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第十話 雪片くん、鈴蘭ちゃんと朝の準備をする

 翌日。朝の日差しが部屋に差し込む中、俺は眠っていた。


 ピンポーン。


 テスト期間に入ったため、昨日からバイトをしばらく休むことになった。そのため、昨日は佐藤の作った夕食を取ったあと、テスト勉強を行い就寝した。


 ピンポーン、ピンポーン。


 しっかり栄養が体に行き渡ったからか、結果としていつもより質のいい睡眠が取れたのだが、だからこそ蒲団が恋しく、俺は二度寝を味わっていた。


 ピピピピピピピピンポーン。


「だぁぁぁぁぁっ!! うるせー!! 誰だ朝から近所迷惑な!!」


 さっきからしつこく鳴らされているインターホンを押す人物に、俺はキレた。こんな朝から何の用だとひと言物申してやろうと思い、飛び上がるように蒲団から出て勢いよく扉を開けた。


「おはよう、千島くん♪」

「――っ!?」


 そこにはうちの学校の制服を身に纏ったゆるふわロングの美少女が笑顔で立っていた。よく見るとその美少女は俺の大恩人でもある佐藤鈴蘭だった。突然来訪した彼女に名前を呼ばれた俺は固まってしまう。


(どうして佐藤が朝から来ている?)


 疑問を解決するために、目覚めきっていない頭で昨日の記憶を探ると、夕飯を作ってくれたあと、片付け中にこんなやり取りがあったのを思い出した。


『なあ、夕飯の礼だが何をすればいい? 金なら今は無いぞ?』

『お金って......まあ夕飯の材料費は請求するつもりだけど、期限無しの後払いでいいし手間賃とかは要らないよ?』

『そう言われてもな。働いた以上、対価は必要だろう?』

『あのね、わたしに払うお金があるなら、そのお金でまともな食事をしてよ。すっごく心配になるから』

『なら、どう返せばいい?』

『だったら、明日から一緒に登下校して欲しい』

『そんなことでいいのか?』

『いいの。とりあえず明日から起こしに行くから、待っててね♪』


 以上、回想終了。つまり佐藤は俺と登校するという約束通り訪ねてきたにもかかわらず、いつまで経っても俺が出て来ないから仕方なく迷惑行為に及んだと。答えに至った俺は無言で佐藤を招き入れ、ドアが閉まったことを確認し土下座した。


「すまん佐藤! すっかり忘れてた!!」

「うん。格好見たらわかったから気にしてないよ。だって千島くん、思いっきり私服だもん。それより朝ご飯食べた?」

「いいや。何せさっき起きたからな」

「そんなの自信満々に言わないでよ。ちょっと待ってて。お米だけなら昨日から炊いてるから、あっちのお部屋で待っててよ」


 茶碗を用意してご飯をよそい、寝室兼リビングにあるテーブルの上に置く佐藤。ぞこで今日初めて時間を確認したが、まだ七時にもなっていなかった。


「おい、来るの早すぎないか?」

「あはは、久しぶりに誰かと登校するから、つい早起きしちゃって。でもそのおかげで千島くんが朝ごはん食べられたんだから許してね」


 ウインクしながら謝る佐藤。あざといと内心思いつつ、俺の目は佐藤の両手に向いた。何故か洗濯カゴを下げていたからだ。


「そうだな。それで、どうしてお前は洗濯カゴを手にしてるんだ?」

「時間的に洗濯も出来そうだったからついでにね」


 そう言いながらベランダへの戸を開け、設置されている洗濯機に洗濯物と洗剤を入れ、洗濯を始めた佐藤。ありがたいがそこまでしなくてもいいぞ?


「言っておくけど、千島くんのためでもあるんだよ?」

「どこがだ?」

「この時間に起きたら、ご飯も食べられて洗濯も出来る。そして遅刻の心配もなく登校も出来るってわかったよね? 毎朝このくらい早く起きるように心掛けたら、生活改善に繋がるよ?」

「お、おう。善処する」


 佐藤の口から出た理由は、文句なしに俺のためになるものだった。俺の破綻寸前の生活を立て直すつもりなのだから当然かもしれないが、あまりにも佐藤に得がなさ過ぎる。


「なあ、本当に登下校を一緒にするだけでいいのか? 他にも何かした方が」

「千島くんが元気になったら何してもらうか決めるから、今は要らないよ」

「そうか。食い終わったから片付けるぞ」

「わたしがするから、その間に着替えててよ」


 茶碗と箸を俺から奪い取った佐藤は、そのまま洗い物を始めた。仕方がないので俺は私服から制服に着替えた。もちろん、佐藤に見えないようにキッチンとリビングを隔てる扉を閉めてからだ。


(にしても、俺がまともに生活送れるようになったら、佐藤は一体何を頼む気だ?)


 内容不明というのも恐ろしくはある。もしかしたら何も思い付いてないので、単に先延ばしにしているだけかもしれないが。と、いつの間にか洗濯機の駆動音が聞こえなくなっていた。


「あっ、洗濯機止まったね。終わったのかな?」

「蓋を開けられるから、そうみたいだな。よし干すか」

「うん♪」


 二人で分担して洗濯物を干したのだが、背が低い佐藤はなかなか苦労していたようだった。干し終わったあとで今度踏み台持って来ようと呟いていたのだが、まさか入り浸るつもりなのか?


(いくら同級生で、生活が心配だからって一人暮らしの男の家に足繁く通うことはしないだろう。気のせいだ)


 妙な胸騒ぎがしたが、常識的にないと考え切って捨て、やることも済んだので一緒に家を出た。出会って数日しか経っていないが、佐藤と行動を共にしていることに俺は一切違和感を覚えていなかった。

お読みいただきありがとうございます。

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