EP309:伊予の事件簿「完璧の至宝(かんぺきのしほう)」 その7
キョロキョロ見回すと、朱雀門の近くに網代車が泊ってた。
後簾を少し持ち上げた隙間から、手が出てヒラヒラしてる。
こっちへ来い!と合図してるみたい。
藤原元佐と顔を見合わせつつ、その網代車に近づくと、後簾を巻き上げた兄さまが中に入るよう指示した。
わ~~~いっ!!
ホクホクしながら牛車に乗り込み、藤原元佐に
「大丈夫!コレで行きましょっっ!」
言ったあと、そーいえば、大和国っ??!!!
嘘でしょっっ!!
遠すぎるってっ!!
思いつつ
「まさか、ねぇ?大和国じゃないでしょ?」
ヨッコイショ!と重そうな身体を何とか牛車の中に持ち上げ、しがみつくようにして中に入った藤原元佐に話しかけた。
藤原元佐は目を丸くし
「大納言様??!!なぜお分かりになったんですか?曾祖父が作った暗号を解いたんですか?」
兄さまが肩をすくめ
「暗号というほどのモノじゃないだろ。お前の曾祖父で空海とともに渡海・帰国し無事大任を果たされた遣唐大使、藤原葛野麻呂様が作ったこの漢文は素直に読めば意味が分かるようになっている。強いて言えば、三国志の魏志倭人伝に似せて書いてあるというぐらいだな。」
藤原元佐がまだビックリした表情のまま
「ではこの漢文が大和国の平城京を示していることもお分かりでしょう?なぜ大和国へ行くなと言うんですか?」
兄さまが口の片端をニヤリと上げ
「まぁまて、まずはこの漢文の指示に従って牛車を走らせてみよう。よし、東へ向かって七坊(3.71km)分進んでくれ。」
牛飼童に命じた。
牛車に揺られてる間、紙を見ながらう~~んと意味を考え
「確かにこの漢文にはそう書いてあるけど、この『長屋』って何?途中にあるの?」
藤原元佐が胸を反らし得意げに早口で説明する。
「はい、まず
『從朱雀至倭宝、循二条路行、歷長屋、乍北乍東、到其西岸東大、七餘坊。』
の部分ですが、意味は
『朱雀から倭宝に至るには、二条に沿って路行し、長屋をへてあるいは北へあるいは東へ七余坊進み、その東大の西岸に到着する。』です。平城京の地図にこの文を当てはめてみると、朱雀門から二条大路に沿って東へ進むと、すぐに長屋王の屋敷があり、それを通り越して進むと『東大』つまり『東大寺』に到着するという意味です。」
ん??
疑問に思って
「でも今平安京でこの通り進んでも何もないわよね?東大寺は平城京にあるんだし。」
兄さまがニヤニヤしながら
「そうだな。だが、まずは一旦行ってみようじゃないか。」
しばらくして目的の場所で牛車が停止したので、外に出てみると、道端には木々が生い茂り、板塀に囲まれた鄙びた屋敷が立ち並ぶ場所だった。
「誰かのお屋敷が立ち並んでるだけで、お寺とか、変わったものは無いわね?」
兄さまが伸びをしながら
「そう。この調子で、この漢文の通り平安京をめぐっても意味はない。」
ビックリして
「はぁ?じゃあなぜここまで来たの?」
藤原元佐がもどかしそうに
「ほらっ!やっぱり平城京に行ってみないと分からないんですよっ!!平城京でこの漢文の通り進むと、最後に謎が解けるんですっ!!宝が手に入るんですっっ」
兄さまが袂から平城京の地図を取り出し、指さしながら
「平城京の東大寺から、南へ一坊進むと元興寺に着く。そこから西へ四坊進むと藤原仲麻呂邸、唐招提寺を経て北東へ四坊分進むとほら、最後に着く場所、ここはどこだ?」
(その8へつづく)