EP303:伊予の事件簿「完璧の至宝(かんぺきのしほう)」 その1
【あらすじ:同じ年代の男女が集まり漢文を読んで研究する『漢文研究会』に参加することになった。気の合う友達同士で勉強したりおしゃべりしたり、はたまた宴会するのは楽しくって仕方がない!だけど、勉強会主催者のぽっちゃり色白学生に、『古めかしい漢文の暗号は宝のありかを示している!』なんて言われれば、是が非でも宝探しについていかなくちゃ!!時平様の態度が気にくわない私は、冷たくされても仕返すことで今日も留飲を下げるっ!!】
今は、899年、時の帝は醍醐天皇。
私・浄見と『兄さま』こと大納言・藤原時平様との関係はというと、詳しく話せば長くなるけど、時平様は私にとって幼いころから面倒を見てもらってる優しい兄さまであり、初恋の人。
私が十六歳になった今の二人の関係は、いい感じだけど完全に恋人関係とは言えない。
何せ兄さまの色好みが甚だしいことは宮中でも有名なので、告白されたぐらいでは本気度は疑わしい。
空の澄んだ青さのせいで、太陽までの距離が近すぎるような錯覚を覚えた。
近すぎる太陽の、大地を焦がす混じりけのない熱で、肌が直接刺されているように感じる。
チクチクと痛むけど、汗はすぐに乾いた。
雷鳴壺で仕事していると、影男さんが文を持ってきてくれた。
無表情の三白眼でチラッと私と見ながら
「竹丸が大舎人寮で返事を待っているそうです。今すぐ書いて渡してくれれば届けます。」
文を開くと
『今日の午後いっぱいは、珍しく若殿が休日で、大納言邸にずっといる予定です!
持ち帰った事務仕事もなさそうですから、逢いに来るなら今のうちですよっ!!
竹丸』
へぇ~~~!
ホントに珍しいっ!
完全休日??!
半日だけどっ!!!
モチロン、逢いたいっ!!!
半日をずっと一緒に過ごしたいっっ!!
でも!!!
今日は先に入れてた予定があるし。
それに・・・・
最後に逢ったときのことを思い出してムッ!とした。
付き合い始めてから、私とイロイロしたことを兄さまは
「浄見を、もう少し、少女のままにしておくべきだった。」
とか言って、後悔してるような・・・・
何?あの言い草っ?!!
私がしつこく求めたみたいにっ!!
切れ長な美しい目を伏せ、ボソッと呟いた顔が目に浮かび、胸がギュッとなる。
自制心がきかない多淫な女子だと思われてたらどうしよう?
バカなことした・・・?かも
後悔して凹む。
先に入れてた予定は、茶々からのお誘いで参加し始めた
『藤原元佐主催の漢文勉強会』
の第三回目。
茶々の妹の恋人が大学寮の明経道の学生で、そのツテで茶々が学生を二人紹介してもらい、その学生三人と、私、茶々、茶々の妹の三人、計六人で漢文を学ぶ勉強会をしましょうということになった。
茶々の目論見では単純に集まってワイワイおしゃべりして距離を縮めようってことだけど、目的が無いと集まりにくいので、一応、その回ごとに決まった課題の『漢文』を読んで一人ずつ解釈を発表して、議論し合う『勉強会』という体になった。
第一回・二回ともに藤原元佐という学生のお屋敷で開催されて、第三回の今回も同じ場所で行われる。
第一回の課題は『三国志』のなかの『赤壁の戦ひ』の部分。(*作者注:三國志卷五十四/吳書九/周瑜魯肅呂蒙傳第九)
第二回は『三国志』のなかの『魏志倭人伝』の部分(*作者注:三國志卷三十/魏書三十/烏丸鮮卑東夷傳第三十)
だから第三回も同じ『三国志』と思いきや、『韓非子』の『和氏之璧』の部分。(*作者注:『韓非子』和氏 第十三、『新序』雑事五)
藤原元佐は曾祖父が遣唐使で唐の国まで渡って無事帰ってきた立派なお方だから、それが自慢みたい。
茶々の実家の牛車が待賢門まで迎えに来てくれるのでそれに乗り込む予定。
もうすぐ迎えに来てくれる時刻だから急がないと!!
どーしよーーっっ!!
あぁーーーーっっ!
どっちに行くか早く決めないとっっ!!!
兄さまのいる大納言邸?
それとも、藤原元佐主催の漢文勉強会?
どっちにしよう??!!!
(その2へつづく)