EP321:伊予の事件簿「魔性の霊鈴(ましょうのれいりん)」 その5
昔は滝があって、池に注いでた川や、元は池の一部だったと思われる場所は、今は滝があったことを示す石碑と、細~~い遣水を残すだけの、短い草で覆われた空き地になってた。
「ここで昼餉を食べましょう!」
臺与の提案で、影男さんが持ってきた筵を敷き、その上に座って携帯昼餉の包みを開く。
臺与が竹皮で包まれた、ヨモギの餅をみんなの真ん中に差し出す。
「内膳司で知り合いの膳部にお願いして作ってもらったの!小豆を甘葛で煮てヨモギ餅の中に入れた美味しいお菓子なの!!」
竹丸がヨダレをたらさんばかりに手を伸ばす。
私も負けじと自分の竹皮包みを開いて差し出した。
「わ、私も!内膳司で知り合いの料理人に頼んだのっ!!調理場も使わせてもらって一緒に作ったの!!」
じゃーーーんっ!!おまたせっ!
三種類のおにぎりっ!!
竹皮の中から、いびつな丸みを帯びた三角のおにぎりと、キレイなかっきりとした正三角形のおにぎりが現れた。
モチロン!いびつなのは私の手作りっ!
三種類の包みを指さしながら説明する。
「ええと、中の具はね、これが梅干し!六月に私が漬け込んだお手製の梅干しっ!で、これが塩こんぶで、内膳司においてあるのをもらったの、でねーーーっ!これが一番の自信作よっ!!カツオ節を甘葛と塩醤で煮て水分を飛ばした特製おかかの佃煮っ!!さっ、遠慮なくどうぞ召し上がれっ!!」
おかかは全部自分で握ったけど、後の二種類は料理人に任せた。
竹丸は私のおにぎりへ手を伸ばして少しためらい、料理人の方を掴んでむしゃむしゃ食べ始めた。
「モグッ、美味しいですっ!!モグッ、塩コブっ!!あ~~幸せっ!!」
はぁ?感じ悪いっ!!
イラっとする。
臺与が小声で
「私もこっちを頂くわ!」
梅干しおにぎりをとる。
「じゃあ私も塩コブを頂きます」
と影男さん。
「・・・・見た目は悪いけど、味はおいしいのにっ!!」
凹みつつブツブツ愚痴ると、忠平様がおかかおにぎりを掴み
「味見してみよう!うん、美味しいよ!伊予!これはいけるっ!!」
モグモグしながら言ってくれた。
わ~~いっ!!やっぱりいい人っ!!
・・・チリン、チリンッ!
またどこからか鈴の音。
辺りを見回してもどこから鳴ってるのかわからない。
聞こえてるのは私だけ?
おかかおにぎりは私と忠平様と影男さんで平らげ、無事、何事もなくおにぎりを食べ終わり、臺与のヨモギ餅は竹丸が二個目を食べようと伸ばしたその腕を忠平様が押さえ
「伊予の分だろ?」
凄むので竹丸が悲しい目で私に救いを求め、私が許可するという一幕があった。
竹丸はちょいちょい私の分を自分の分と勘違いしてるところが、昔からある。
お腹いっぱいだからいいんだけど。
その後は、池の周囲の並木道をグルッと散策して帰ろう!となった。
流石に人工池は周囲の曲線がキレイ。
池面には枯れた蓮の茎と葉がところどころ残ってる。
灰色地に黒っぽい茶色の、斑点のような鱗のような模様の水鳥が浮かんでスイスイ泳いでた。
「あっ!カルガモっ!!」
竹丸がバカにしたように
「違いますよ~~!あれは雁です。」
「え?そうなの、雁ってもっと大きいと思った。あれは小さい猫ぐらいだけど。」
呆れたように首を横に振る。
「何にも知らないんですねぇ。そういえば知ってます?鴨が蒲の穂綿を食べるときは串団子を食うように横から食べるんですよ。」
鴨が池面に立つようにしてバタバタ羽ばたきながら蒲の穂をくわえて、顔を横に動かしてるところを想像して、
「うそぉ~~~!絶対違うでしょっ!!水に顔をつけて水草や貝を食べるんだと思ったけどぉ」
「蒲の花粉は人間だって薬にするくらいですから、鴨は当然食べてます。この目で見ましたっ!!」
力説するけど竹丸の知識って疑わしい!
真偽のほどはわからないので一応納得したフリ。
「ふ~~ん。そうなんだぁ~~~。」
前を歩く忠平様が笑いをこらえているように肩を揺すってた。
え?嘘なの?やっぱり。
「キャーーッ!蛇よっ!!」
突然、臺与が悲鳴のように叫んで立ち止まるので、私は急には止まり切れず背中にぶつかった。
「怖いっ!!やだっ!!こっちに来るっ!!」
さらに臺与が叫んで後ずさりし、私の草履の足を踏み、体重を乗せた。
鋭い痛みに思わず顔をしかめ
「痛っっ!!」
後ろに下がろうとしたけど、足が抜けず、バランスを崩し
ヤバッ!転ぶっっ!!
覚悟した瞬間、脇の下を両手で支えられ、尻餅をつかずにすんだ。
「ありがとうっ!!」
振り向きながら支えてくれてる手の持ち主を見ると、影男さんだった。
いつの間に後ろにいたの?
やけに素早い。
でも感謝っ!!!
微笑みながら
「いつも守ってくれてありがとっ!!」
素直にお礼した。
チリンッ!!
また鈴の音がし、今度こそ、どこで鳴ってるのか見極めようと、影男さんの胸から体を起こして立ち、キョロキョロした。
振り向いた臺与が手首を片手でさすってる。
その度に鈴が鳴ってるみたい。
手首に紫色の組紐が見えた。
よく見えないけど、鈴がついてるのね?多分。
臺与が両手を合わせて困惑した表情で
「伊予さん!ごめんなさいね!蛇がいたのよっ!怖くって思わず後ろに下がったの!足を踏むつもりはなかったわ!」
「いいのよ!わかってるから!大丈夫、何ともなってないし!」
(その6へつづく)