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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
314/461

EP314:伊予の事件簿「夢想の人影(むそうのひとかげ)」  その4

・・・・この言葉が兄さまの口から出たのならよかったのに。

そっくりの笑顔で微笑まれると、断り切れない。


枇杷(びわ)屋敷で、忠平(ただひら)様と夕餉を食べ終わり、おしゃべりしたりでしばらく過ごし、その時を迎えた。


小袖(こそで)姿になって、寝所の畳に座り、仰向けに寝転がろうとする忠平(ただひら)様に


「そう、そうやって横になって、腕をこちらに伸ばしてっ!!」


指示して、自分の枕を、忠平(ただひら)様の伸ばした腕の近くの、いい場所に配置する。


えいやっ!!


覚悟を決めて、仰向けに寝転がり、腕の上に頸をのせた。


すぐに忠平(ただひら)様が寝がえりをうち、もう片方の手でお腹を抱きしめようとするので、


グッ!


両手で押し返し、尖った声で


「変なことするなら、帰ります。」


言い放つと、その手を引っ込めた。


藤原元佐(ふじわらもとすけ)も恋人になったのか?やつの屋敷に通ってるらしいな?」


忠平(ただひら)様がそれ以上ゴソゴソ手を動かすことも無かったので、眠くなってきた私は


「ええ、でも、・・・深い関係じゃ・・・無い・・・」


ブツブツ言う呟きを聞き流しながら寝落ちした。


少しウトウトしたあと、不意に耳元で


「浄見、口づけしていい?」


低くて硬い声がし、痺れるような興奮が耳を震わせ、パチッと目を開いた。


薄墨色の筆で引いたような端正な目と、微笑みを浮かべた薄い唇がすぐそばにあり、今にも唇が触れそうな距離で囁いた。


隣に横たわった兄さまが上半身を起こし、片肘ともう片方の手で支えて覆いかぶさり、私を覗き込んでいた。


寝ぼけながら、無意識に腕を伸ばし、頸に絡め


「ええ。兄さま、好きよ。大好き」


唇が口を覆い、舌が入った。


歓びがあふれ、快感が体中を満たす。


・・・・はずなのに、違和感があった。


何度も舌を吸われ、唇で愛撫されても、舌でかき回されても、

いつもの快感と陶酔がなかった。


すればするほど、気持ち悪くなって、我慢できなくなり


グイッ!


手で強く体を押しのけ顔をよく見た。


忠平(ただひら)様が顔を上気させ、困惑したように見つめてる。


「騙したのねっ!!!」


瞬間的に怒りに火がつき、裏切られたことにショックを受けた。


「信じてたのにっ!!兄さまのフリして、こんなことするなんてっ!!」


すぐに身体を起こして立ち上がり、袴を身につける。

着替えて今すぐ内裏に戻ろうと思った。

一刻も早く、ここを出ていきたかった。


忠平(ただひら)様が前に立ちはだかり、手を合わせて

「ごめんっ!伊予っ!もうしないからっ!大人しく寝るからっ!今帰るなんて夜道は危ないしっ!!」


「牛車を出して頂戴っ!!」


「こんな時間になんて、内裏の衛兵も怪しんで、女房を通してくれないって!」


「じゃあ別の対の屋で寝るからっ!!」


ズカズカと歩いて出ていこうとしたら、袖を掴まれた。


「さっきのは、その、兄上とお前は、いつもあんなふうに口づけしてるんだな。私の時とは全然違う。わかったよ。お前が私を何とも思っていないことは、痛い程わかった。」


少し怒りがおさまり、冷静になった。

思ったより低い声が出た。

「二度としないでくれればいいわ。じゃあね。」


袖を掴む手を振り払って出ていこうとした。


「なぜ?影男(かげお)と添い寝した?

なぜ兄上と寝ないんだ?

そんなに好きなら。」


立ち止まって、(うつむ)くと床板の木目(もくめ)が黒々とした不規則なまだら模様を描いて周囲に広がっていた。


「それは、私が兄さまに・・・・嫌われたから。

突然、逢ってくれなくなって、寂しくなって誘惑したら、私と深い関係になったことを後悔してると言われたの」


忠平(ただひら)様が目の前に立ち、私の腕に手を添え、目を覗き込んだ。


「本当に?そんなこと言ったのか?」


思い出すだけで引け目を感じ、まともに目を合わすことができず、目をそらした。


「文字通りじゃないけど、そういう意味のことを言われた。『無垢な少女』じゃない私には用が無いみたい。」

(その5へつづく)

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