#8.1 スイートポテト号(仮)
ボートは港に到着。
そこには、大きな船が一隻、停泊している。ボートから降りた冒険団一行は、その大きな船を下から見上げている。当然、これに乗れということだろう。それ以外に、乗り物らしいものは無い。
船の横に船名が書いてある。”スイートポテト号(仮)”だ。
ヒロは嫌な予感しかしなかった。船名のネーミングセンスを疑ったようだ。ヒロはバインダーを開き、地図を確認する。世界の出口は、この海だか湖の向こうにあるらしいと確認する。
三人が並んで船を見上げていると、エリカが左右を確認している。左右とはココナとヒロのことだ。で、見上げている二人の隙に、一気に駆け出し、更に船の横の階段を駆け上がった。
船上の人となったエリカが早く来いと手を振る。
ココナが”行きましょう”と合図を送ると、ココナに続きヒロが船の階段を上がっていく。
「ようこそ、当艦へ」
ココナに敬礼して迎えるエリカがいた。ヒロがその後に続く。
「お前も乗艦するのか」
ヒロは『当たり前だ』と言おうとして「お願いします」と言い換えた。
何か、下手に出た方がいいような気がしたようだ。
「良かろう。歓迎しよう」
ヒロにも敬礼して迎えるエリカが、航海の安全を祈って険しい顔を船首に向ける。ところで、”スイートポテト号(仮)”は戦艦なのか? ただの客船にしか見えないが。多分、エリカの頭の中では、そうなのだろう。
ブリッジに侵入した三人は出航の確認をする。乗り遅れた者がいたら大変だ。見れば分かるのだが、艦長は規則にうるさい。エリカは二人の前で演説を始める。
「諸君らの生命、財産は私が預かった」
返す言葉もない二人だった。
いつの間にか艦長の帽子を被っているエリカが出航の号令をかける。ちなみに、この船は全自動らくらく運転機能が備わっている。
久しぶりの登場の大五郎Sが号令に合わせてボタンを押すと、大きな汽笛と共に、船は港を後にする。船は快調に波を掻き分け、船だけが知っている目的地に向かって進む。自動運転なので誰も梶を操作していない。多分、どこかに着く。
◇◇
船は進み、周囲が水平線だけになった頃、エリカは時々欠伸をしながら前だけを見ている。ココナは適当な椅子に座り居眠り中だ。ヒロは双眼鏡で何も変化の無い周囲を適当に見ている。
そのヒロが、何かを発見した。
「何か、ある」
「正確に報告したまえ」
「あれは、…人だ」
「何? 人だと」
”人”と聞いてココナがガバッと起き上がり、ヒロの隣に立った。ヒロのドキドキが始まったようだ。
「どこですか」
「あそこです」
ココナの疑問に指をさして教えるヒロ。もう一度、双眼鏡で確認しようとすると、それをココナが奪い、”あそこ”を探す。双眼鏡を取られたヒロは隣のココナにドキドキしていたようだ。
双眼鏡の倍率を上げると、救命ボートに乗った人が、こちらに向かってオシッコをしている。間違いなくオスだ。こちらに気づいた ”人” が、手も洗わず、手を振っている。何かの合図だろうか。こんなところで水遊びとは呑気だ。
「リョウ!」
ココナがいきなり叫び出す。その名を知っているのはココナとエリカのみ。ヒロには、それが人の名前だとは分からない。それよりも、自分達以外に人がいることに驚く。
「助けなきゃ」
ココナは、持っていた双眼鏡をヒロに押し付けると駆け足でブリッジを出る。それを追いかけてヒロもブリッジを出るが、ココナは何の迷いもなく海に飛び込んだ。海面まではかなりの高さだが、眼中にないようだ。シロは飛び込む前に避難していた。ところで、ココナは泳げるのか?
「ココナさーん」
ヒロが叫んでも聞こえるわけはない。はなから聞く気もないようだが。
ココナの行動に気づいたエリカが船を止める。
「エンジン停止。錨を降ろせー」
例によって大五郎Sがボタンを押す。続けてエリカは右手を水平に伸ばし叫ぶ。
「出でよ、イルカ x 2」
ヒロが急いでブリッジに戻ると、伸ばした右手をそのままヒロに向ける。
「救助隊出動、救助せよ」
「は」
ヒロが急いでブリッジから出ようとしたが、振り返る。
「どうやって?」
「馬鹿者! 救命艇で急行せよ」
「はっ」
◇◇
その頃、ココナは海を泳ぐが、ちっとも前に進んでいない。
これではココナが遭難しそうだ。
そこに、二つの背びれがココナに近づく。サメか? 背びれの一つが浮き上がり、イルカがココナにウィンクする。”俺に掴まれ”と言っているようだ。背びれを掴むと、イルカは全力で泳ぎ始める。とてもじゃないが捕まっていられる状態ではない。ココナは直ぐに手を離してしまった。
”チッ”と舌打ちしたイルカは、2匹揃ってココナの下に潜り、ココナを持ち上げるように前進。猛スピードでリョウに接近する。
ヒロは救命艇を飛ばしながら、”リョウって誰?”と妄想を繰り広げている。エリカは、……まあ、相変わらずだ。
リョウのすぐそばまで来たココナ、そこはさっき、……それは忘れて、イルカは急減速し、ココナをリョウのところまで吹き飛ばした。宙を舞うココナ、それをうまいこと受け止めてゴールだ。
抱き合う二人。お互い、ここにいることを不思議に思って……いない。出会えればそれでいいようだ。
少し遅れてヒロが到着。抱き合う二人を見て、開いた口が塞がらない。悲しいやら何やらで複雑な気分だ。それが”リョウなんて嫌いだ”という感情に変換され、リョウを羨ましく、嫉ましく、悲しく、とにかく、いろんな負の感情が渦いまいた。
だが、救助隊員としての使命は忘れていなかった。
二人を救命艇に乗せたが、リョウの乗っていた救命ボートをどうするかで悩む。救命艇で引っ張って行こうかと考えたが、この”引っ張る”というところが心のどこかで拒否する意見があったようだ。結局、救命ボートは放置していくことにした。
救命艇を操縦しながら、その後方で仲のいい二人をチラッと見ては、ヒロは無表情で、エリカの待つ、いや、待っているかどうか分からないが、船を目指す。もし今、夕日があれば多分、”夕日が目にしみるぜ” と言いたかったに違いない。
ヒロ達を出迎えるエリカ。
ヒロはムスっとしていたが、エリカに顔を見られないように下を向き小声で「ただいま」と言って、通り過ぎた。
リョウがエリカを見て「おお、エリカ」と驚いたように言うと「艦長と呼べ」と返ってきた。そしてココナとエリカは無言で握手を交わした。何か通じるものがあるのだろう。ココナとリョウは客室に行き、リョウを回復させる。ブリッジに戻ったエリカの元にヒロが戻ると、ヒロは椅子に座り、ため息をひとつ。そんなヒロにお構いなくエリカが号令を発する。
「錨を上げろ。出発だ」
船は、どこかに向かって突き進む。




