EP310:伊予の事件簿「完璧の至宝(かんぺきのしほう)」 その8
ビックリした私は思わず素っ頓狂な声で
「えっ?出発地点の朱雀門?に帰ってくるの?」
藤原元佐がポカンと口を開けアワアワして
「まさかっ!『朱雀を経て、倭宝に到着する。』とありますが、これは朱雀大路のことでしょ?でも朱雀大路のどこを探せばいいのか、はっきりとは分からず、現地で詳しく調べるつもりでした。」
・・・・頼りない。
大和国まで行かなくてよかった。
藤原元佐がツバを飛ばして、ちょっと睨み付けながら兄さまに突っかかり
「なぜ朱雀門だと断言できるんですかぁ?」
兄さまが肩をすくめ
「それは、この倭宝が何か?を考えればいいんだ。お前は何だと思った?」
こめかみに指をあて、ウ~~ンと考え
「それが、その、何のことやら。『倭宝在京之中、依青銅爲光。(倭宝は京の中にあり、青銅に依って光を作る。)』とあることから推測すると、青銅で作った何かだと思うんですが。」
「この漢文が魏志倭人伝の一説に似ていると言っただろ?当時の倭国、つまりわが国の様子を詳細に記してある『魏志倭人伝』は、卑弥呼について記してあることで有名だ。卑弥呼の宝と言えば?」
ハッ!とひらめき
「銅鏡百枚を魏国から賜ったって書いてあったわね?光を作るといえば鏡?つまり青銅の鏡が倭宝ってこと?」
「そう。内裏にある宝物の銅鏡と言えば?」
藤原元佐が驚愕の表情で
「まさかっ!三種の神器の一つ八咫鏡だと言うんですか?いやっ!そんなはずはないっ!『卑弥呼の鏡』とは、鏡を賜った年、つまり魏の年号である景初三年(239年)か、正始元年(240年)が刻まれた三角縁神獣鏡のことでしょ?豪族の墓からよく出土するという。
八咫鏡はもっと直径の大きい、幾何学的な文様の大型内行花文鏡でしょう?全然違うじゃないですかっ!八咫鏡は『卑弥呼の鏡』とは全然違いますよっ!!」
兄さまが静かに、首を横に振り
「卑弥呼が皇族の祖先の一人なら、例えば箸墓古墳の主である倭迹迹日百襲姫命が魏志倭人伝において卑弥呼と呼ばれたなら、魏国から賜った貴重な銅鏡を豪族たちにばら撒くだろうか?
銅鏡を賜った年号が記してあるからといって本物というわけではなく、複製品を作ったとも考えられる。」
う~~~ん、とじれったくなって口を挟んだ
「だから、結局、どっちが『卑弥呼の鏡』なの?大型内行花文鏡?三角縁神獣鏡?」
兄さまがニヤッと口の端だけで笑い
「もし私が皇族で魏国から貴重な銅鏡を賜ったとしたら、全てを門外不出にし、一枚は三種の神器の一つとして内裏の賢所に置き、そのほかは斎宮など重要な神宮に配布し御神体とする。
そして、百枚の銅鏡の中でも、見栄えがよく、豪族たちが喜びそうな文様の鏡は、その複製を作り、忠誠を誓った褒美として豪族たちに与えることにする。
つまり魏国から賜った銅鏡百枚にはさまざまな文様の鏡があったんだろう。大型内行花文鏡も三角縁神獣鏡もその一部に過ぎないのかもしれないな。」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
倭迹迹日百襲姫命の箸墓古墳の発掘が許可され、『卑弥呼の鏡』が出てくれば邪馬台国の場所や卑弥呼の正体に決着がつくでしょ!と思うんですけど。