EP316:伊予の事件簿「夢想の人影(むそうのひとかげ)」 その6
グイッ!
兄さまが単衣の下に両手を差しこみ、腰を引き寄せ、額に唇で触れた。
懐かしい、胸をときめかせる、体臭と体温。
体中から力が抜け、ぐったりとしなだれかかりたくなった。
『懇願するまで、指一本触れさせない!』
誓ったのを思い出して、どうにか抱きつくのだけは我慢する。
それでも無意識に、体ごと、兄さまの胸にもたれかかった。
頬を首元に押し付けると
吸い付くような、汗ばんだ皮膚を頬に感じ、男らしい体臭が鼻孔を満たした。
腰に回された手に意識が集中し、ゾクゾクと快感を感じようとする自分の感覚にイラ立つ。
額に柔らかい唇の感触と熱い湿った息が途切れ途切れに触れる。
「浄見、何を勘違いしてる?」
思考力が奪われ、
もっと触れられたい
陶酔に浸りたい
としか思わなくなった。
ダメっ!!
グッと全身に力を入れなおし、体を胸から起こして
「兄さまを誘惑したから、はしたないことをしたから、私に幻滅したんでしょ?もう、そばにいたくないんでしょ?」
涙をこらえて、必死に見つめる。
グッ!
腰に回した腕が硬くなり指が腰に食い込み、強く引き寄せられた。
直後に兄さまが私のあごを鷲掴みにし、唇に噛みつくように口づけた。
激しい情熱と愛情が流れ込む。
全てを吸い込まれるような気がしてクラクラする。
体の中心が締め付けられ、すぐにフワッと弛緩し快感の痺れがそこから広がる。
全身から歓喜が体液となって溢れだした。
口づけしながら、兄さまが私を押し倒した。
袴の紐を手早くほどき、押しさげると、もどかしそうに小袖の下紐をほどこうとした。
その手を握ってとどめ、
「無理しなくていいわ。私のために、してくれなくていいの。」
上気した顔に熱情をたぎらせたような目で見つめ
「さっきから何を言ってる?無理してる?浄見を愛するのに?」
下紐をほどき終え、小袖の衿をはだけ、荒々しく唇を胸に押し付けた。
激しく、しつこく、唇と舌が纏いつく。
長い指で同時に刺激される。
激しい愛撫に、すぐに悦楽の絶頂に達し、果ててしまうと、恥ずかしさに襲われた。
恍惚を残し、ぼぉっとした顔をしてる私に、もう一度口づけようとするので、唇を押さえ
「もういいわ!もうダメ!今日はもう無理。充分愛してもらったわ」
それでも無理やり唇を重ね、吸い尽くされた。
「っんんっぅ・・・っやっ!」
ハァハァと息を切らせた兄さまが
「浄見に幻滅してるだって?
触れたいのを、愛したいのを、これでも精一杯我慢してるのに。妊娠させないように。
見境なく逢瀬を重ねていれば、いずれそうなる。
我慢できなくなる。
まだ覚悟ができてないんだ。
浄見が死ぬ可能性が少しでもあるなら、先に進めない。進みたくない。
少女のままでというのは、もっと前にその歯止めをすべきだったということだ。
だが、もう、引き返せないかもしれない、いつそうなってもおかしくないから」
また唇を重ね、激しく奪われた。
グチャグチャに濡れ、過敏になったそこに、硬くなったものを押し付けようとするので
「ダメよっ!痛いの!敏感になってるの。」
少しでも触れれば、痛みを感じるぐらい、そこの薄い膜が傷ついているような気がした。
さっきまで快感をもたらした部分が、今は痛みをもたらす。
傷の修復には時間が必要。
兄さまの言うように、妊娠すれば、こんなことはしていられない。
どこであれ傷はもっと深くなるし、命の危険もある。
その危険を冒す覚悟は、私にもまだない。
冷静になればわかるけど、官能の渦の中で、それを意識することは難しい。
流されてしまいそうになる。
快楽に溺れてしまいそうになる。
少し落ち着いた兄さまが仰向けに寝がえり
「浄見、好きだ。こんなに理性を奪われるのは、浄見だけだ。だから、危ない。我を忘れそうになる。距離を取らないと、冷静じゃいられなくなる。わかってくれ」
最大限に愛してくれてる
そう思うともっと、愛おしくなった。
今度は私が最大限に愛したい。
もっと、ちゃんと兄さまのことを知りたい。
全てを理解したい。
あなたの、良き、
伴侶になるために。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
やたら気になる他人の言葉って、自分の一番気にしてる部分の自尊心を傷つける言葉だったりしますよね!