EP317:伊予の事件簿「魔性の霊鈴(ましょうのれいりん)」 その1
【あらすじ:人生最大のモテ期が、どうやら終わったらしい私は、忠平様にも影男さんにもフラれたみたいで、空気みたいに無視される。唯一最大で最後の頼みの綱は時平様だけ・・・・!なのに、新しく宮中に入った女房は得体の知れない魅力を持つ『魔性の女子』らしいから、時平様までその罠に嵌る日は、そう遠くないかも!?私は今日も、持ち前の鈍感で天然?を武器にするっ!!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
ッハァ、ッハァ!
『いつまで・・・・これに耐えればいいのっ?!!!』
ッハァ、ッハァ、ッハァ!!
『こんな・・・・地獄!!!永遠に、続くのっ?!!!』
ッハァ!!!!
『もう、嫌っっっ!!!!』
気が付くと裸足で外へ飛び出していた。
前もロクに見ず、無我夢中で門から走り出そうとしたとき、目の前にあった誰かの胸に飛び込み、頭をぶつけた。
「痛っーーーーっ!!!す、み、ませんっ!」
顔を上げると、狩衣姿の若い男性と目が合った。
私の全身に視線を走らせると、眉をひそめ、不審な表情を浮かべた。
サッと俯いて、今の自分の姿を確かめる。
小袖の衿と裾がはだけ、胸が大きくひらき、下紐が緩み、腿が露になっている。
「ご、ごめん、なさっいっ!!」
あわてて衿を合わせ、下紐をきつく結び直していると、その若い男性が優しい声で話しかけた。
「この屋敷の姫か?嫌なことをされたのか?」
首をブンブン横に振る。
「え?いいえっ!あ、あなたには、関係、ないっ!!」
真剣な目で見つめられ
「ここを逃げ出したいか?」
逃げ・・・たい?
ここ・・・を?
もし、逃げ出せば、
私がいなくなれば、
母さまの薬が買えなくなる。
私さえ我慢すれば、
アレに耐えれば、
すべてうまくいく。
たとえここが、地獄の底でも、
・・・・逃げ出すわけにはいかない!!
ブンブンと無言で首を横に振り続ける。
「もし、耐えられなくなったら、xxxxを訪ねろ。私の屋敷だ。新しい居場所を与えてやれると思う。これを侍所で見せれば通すように言っておく。」
スッと腕を伸ばし、握りしめた何かを手渡そうとする。
おそるおそる掌を上に向けて差し出し、そこに落としてもらうのを待つ。
彼が握りこぶしを開き、
ポトッ!
何かが手の中に落ちると同時にその人の指が掌に触れた。
不意に感じた温もりに、目の前の男性の実在を確信した。
ギュッと握りしめる。
もしかして
これはお守り?
目の前の人は
美しい若者の姿に変装した
神の御使者さま?
本当にいるんだ!
神さまが!
この地獄から
私を助け出してくれるために来てくれたんだ!
その男性が立ち去ろうと、横をすり抜け、少し進んでから振り返った。
「今の地獄から抜け出せたとしても、新しい地獄が待っているだけ、かもしれないがな。」
皮肉気に呟くと、背を向け足早に歩き去った。
・・・・チリン、チリンッ
『・・・・あ~~~っ!!何だか変な夢みちゃったぁ~~~~!』
朝から気分悪いっ!!
モヤモヤする~~~!
予知夢?
やけにリアルだったけど。
これから私が経験するの?
地獄みたいな嫌なことを?
でも自分の姿を見た時、手足が短くてまだ子どもみたいだった。
過去の記憶・・・じゃないし!
夢?
を覗いたのかな?
誰かに同調したの?
それともただの夢?
こんな経験、今までなかったけど。
雷鳴壺の自分の房で、まだ寝ながら、ボンヤリ考えてると
「伊予?起きてる?もうとっくに日が上ってるわよ!」
同僚の女房・桜の声に急かされ起き上がると、夢のことはすぐに頭の片隅から消えさった。
雷鳴壺にお使いにきた茶々を捕まえて、おしゃべりしてると、一週間ほど前、萄子更衣に仕えるため、宮中にあがった女房の臺与という子の話題になった。
茶々が口をすぼめ、急に声を潜め、内緒話でもするように
「聞いた?臺与って子の話?見た目は童顔で背も小さくて可愛らしいのに、肉付きが良くて胸が豊満なせいか、男性が次から次へと寄ってくるらしいの!」
イヤ・・・・それは、
「容姿だけ良くても男の人にはモテないでしょ?性格もいいとかじゃない?」
(その2へつづく)