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少女・浄見(しょうじょ・きよみ)  作者: RiePnyoNaro
浄見の事件譚(推理・ミステリー・恋愛)
311/462

EP311:伊予の事件簿「夢想の人影(むそうのひとかげ) 」 その1

【あらすじ:先日の『漢文研究会』での時平様の傲慢な態度に苛立ったけれど、実はもっとずっと心に引っかかってることがある。そのせいで、罪悪感やら引け目から、不安をぶつけて憂さ晴らしする悪循環。攻撃的になるのは、触れられたくない弱点を隠すため。時平様に嫌われたと思い込んだ私は今日も虚勢を張って乗り越える!】

今は、899年、時の帝は醍醐天皇。

私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平(ふじわらときひら)様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。

私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。

何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。

私たちを乗せた網代(あじろ)車が朱雀門に到着すると、藤原元佐(ふじわらもとすけ)胡坐(あぐら)を組んだまま、身体ごと向き直り、膝の前に両手をついて兄さまに少し頭を下げた。


「大納言様、このたびは、私の浅慮(せんりょ)から、危うく伊予殿を大和国まで連れて行くところをお引止めくださり、くわえて曾祖父の暗号まで単純明快に解きあかしていただき、誠にありがとうございました。快刀乱麻(かいとうらんま)()つお知恵をこの目で直に拝見できたことは一生の宝でございます。以後、私、藤原元佐(ふじわらもとすけ)を、お見知りおきとお引き立て頂けますと、更なる幸いと存じます。私が朝廷で官人として務めを果たせるようになりましたら、必ずや、大納言様の手足となるよう、汗馬之労(かんばのろう)をいとわず・・・・」


兄さまが(あき)れたように手をヒラヒラさせ

「もういいからやめてくれっ!!ここで降りるんだろ?大学寮はすぐそこだっ!さっさと行けっ!」


シッシ!と追い払うように手を振った。


藤原元佐(ふじわらもとすけ)は私に向き直った。

ぽっちゃりとした白い頬が透き通るぐらい青ざめ、真面目な顔でジッと見つめ

「伊予殿。今日はお恥ずかしいところを見せてしまったが、次こそは貴女が結婚したいと思えるような大事を()して見せる!

それを待っていてくれ!」


あまりにも気迫に満ちた言葉に面食(めんく)らい

「・・・・はい。」


思わず答えてしまったけど、大丈夫?


途端にパッ!と明るい表情で、頬に笑窪(えくぼ)を作りながら二カッと笑い、

「今後も友人として付き合いを続けて欲しい。では、次の『漢文勉強会』で会おうっ!」


言いながら、牛車の後簾(うしろすだれ)をめくり、お尻をズリズリ移動させ、地面にピンと足を延ばしてポトリ!と落ちるように下に降りた。

葛籠(つづら)を背負ってついて来てた下人が素早く履物を差し出した。


う~~~~ん。

そんなに手間がかかるなら、(しじ)(踏み台)を持ってきてもらった方が良かったのでは?

でも全体的にコロコロして動きも可愛いから嫌いじゃない!


後簾(うしろすだれ)をめくり、顔を半分外に出し

「またねっ!!」


微笑みながら手を振ると、藤原元佐(ふじわらもとすけ)は大きく腕を振り回しながらニコニコして大学寮へ歩いていった。


顔を引っ込め、ふぅっと小さくため息をつくと、兄さまが

「で、伊予はどうする?内裏に帰る?それとも・・・」


ニヤケそうな顔をこらえながらチラ見するので、何となくイラっとして

「私も宮中に帰るわっ!!じゃあねっ!!」


牛車を降りようと膝立ちになって背中を向けると、


グイッ!


水干の背中を引っ張られ、動けなくなった。


低い、硬い、尖った声で

「なぜそんなに怒ってるんだ?ずっと。昨日もそうだ。半日を一緒に過ごそうと竹丸に文を出させ、屋敷で待っていたのに、私を無視して藤原元佐(ふじわらもとすけ)の『漢文勉強会』とやらに出かけるし、夜中まで帰ってこないし。やっと帰ってきたと思ったらすぐに怒って内裏に戻るし。」


ブツブツ言う。


フンッ!

説明しなきゃわからないのっ?!!


しかめっ(つら)で振り返り、睨み付け

「兄さまのそういう、私をいつでも思い通りにしようとするところがイヤなのっ!!簡単に操れるって思ってるところがっ!!藤原元佐(ふじわらもとすけ)の屋敷でだって、傲慢(ごうまん)な態度で勝手に乗り込んできて、サッサと出ていったし、みんなに失礼だと思わないのっ?」

(その2へつづく)

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