EP320:伊予の事件簿「魔性の霊鈴(ましょうのれいりん)」 その4
だけど、こんな時に限って椛更衣も茶々も恋人ののろけ話ばかり!
椛更衣はもちろん帝のことだけど、二人で物語を読み聞かせ合うのがマイブームらしく、いかに情感を込めて読めるか?を二人で競い合ってるらしい。
暇さえあればお互いの殿舎を行き来しては物語を読み合って褒め合ったり面白がったりしてる。
私たち女房は通常そばで控えるけど、やることが無くてあまりにも退屈なので一人だけ控えて後は自由時間にすることにした。
茶々は恋人・只野ののろけ話が止まらない。
明経道の学生だからお堅いのか、口づけ以上のことはせず、夫婦になってからだとか、兄より先には結婚できないだとか、桐壺更衣の女房なので帝の妃の使用人だから、尚侍に準ずるとすると従五位にあたり高位だから、無位無官の自分とは身分が違いすぎるし、そもそも有名貴族の姫だとか、細々と気にし過ぎて困るとか。
私が臺与と兄さまの関係を心配してると愚痴っても
「まさかぁ!大丈夫でしょっ!伊予たちは!」
って軽く受け流される。
茶々は自由時間は只野と逢引きするし、忠平様からのお誘いの文も贈り物もめっきりこない。
影男さんは臺与のいる宣耀殿の大舎人になったの?というぐらい入り浸りで顔も見せない。
兄さまも姿を見せないし、文も来ない。
宮中に入ってから今までこれだけ暇になったことはないっ!!というぐらい暇になった。
だから文使いが文を届けてくれた時、
わ~~~いっ!!
ってテンションが上がって文を開いた。
・・・・のに、そこには
『伊予さん、お会いしたのも一度きりですのに、いきなり文を差し上げる無作法をお許しください。
実はx日、藤原忠平様と影男さんと三人で遊山に出かけようという事になったんですが、女子がわたくし一人では寂しいと思いまして、殿方お二人の以前の共通の恋人であるあなたを誘ってはどうかという事になりました。
ご都合がよろしければxx寺方面へ、遊山に出かけません?
自然の美味しい空気を味わったり、草花を見たり小鳥や動物の声を聞くなんて、きっと楽しいと思いますの。
臺与』
カッチーーーーン!
引っかかるところが山ほどあるっ!!
まず、恋人二人と自分ひとりの三人で逢引きする?フツー?三角関係でバチバチ男同士をぶつける?気まずいでしょ!
で、『以前の共通の恋人』っていうけど、私との関係を、『殿方お二人』とも臺与にベラベラ話してるってことよね?
で、よーするに『今は二人とも私の恋人ですのよっ!!ホホホッ!』って見せつけたいんでしょ?
で、『女子がわたくし一人では寂しい』って絶ーーーーっ対っウソっ!!
何なら、ほくそ笑んでるでしょ?
二人に捨てられて、誰にも相手にされない私が惨めに落ち込んでるところを見たいんでしょ?
そーはいくかっ!!
絶対、遊山なんていかないっ!!
私には一番の恋人、藤原時平様がいるものっ!!
そーよっ!あの二人なんてどーでもいいしっ!
あんたにくれてやるわよっ!
断ってやるっ!!
鼻息荒く断りの返事を書こうとしてふと手を止めた。
兄さまはどうなの?
この頃、音沙汰ないけど、ほんとに臺与と何もない?
あのとき二人で何を話したの?
なぜ、文もくれないの?
誘ってもくれないの?
忙しいからだよね?
って自分に言い聞かせてるけど。
不安はぬぐいきれない。
いっそ、臺与に会って直接話を聞いてみる?
それなら、野遊びって絶好のチャンスだよね?
そーだっ!!
竹丸も誘っていいか聞いてみよっ!!
もしいいなら竹丸も連れて行けば、最悪『独りぼっち』は防げるしっ!!
少なくとも竹丸だけは私の味方だよね?
幼馴染だし、友達だし。
うん、そーしよっ!!
その内容を文に書いて送り、『快諾!』となって当日を迎えた。
臺与とその恋人二人(私の元恋人ともいう)、と私と竹丸。
朱雀門で待ち合わせして合流し、私と臺与と忠平様が牛車に乗り、身分の違い上、影男さんと竹丸が歩いた。
大内裏から一刻(二時間)ほどで目的のxx寺に到着。
空を見上げると、やっと秋らしい澄んだ空気に鱗雲で、気持ちいい遊山日和!
私にしては珍しく、壺装束にして、荷物を詰めた巾着を首から斜めにかけて持ってる。
牛車を降り、門を入り、お堂の御本尊(不動明王?)をお参りしてから、唐の湖を模して築造したとされる大きな人工池を見に行った。
『池の北岸沿いに、西から、天神島、庭湖石、菊の島と並んでいて、この二島一石の配置が華道嵯峨御流の基盤とされている。』
と聞いたので、陸続きだけど、池に浮かぶ天神島へ行ってみた。
石造りの鳥居と、小さな祠にみんなで手を合わせた。
池の面は深い緑に濁って、中はよく見えない。
見渡すと、池の周囲に沿って植えられている木々には桜が多く、今は緑の葉が茂っているけど、春には池の輪郭を桜色に染める美しい景色になるんだろうなぁと想像できた。
さっきからずっとそうだけど、ここまで来るときも影男さんと忠平様は臺与を二人で挟んで、手を取らんばかりに案内してテキパキと先導し、私と竹丸はその後ろをトボトボついていく感じ。
臺与は時々二人の肩にもたれかかったり、腕に腕を絡ませたりとやりたい放題。
まぁ、いいんだけどね。
前を歩く臺与が突然、影男さんの肩に手を置き背伸びをして、耳元で何かをささやいた。
私の地獄耳が聞いたところによると
「あなたの太い腕に抱かれたときから、他の殿方では満足できなくなってしまったの。」
だった。
う~~~っ!何ソレ?!!!
あまりにも、あからさまな、品のない誘い文句にゾッとしてブルっと身震いする。
ここまで露骨なのが好きなの?
影男さんっっ??!!
(その5へつづく)