第十一話 雪片くん、鈴蘭ちゃんと登校する
ストックに余裕はないのはわかっているけど、それでもついやってしまうんですよね。
佐藤との登校中、昨日引っかかった信号に今日も足止めされた。だが今日はいつもと違い焦りは無い。何故ならば歩いても遅刻することなく辿り着けるから。待っている間、佐藤との歩く速さの違いが話題となった。
「千島くんって、歩くの速いよね?」
「俺は普通だ。どっちかというと佐藤が遅いんじゃないか?」
「わたしだって普通だよ。あっ、わかった。千島くん体が大きいからその分歩幅が広いんだよ」
なるほど一理あるな。だが逆に言うと佐藤の体が小さい分歩幅が狭いとなるわけだが、それはいいのか?
「はぅぅ、確かにそうとも言うけど、女子は大体こんなものだと思うよ。誰かと話してたら歩くのもっと遅くなるし」
「そうか。信号変わったから行くぞ」
「あっ、待ってよ」
横断歩道を歩く俺だが、さっきまでとは打って変わって、佐藤に無理のない速度で歩むことにした。露骨にゆっくり歩き出した俺に、佐藤は目を丸くしていた。
「その、ありがとう」
「別にいい。このペースでも間に合う以上、無理して急がなくていいからな」
「君って不器用というかぶっきらぼうだよね。優しいのは伝わるけど」
「うるさいぞ」
何と言っていいのか、佐藤に褒められるとむず痒いと感じるため、俺は憎まれ口で返した。
「言い返せてないよ。そうだ、うるさいと言えば、朝のこと謝らないとね」
「そうだな。お前の呼び鈴連打も、俺の怒鳴り声も迷惑だったよな。あとで一緒に謝りに行くか」
「そうだね」
俺の部屋の隣は空室だが、下には大学生くらいのカップルが住んでいるので、騒ぎが聞こえただろうからお詫びに行くつもりだ。ちなみに俺の住んでいるアパートは三階建てで部屋も各階に二つと少ない。大家さんの家賃収入が、学生ながら心配になった。
「あのさ、今後こういうことが起きないように、どうやって起こしたらいいかな?」
「携帯に連絡すればいい。番号教えるぞ?」
「もう、持ってるなら早く言ってよ!」
ポケットから携帯を取りだし、佐藤の番号を登録したのだが、佐藤が俺の携帯を見て、
「またずいぶんと古い機種だね。まあそれはともかく、充電少ないけど大丈夫?」
「滅多に使わないからな。一週間に一回の充電で事足りる。それに電池切れでも困らん」
親族からかかってくることもほとんど無く、バイト先からもほとんどかかってこないため電話をとる機会も無い。逆に俺からかける機会も少ないので、ただ持っているだけに近いのだ。佐藤の番号を登録したから、これからは変わりそうだが。
「もうちょっと充電しておこうよ。じゃないとまた連打するよ?」
「気を付ける」
「そういうわけで、明日から連絡して起こしてあげるね」
期せずして、美少女のモーニングコールを受けられることになった俺。さらに手作りの朝食もセットだ。あまりにも至れり尽くせりなのであとが怖い。と、そういえば佐藤はいつ起きているのだろうか?
「それは助かるが、佐藤が寝坊することもあるだろ?」
「あるのはあるけど、それでも六時半には起きてるから今日の千島くんよりも早いよ。わたし早寝早起きだから」
寝坊しても六時半なら、普段は六時かもっと早くに起きているのだろう。よくもまあ起きられるものだと感心した。
「俺も十一時までには寝てるから、割と早寝だと思うんだが」
「わたしはいつも十時には寝てるからもっと早いよ。でも千島くんの場合、疲れてるのと栄養不足で、その分体が睡眠を欲してるんじゃないかな?」
それはあるかもしれない。そして俺よりも佐藤の就寝時間が早いということもわかった。よくもまあそれで他のやつらと話が合うな?
「ドラマとか見てなくても、意外と何とかなるものだよ。とと様やかか様の世代ですら、割とテレビ離れ進んでたし」
「お前、両親を変わった呼び方してるんだな。何でだ?」
普通に生きていたら滅多に聞かないような古風な呼び方だったので理由を誰何すると、佐藤は苦笑しながら些細な理由だと前置きして答える。
「あはは、子供の頃じじ様の家で時代劇見てから、こういう呼び方して定着しちゃったんだ」
「まあわからんではないな」
俺自身はそうでもなかったが、テレビやネット番組の真似をする子供なんかはたまにいた。佐藤もそういうタイプの子供だったのだろう。
「ちなみにこういう風に、家族の呼び方も会話の糸口に出来るからね。覚えておいて損はないよ。ところで千島くんは――」
「悪いが、子供の頃に両親とは死別したから覚えてない」
「あっ......ごめん」
聞かれる前に自分から両親のことを語った。誤魔化すことも出来たのだが、佐藤には嘘をつくべきじゃないと考えての判断だった。だが、正直に答えたからこそ気まずい空気になってしまったため、少しフォローを入れておく。
「謝らなくていい。そもそもかなり昔のことでほとんど覚えてないからな。それよりも下手な同情や可哀想な目で見たりするのはやめてくれ。それと言っておくがこれ話したのお前が初めてだからな」
「......そっか。同情しないとは言えないけど、そういう目で見ないようには努力するよ」
「すまん」
これ以上地雷を踏むのを避けるためか話題を振って来なくなり、学校前の坂道が見え始めるまで俺と佐藤は一言も発さずにただ歩いていた。その後誰かに見られて勘ぐられるのを避けるため、俺と佐藤は坂の前で別れて別々に登校したのだった。
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