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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
312/505

EP312:伊予の事件簿「夢想の人影(むそうのひとかげ)」 その2

兄さまが意味が分からないという風に肩をすくめ

非礼(ひれい)()びたし、場違いだと思ったからさっさと退散したじゃないかっ!!私を()っていくからには、よっぽど面白い集まりかと思ったのに、ただ漢文を読んで解釈するだけだろ?それとも・・・」


眉をひそめ

「本気で藤原元佐(ふじわらもとすけ)を恋人にするつもりか?好きになったのか?さっきも求婚を受け入れてたような気がするが。」


ますますカッとし

「私を拒絶するくせにっ!束縛もするのっ?

兄さまは私と一緒に寝ないんでしょっ??!!少女のままにするんでしょっ!!

でも私はっ、好きな人に触れたいし、添い寝もしたいし、もっとっ近づきったいのにっ・・・・っうっ・・・」


嗚咽(おえつ)がこみ上げ最後まで言えず、黙りこんでボロボロ涙を流した。


スッ


兄さまが両手で頬を包み、親指であふれる涙をぬぐう。


腕を引き寄せ、抱きしめようとする。


「放してっ!!」


ブンッ!


腕を振って手を振り払った。


驚いた表情のあと、困ったように眉根を寄せた。


もっと気にかかってることがある。

口に出して聞けないこと。


欲情した顔で誘惑する女子(おなご)は嫌い?

私が多淫なのがいけないの?

純粋無垢な少女でなければダメ?

はしたない、(みだ)らな欲望を覚えるのは罪?


こんなに触れたいと思っているのは

求めているのは

私だけ?


あなたは何とも思ってないの?

平気なの?


そんなの不公平だわっ!!


兄さまが懇願(こんがん)するまで、指一本触れさせない!!

強く心に誓った。


こーなったら意地っ!!

私のことを欲しくてたまらなくなって頭を下げるまで、絶~~~~対っ触れさせないっ!!

こっちからは折れないっ!!


濡れた睫毛(まつげ)をパチパチと素早く動かし、睨みつけながら、

「もう内裏に戻るわね。大納言様。」


静かに呟く。

頬の涙は乾きかけていた。


牛車の後簾(うしろすだれ)をめくってヒラリと飛び降り、自分で持ってた履物をはいた後、牛車の中に向かって叫んだ。


「私は好きな人と、好きな時に、逢引きするし、一緒に寝るわ!

恋人は、兄さまだけじゃないのよっ!!」


涙の乾いた跡が、パリパリと引きつるような感覚があった。

傷つけようと、わざと嗜虐(しぎゃく)的に吐き捨てることで、どこか満たされた気がした。



 雷鳴壺に戻り、今日の出来事を(もみじ)更衣にお話してると、(もみじ)更衣が何か思い出したように


「そういえば、さっきも茶々(ちゃちゃ)が伊予の行方を気にしてたわ!雷鳴壺(うち)に来るたび、伊予がいないときは行先を尋ねるのよ。なぜかしら?伊予、何か心当たりがある?」


クリっとした目をパチクリさせた。


う~~~ん、

なぜ?

と言われても、心当たりもないし。

今度会ったら直接聞いてみよっ!!


夜も更け、寝る準備をして自分の(へや)に入ろうとすると、庭に影男(かげお)さんが現れた。


「伊予殿、大納言と何かあったんですか?まとまった銭とこんな命令を受け取りました。」


一枚の紙を差し出す。

手に取って読んでみると


影男(かげお)、伊予の動向を探って逐一報告してくれ。

特に、見知らぬ新しい男とどこかで会うようなことがあれば、すぐに知らせてくれ。

文使いに握らせる銭が足りなくなったら追加する。

一割は報酬として受け取ってくれ。

 時平』


はぁ?

私を監視するつもり?

影男(かげお)さんに密告(スパイ)させるのね?


何なのっ??

もし私が多情多淫な好色浮気女だったらどうだっていうの?

別れるつもり?

妻にする話も無し?


考えながら、また泣きそうになった。


自分から


「恋人は、兄さまだけじゃないのよっ!!」


って啖呵(たんか)切ったくせに

兄さまを失うかも!って想像するだけで胸が痛い。


影男(かげお)さんが(あき)れたようにため息をつき


「やっぱり大納言とまだ続いてたんですね。で、何か()めてる?あなたの浮気を疑ってるような口ぶりですが、新しい男がいるんですか?藤原元佐(ふじわらもとすけ)の他にも?」


三白眼の黒目が大きくなり、輝きを増し、口をとがらせ不満げに呟いた。

筒袖(つつそで)(和服の袖の一種で、たもとがなく筒のような形をした袖)の腕をポリポリ掻きながら話すので、そのたびに筋肉質の(たくま)しい腕がチラッと見える。


ううん!と首を横に振り

「兄さまにムカついたから、好きな人と好きな時に一緒に寝るっ!!って宣言したの。」


「じゃあ私と寝て、大納言を嫉妬させますか?」

(その3へつづく)

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