

私を拒絶してたのに?


でも、兄さまが臺与(とよ)の不幸な境遇に同情して、気にかけてるうちに、いつしか男女の仲になったってことも考えられる。

女遊びが激しかった時期らしいし。


本当なの?

だから宮中で臺与(とよ)を見た時あんなに動揺してたの?

兄さまの口から聞きたい。


逢いたい。


触れたい。


そばで眠りたい。


私が蒼ざめ、じゅうぶん(へこ)んだのを確認して、臺与(とよ)は満足そうな勝利の笑みを浮かべ


影男(かげお)さんも忠平(ただひら)様も時平様も、あなたから私に乗り換えたでしょ?

なぜかわかる?」


黙り込んで首を横に振った。


「それは、私が殿方の欲望を満足させたからよ。

幼いころから体に染みついてる技術でね。

そのことだけは惨めな境遇に感謝しているわ。

誰よりも男を知ってるという意味では私を超える女子(おなご)はいない。

ましてやお上品な女房なんて相手にならないわ!ふんっ!ざまあみろよっ!幼いころからチヤホヤされて育った呑気で気楽なお姫様が、どうあがいても私に勝てるもんですかっ!」


はぁ~~~~。

ため息。

ということは、兄さまは臺与(とよ)とそーゆーことをしたの?

ま、仕方ないか。

兄さまの恋人はたくさんいるし。

そんなことで今さら落ち込む必要はない。


・・・けど、兄さまがこれからも臺与(とよ)との関係を続けるなら、私はどうすればいい?


真剣に悩み、(へこ)み始めたとき


放言(ほうげん)はそこまでにしろっ!伊予が本気にするだろっ!!」


硬くて低い、尖った声がした。

(その9へつづく)

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